モグリ俳優をキャスティング候補に挙げたとき、まず起こるのは“見えるリスク”と“見えないリスク”の書き出しだ。業務上の義務履行、放送基準、スポンサー対応、保険の適用可否、それに撮影スケジュールの狂い具合──こうした項目をひとつずつ点数化して、総合的なリスクマップを作ることが多い。僕は過去に、事前確認が甘かったことで撮影後に大きな差し替えコストが発生した現場を経験しているので、数値化とシナリオ別の費用見積もりは欠かさない。
具体的には法的・契約的な側面、財務的影響、制作進行への支障、広報・評判リスク、そして現場の士気への影響という五つの軸で評価する。たとえば、労働保険や源泉徴収の未整備があれば放送局や配信プラットフォームから放映停止や罰則を受ける可能性があるし、スポンサー契約にはコンプライアンス条項が入っていることが多いから、信頼失墜による契約解除のリスクも無視できない。私はこうしたケースで、事前に弁護士や保険ブローカーと相談して“起用しても払い戻し可能な保険が効くか”“最悪のケースを想定した補償スキームをどう設計するか”を確認する習慣がある。
リスク軽減の実務面では、まず身元・税務・所属の三点確認を徹底する。必要であれば短期のテスト契約やクレジット表記の制限、支払いを分割して最終確認後に残金を払うといった段階的な手当てをする。撮影の備えとしては、重要なシーンは予備の俳優でカメラを回しておく、またはリハーサルで想定問題を洗い出して台本や演出の調整余地を残すといった実務的な“保険”も役に立つ。結局、どれだけクリエイティブに惹かれても、僕はリスクの最悪ケースが作品全体を潰してしまう可能性を常に天秤にかける。最後に判断するのは、プロジェクト全体の耐久力と関係者が受け入れられるリスク許容度だ。