感情の小さな波を大切に扱えば、物語は深くなる。僕は過去を劇的な回想で一気に見せるよりも、小さなディテールで徐々に明かしていくことを好む。
撮影ではクローズアップを多用して、手のしわや指先に残る傷、古い切符や日記のページなどを丹念に拾うと効果が出る。カットのリズムを変え、会話の間を生かして沈黙が意味を持つように編集していく。挿入歌やスコアは露骨な説明を避けるために極力抑えめにし、逆に環境音を強調して記憶の断片性を表現するのが狙いだ。あえて語り手の信頼性を揺らす方法も面白い。たとえば、当人が覚えている「やさしい記憶」と周囲の他者から語られる事実に微妙なズレを残すことで、観客に過去の輪郭を自分で組み立てさせる。
映像的な参照としては、'グラン・トリノ'のように老人の言動が過去の痕跡と結びつく描写から学べる点が多い。結局のところ、重要なのは同情を強要するのではなく、観客が
好々爺の人生を少しずつ理解していく体験を設計することだ。