短いフレーズでも翻訳で意味が変わる例は案外多い。'ハリー・ポッター'シリーズの「I solemnly swear that I am up to no good.」は、英語だと遊び心を込めた儀式的な軽さがあるが、日本語訳だと「私はいたずらを企んでいる」や「厳粛に誓う」といった表現に分かれ、どちらを選ぶかで受け手の印象が変わる。前者は軽やかな共犯意識を作り、後者はやや硬い宗教的・儀式的な響きを与える。
言葉の選び方で作品の輪郭がずれる好例は、'新世紀エヴァンゲリオン'のいくつかの台詞に見られる。特に有名なのは「逃げちゃダメだ」という繰り返しで、原語だと感情の層や葛藤が短いフレーズに凝縮されている。でも英語字幕や吹き替えでは単純に "Don't run away" と訳されることが多く、そこから受け取る重みが薄れる。日本語の「〜ちゃダメだ」は命令と自己への叱咤が混ざっていて、場面によっては他者への促しにも、自分への喝にも聞こえる微妙な温度があるのだ。