翻訳を始める前にまず念頭に置くのは“蜘蛛という存在感”を英語でどう出すか、ということだ。原作の内面描写が多い作品なら、とくに口語と文体の幅を意識する必要がある。小さくて生き延びるために必死な生物としての視点は、短い断片的な文やざっくばらんな一人称のつぶやきで表すと英語圏の読者にも伝わりやすい。ここで重要なのは過度にフォーマルにしないこと。自然な会話調に落とし込みつつ、キャラクターの成長に合わせて語り口を変えていく作業は慎重に行う。
擬音語と効果音は、ビジュアル表現と密接だ。英語圏の定番SFXに置き換えるだけでなく、フォントの太さや吹き出しの形でニュアンスを残す工夫をする。さらに、ネタや駄洒落(ウェブ・スピンや糸にまつわる語遊びなど)は直訳よりも意訳で笑いを取りに行くべき場合が多い。私は文化参照を丸ごと差し替えるのではなく、同じ感覚を呼び起こす英語表現を選ぶことを優先している。
背景テキストやステータス画面は読みやすさを優先して再配置することがある。注釈を多用するとテンポが死ぬので、必要なら扉ページや巻末で補足を入れることを考える。たとえば、'So I'm a Spider, So What?'のような作品では、コミカルな自己分析と世界設定が混ざるため、語彙の統一とトーン管理に特に気を配ると全体の読み味がかなり良くなると思う。