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販売・会計寄りの視点で考えると、私はまず損益分岐点(BEP)を明確にする。簡潔に言えばBEPは固定費 ÷(1部あたりの貢献利益)で求める。例を挙げると、固定費を年間1,800,000円(編集・デザイン・ISBN・初期宣伝等)、1部あたりの受取額を600円、可変費(印刷+物流)が250円だとすると、1部あたりの貢献利益は350円となる。これを用いると年間の損益分岐点は約5,143部(1,800,000 ÷ 350)で、月1万部の目標なら十分に回収・黒字化が期待できる。
ただし現実には毎月安定して1万部売れる保証はなく、流通構造(書店流通比率やネット直販比率)、返品率、季節変動を織り込む必要がある。直販の比率を高めれば1部あたりの取り分は上がるが、顧客獲得コスト(広告費や決済手数料)は別途計上されるため、広告CPAを1,000円と想定すると月1万部獲得のために広告費が1,000万円かかるケースもあり得る。私は慎重に、広告効率と販売チャネルごとの単価を分けてPLを作ることを勧める。
印刷方式の違いを中心に検討すると、私はいつも二つの道を比較する。ひとつはオフセット印刷で大量一括製造、もうひとつはプリント・オン・デマンド(POD)。月10,000部という規模だと、通常はオフセットが有利になることが多い。
仮にPODの1部当たりコストが500円で、オフセットの1部当たりコストが200円、オフセットの版下・版代など初期セットアップ費が200,000円だとする。オフセットで10,000部を刷る月は印刷費が200円×10,000=2,000,000円+セットアップ20万円で2,200,000円。一方PODなら500円×10,000=5,000,000円となり、その差は2,800,000円にもなる。長期的に毎月1万部を安定して販売する見込みがあるなら、私はオフセットを選んでセットアップ費を早期に回収する方が合理的だと判断する。
ただし倉庫保管費や返品リスクも加味すると、実売率が低い(売れ残りが多い)場合はPODの方が損失を小さくできる。売れ行きが不安定であればPODで最初の数か月を様子見し、その後オフセットに切り替える戦略も現実的だ。
目標が月1万部なら、まずは販売価格と流通マージンから逆算するのが合理的だと考える。
実務的に私は、標準的な書籍の定価を1,200円と仮定する。書店流通での仕入れ割引を50%とすると、出版社側の受取は1部あたり約600円になる。ここから印刷費で1部あたり約220円(10,000部ロットを毎月回す前提)、配送・倉庫・返品引当で1部あたり約60円、決済手数料やバーコード管理などでさらに約20円を見積もると、可変費は合計約300円/部となる。
固定費は編集・校正・デザイン・組版で初期におよそ120万円、毎月のマーケティング費を50万円と見積もる。月10,000部売れた場合の出版社受取は600円×10,000=600万円。ここから可変費300円×10,000=300万円を引くと粗利益300万円。さらに毎月のマーケティング50万円と、初期費用の償却(仮に12か月で120万円を割ると10万円/月)を差し引いて、月の純利益は約240万円になる。
この計算はあくまでモデルケースで、返品率(書店返品は5〜15%が普通)や季節変動、電子版の比率、販促効果で大きく変わる。私はこうした感度分析を数パターン作って、最悪・標準・楽観の三シナリオで回収見込みを出すことを勧める。
長期的な収益観点を入れると、私は一冊あたりの生涯価値(LTV)を見積もることを勧める。たとえ最初の月に回収が薄くても、続刊・電子版・翻訳・映像化権・グッズ等で回収幅が広がることが多いからだ。
具体的にはまず月1万部の販売で得られる粗利を算出し、その後に電子版の追加売上や既刊の継続販売率、二次利用の確率を掛け合わせて期待値を出す。たとえば月1万部がヒットして継続的に売れ、電子版や海外翻訳で追加で年間数百万〜数千万円を生む可能性があるなら、初期投資の回収期間は短くなる。短期の回収だけで判断せず、私は権利収入や派生商品を含めた収支計画を作ることが最も現実的だと考えている。
販売チャネル別に分解して考えると、私は販売ごとの粗利構造が重要だと感じる。例えば一般流通(取次)経由は割引率が高く受取が少なくなるが、流通力と書店露出が得られる。一方で自社EC直販は受取が大きいが集客コストを負担する必要がある。
数字で示すと、一般流通での出版社受取を1部あたり600円、自社ECでの受取を1部あたり1,050円(定価1,200円−発送・決済等コスト150円)と仮定する。月1万部の目標を50%流通・50%直販で達成した場合、総受取額は(600×5,000)+(1,050×5,000)=8,250,000円になる。ここから印刷費や広告費、物流を差し引いて回収見込みを計算する。私はこのようにチャネル別に損益を割り出す方法が現場で使いやすいと考えている。