目に焼き付いたあの不可思議な場面が、今の漫画表現に静かに影響を残している気がする。
僕が最初に
諸星大二郎の作品を手に取ったとき、そこにあるのは単なる妖怪譚でもホラーでもなく、民俗学的な厚みと古い物語を現代語に変換する手つきだった。現代の作家たちが地方の伝承や古い書物を引っ張り出してきて、その断片を物語の核に据える手法は、彼のやり方と直結していると思う。
さらに語り口の曖昧さ──説明をあえて残す余白、情景描写の細密さと台詞の簡潔さの対比──が読者の想像力を刺激することを教えてくれた。漫画のコマ割りやリズムにおける実験性、そして伝説や神話を“現代の不思議”として再提示する姿勢は、恐怖やファンタジーのジャンルを越えて多くの作品に受け継がれている。個人的には、その余白があるからこそ、読後に深く考え込む体験が生まれると感じる。