二度と待たない、私のための人生私を待たせるのが、榛名律希(はるな りつき)の癖だった。
律希の会社の危機を救うため、妊娠五ヶ月の身である私、瀬戸琴音(せと ことね)は大晦日の夜に彼の代理として接待の席に赴いた。
会食の席で周囲から律希について尋ねられた時も、私は無意識のうちに彼を庇う言い訳を口にしていた。
いつ迎えに来るのかと尋ねると、律希は「もう少し待て」と言った。
だが彼は、私からわずか十メートルしか離れていない車の中で、かつて援助していた女の子と逢引きしていたのだ。雪が降りしきる極寒の中、妊娠中の私を放っておいたまま。
帰路で大渋滞に巻き込まれた時、下半身から温かい血が流れ出すのをはっきりと感じた。
顔を上げて律希に助けを求めたが、彼は相変わらず「もう少し待て」と言うだけだ。
窓ガラスに反射する彼のスマホ画面。彼は、女の子とのトーク画面を一番上にピン留めし、楽しそうにメッセージを送り合っていた。
私とお腹の子供の命は、あんな女の子一人にすら及ばないというのか。
午前零時。新しい年の訪れを告げる、除夜の鐘の音が遠くから響き渡った。
もう二度と、私は立ち止まって彼を待つことはしない。