僕は音楽を聴きながら物語の層を探るのが好きで、'
マトリョシカ'のサウンドトラックでも作曲者がその“入れ子”構造を音で表現しようとしたのがすぐに分かった。具体的には、楽器の選定と配置で登場人物や場面ごとの“内側”と“外側”を描き分けている。たとえばバラライカやアコーディオンのような素朴な響きを前景に置きつつ、背後に電子的なパッドやリヴァーブの層を重ね、聴覚的に何重にもなった世界を作っている印象だ。
リズム面でも重視点がある。単純な拍子を崩したり、あえて小節感を曖昧にすることで“不安定さ”や“歪み”を演出し、物語の進行と呼応させている。短いフレーズが断片的に回帰するモチーフ手法は、ネストされた人形が繰り返し現れるイメージとぴったり合っている。こうした断片を異なる楽器で受け渡すことで、登場人物の関係性や心象の変化が音で明確になる。
制作面では、音の質感を大事にしていると感じる。アナログ機材の歪み、テープライクな揺らぎ、空間系エフェクトの細かな調整で“古さ”と“現代性”を同居させ、観客を作品の世界へと引き込む。こうした点は、'パンズ・ラビリンス'のサウンドトラックで観られる幻想性の作り方と通じるところがあるが、'マトリョシカ'ではもっと小さく、繊細に“入れ子”を意識していると感じている。