翻訳の現場でよく目にするのは、元の語感をどこまで残すかという選択だ。
私は長年、外来語の扱い方を観察してきたが、'
マトリョシカ'という語は典型的なジレンマを抱えている。安全牌はカタカナの音写で、最もポピュラーなのが『マトリョーシカ』または『マトリョシカ』と書くパターンだ。どちらを使うかは媒体や時代、翻訳者の好みで割れる。音を忠実に再現したいなら『マトリョーシカ』と伸ばしを入れることが多く、親しみやすさや横文字感を抑えたいときは『入れ子人形』や『入れ子玩具』とカタカナを補足する和訳を添えることがある。
児童書や一般向けの解説では、読者の理解を優先して『入れ子人形(マトリョーシカ)』のように二段表記にするのが有効だ。反対に歌詞や小説の中では外来語の持つ異国情緒を生かすためにカタカナ単独で置かれることが多い。例えば日本のネットシーンや音楽の翻訳では、タイトルそのものを'マトリョシカ'のカタカナで残す例が目立つ。
最終的に私は、文脈と読者を見て判断すべきだと考えている。固有名詞感や文化的な距離感を残したければ音写を、意味の説明を重視するなら説明語を添える。どちらを選んでも、注釈や一文の補足で読者の混乱を避けられると感じている。