再婚したら、元夫と息子が泣いてるんですが?
氷室彩葉(ひむろ いろは)が流産し、たった一人で絶望の淵にいた日。夫の氷室蒼真(ひむろ そうま)と息子は、彼の「特別な女性」を喜ばせるため、彼女が愛してやまない舞台を観劇していた。
「お前はいつもそうだ。騒いでも意味がない」
「パパ、ママを替えてよ。あの人、すっごくウザいんだ!」
愛する夫は、忘れられぬ女の誕生日を祝い、命をかけて産んだ息子は、自分からすべてを奪ったその女を守ると誓う。
彩葉は血が滲むほど唇を噛みしめて微笑むと、五年もの間自分を縛り続けた結婚という名の牢獄に、自ら別れを告げた。
彼女が出ていってもすぐに泣きついて戻ってくる──そう信じて疑わなかったバカ親子。しかし彼らの予想に反し、彩葉は二度と手の届かない、眩いばかりの存在へと羽ばたいていく。
「社長!奥様がデザインされた車が、我が社の売上を抜き、全国一位に!」
「社長!奥様がAIデザインコンテストで世界一の栄冠を!」
「社長!奥様が、海外の大統領主催の晩餐会に国賓として招かれました!」
腸が煮え繰り返るような後悔に苛まれた蒼真は、息子を引きずりながら彩葉の前にひざまずく。
「頼む、彩葉!もう一度俺を愛してくれ!お前の望むなら、犬にでも何でもなる!」
だが、重いドアの向こう側では、息をのむほどイケメンが彼女の前に跪いていた。男は首元の革の首輪を示すように、ダイヤモンドが散りばめられたリードをそっと彼女の手に絡ませると、狂おしいほどの熱を宿した瞳で囁いた。
「ご主人様。今日から僕は、あなただけのものだ。どうか、そばに置いてほしい……」