常夜灯が倒れ、愛が燃え尽きる日まで
お彼岸を間近に控えた夜、清水美穂は三年前、交通事故で亡くなった娘の夢を見た。
夢の中で、娘は泣きながら「パパがわたしを殺そうとしているの」と訴えた。
はっと夢から覚めた美穂は、隣にいるはずの夫、高橋景佑を慌てて抱きしめようとしたが、その腕は空を切った。夫の姿がそこにはなかった。
その時、寝室の外から景佑と家政婦の話し声が聞こえてきた。
「……君の姉には申し訳ないことをした。まさか、彼女が自殺するとは思ってもみなかった。
だが安心してくれ。もう導師の指示通り、常夜灯を灯し、美穂をその常夜灯の前で三年間跪かせた。
美穂はまだ知らない。愛ちゃんは火葬されておらず、骨壷の中身が君の姉だということを……」
雷鳴が轟いた。その瞬間、美穂はすべてを悟った。
足に障害のある景佑が、常夜灯の前に頑なに座りお参りを続けていたのは、亡き娘の冥福を祈るためではなかった。
美穂の娘を車で轢き殺し、そして自ら命を絶ったあの女が、仏の許しを得られるようにするためだったのである。
止めどなく涙を流しながら、美穂はお彼岸の日に火事を起こすことを決意した。
あの忌まわしい常夜灯を倒して火事を……
そして、もう二度とあの男とは顔を合わせまい、と心に誓った。