愛が尽きる時に散る想い
港市の人間なら誰もが知っている。この街一の大富豪、今井瑛翔(いまい えいと)が度を越した愛妻家だということを。
その妻である私・竹内詩織(たけうち しおり)は、一時期、誰もが羨む存在だった。
けれど、岡本紗希(おかもと さき)という女が現れて、私は初めて思い知ったのだ。どれだけ深く愛してくれる人でも、心変わりはするものなのだと。
私にバレるのを恐れた彼は、紗希を川沿いの郊外にある別荘に隠し、私の目の届かない場所で、彼女をとことん甘やかしていた。
だが、私の前にだけは決して彼女を出すことはせず、情事の後にはいつも、冷たい声でこう警告していたという。
「もしこのことを詩織にバラしたら、君のいい御身分もそこまでだ」
しかし、その女はそう素直ではなかった。彼女は瑛翔の寵愛を盾に、毎日私に当てつけのような真似をしてきた。
紗希の存在は、彼がもはや私だけを愛してくれた頃の瑛翔ではないのだと、絶えず私に突きつけてくる。
それならば、私は彼の選択を尊重し、永遠に彼の前から姿を消そう。