縁が終わっても、これからの人生はきっと花咲く
式の控え室で、上野千夏(うえの ちなつ)は膨らんだお腹にそっと手を当て、寂しげに目を伏せた。
「春菜、お願い。あなたの病院で、中絶手術の予約をとってくれない?
日にちは……三日後でいい」
ブライズメイドのドレスを着た親友の中島春菜(なかじま はるな)は、一瞬ぽかんとした顔をした。
「千夏、正気なの?
龍生は精子が弱いから、あなたがこの子を授かるまでにどれだけ苦労したか……漢方を飲んだり、体外受精までして……今日はやっとの結婚式なのに、どうしてそんなこと……」
春菜は千夏の虚ろな黒い瞳を見つめ、結局それ以上の言葉を飲み込んだ。
たった三十分前、千夏が七年も待ち望んできた結婚式は、橋本龍生(はしもと りゅうせい)のアシスタント、松井愛莉(まつい あいり)によってめちゃくちゃにされたのだ。
式場の巨大LEDスクリーンに映るはずだったのは、自分が厳選したウェディングドレス姿の写真だった。
だがそこに現れたのは、愛莉の妊娠検査のカルテだった。
そして、父親の欄には、はっきりと龍生の名前が記されていた。