法廷で裁くのは夫と幼馴染の愛
相島香奈(あいしま かな)が裁判官になって初めて担当した案件は、なんと彼女の夫と幼なじみの離婚訴訟だった。
訴状を受け取った時、彼女は何度も確認した。
「長尾さん、この被告の情報、間違ってない?相手は陸川伸年(りくかわ のぶとし)っていう名前?」
事務官の長尾(ながお)は笑って答えた。
「相島さん、これは港市の陸川グループの支配者、陸川伸年社長ですよ。私の担当した案件でミスがあったとしても、この件だけは絶対に間違いありません!」
アシスタントはスマホで「陸川伸年」の検索履歴を見せ、残酷な真実を彼女の目の前に突きつけた。
写真に写っている夫と全く同じ顔を見て、彼女は全身がこわばり、一瞬にして氷の中に落ちたようだった。
書記官の同僚が追い打ちをかけた。
「そうですよ、相島さん、来たばかりだから知らないでしょうけど、陸川社長と幼なじみの林桐子(はやし きりこ)の愛憎劇はもう七年ぐらいになりますよ。法廷沙汰になったのは今回が初めてで、傍聴席の予約は満員御礼なんです!」
香奈は立っているのもやっとで、指先から資料がふわりとテーブルの上に滑り落ちた。
長尾は不思議そうに尋ねた。「相島さん、もしかして陸川社長と知り合いなんですか?」
知り合い?それどころか、彼女と伸年は結婚してもう六年になり、一人の息子までいる。