運命の赤い糸、光のように消えた
「健太、お腹の子の父親を変えたいの。この子の父親になってくれる?」
電話の向こうから聞こえてきた軽い口調は、一瞬にして真剣なものへと変わった。
「菖蒲、そんな冗談はやめてくれ。本気にしちまうぞ。
十年間、君を待ち続けてきたんだから……」
佐藤菖蒲(さとう あやめ)はこみ上げる感情を必死に抑え、固い決意を込めて言った。
「本気よ。一週間で全てを片付けて、あなたのところへ行くわ」
電話を切ると、すぐに斎藤健太(さいとう けんた)からメッセージが届いた。
【N市で一番の産後ケアセンターを予約しておいた。君と赤ちゃんが来るのを待ってる】
菖蒲は思わず笑みがこぼれ、視線は遠くの一点に注がれていた。
夫の藤原蓮司(ふじわら れんじ)は、初恋の相手である岡本渚(おかもと なぎさ)を壁際に追い詰めていた。
「金が欲しいんだろ?俺のそばにいて罪を償え。毎月2000万円やる。それで十分だろ?」
冷酷な言葉を吐きながらも、蓮司が渚にキスをする表情は、苦悩と愛情に満ちていた。
菖蒲は手に持った妊娠検査の結果を握りしめ、指の跡が白く残った。
その瞬間、彼女の心は完全に冷え切った。
蓮司が金で初恋の相手を繋ぎ止めようとするのなら……
一週間後、自分は藤原家の子供を身籠ったまま、十年間待ち続けてくれた男と結婚する。