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花の終わり、人の別れ、恋も尽きて

花の終わり、人の別れ、恋も尽きて

Por:  夕凪 こと葉Completado
Idioma: Japanese
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私はかつて、仏門に身を置く婚約者を、999回も誘惑しようとした。 何度裸になって目の前に立っても、彼が口にするのは決まって—— 「風邪ひくよ、大丈夫?」 私はずっと、彼が律儀すぎるだけだと思っていた。 結婚するまでは手を出さない主義なのだろうと。 でも—— 記念日当日、私はその幻想を粉々に打ち砕かれる。 偶然見つけたのは、彼が密かに予約していた、市内で有名なカップル向け高級ホテルのスイートルーム。 期待を胸にそのVIPルームへ向かった私は、ドアの隙間から衝撃の光景を目の当たりにした。 ——彼と、幼なじみの女が、周囲の冷やかしを受けながら、深く、何度も、唇を重ね合っていた。 私は部屋の外で、何も言えず、ただ一晩中立ち尽くした。 そして、ようやく悟ったのだ。 彼は——私を、愛してなどいなかった。 ホテルを後にし、私は父に電話をかけた。 「お父さん、私、賀川承弥(かがわしょうや)とは結婚しない。代わりに、祁堂煌真(きどうこうま)と結婚する」 電話口から、父の吹き出すお茶の音が聞こえた。 「な、なに言ってんだ、詩織!祁堂家の若様って、昔事故に遭って……あそこがもう使いもんにならんって噂だぞ? そんなとこに嫁いだら……未亡人みたいなもんだろうが!」 私はぼんやりと、夜の灯を見上げながら答えた。 「……子どもなんて、もうどっちでもいいの」

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Capítulo 1

第1話

私はかつて、仏門に身を置く婚約者を、999回も誘惑しようとした。

何度裸になって目の前に立っても、彼が口にするのは決まって——

「風邪ひくよ、大丈夫?」

私はずっと、彼が律儀すぎるだけだと思っていた。

結婚するまでは手を出さない主義なのだろうと。

でも——

記念日当日、私はその幻想を粉々に打ち砕かれる。

偶然見つけたのは、彼が密かに予約していた、市内で有名なカップル向け高級ホテルのスイートルーム。

期待を胸にそのVIPルームへ向かった私は、ドアの隙間から衝撃の光景を目の当たりにした。

——彼と、幼なじみの女が、周囲の冷やかしを受けながら、深く、何度も、唇を重ね合っていた。

私は部屋の外で、何も言えず、ただ一晩中立ち尽くした。

そして、ようやく悟ったのだ。

彼は——私を、愛してなどいなかった。

ホテルを後にし、私は父に電話をかけた。

「お父さん、私、賀川承弥(かがわしょうや)とは結婚しない。代わりに、祁堂煌真(きどうこうま)と結婚する」

電話口から、父の吹き出すお茶の音が聞こえた。

「な、なに言ってんだ、詩織!祁堂家の若様って、昔事故に遭って……あそこがもう使いもんにならんって噂だぞ?

そんなとこに嫁いだら……未亡人みたいなもんだろうが!」

私はぼんやりと、夜の灯を見上げながら答えた。

「……子どもなんて、もうどっちでもいいの」

……

その言葉を聞いて、母が電話を奪うようにして出てきた。

「詩織?あなた、子供が大好きだったじゃない。今日はどうしちゃったのよ?」

母は知っている。

私が毎年、児童支援施設に教材やおもちゃを贈っていたことを。

だから、なおさら驚いたのだろう。

そして、声を落として言った。

「祁堂家の若様ね……下半身に後遺症が残って、子どもが望めないって噂よ。だから、これまでどの娘さんも嫁ぎたがらなかったのよ。あの人、あなたに何度も縁談を持ちかけてきたけど、ずっと断ってたじゃない」

母の言葉を聞きながら、私はスマホの画面に視線を落とした。

そこに映る、広い肩幅、長い脚、整った顔立ちの男——祁堂煌真。

仮に「見るだけの男」であったとしても、幼なじみを心に抱えた承弥と生涯を共にするより、ずっとマシだ。

さっきまで耳にしていたあの甘ったるい音を思い出すと、胸が張り裂けそうだった。

父が私の様子に気づいたのか、おそるおそる尋ねてきた。

「それで、あの仏門の彼とはいつ別れるつもりなんだ?祁堂家と顔合わせの段取りもしなきゃな」

私は冷静な声で答えた。

「三日後にする。仕事を片付けたらすぐ帰って、煌真と婚約する」

ホテルを後にして、私は承弥と六年間暮らしたアパートへ戻った。

昨夜のことが、頭をよぎる。

人だかりの中、私は彼と目が合った。

ほんの一瞬、彼は驚いたように眉をひそめたが、そのまま彼女の手を取って、何もなかったかのように席に戻っていった。

バラの花、シャンパン、流れるピアノのラブソング、ロマンチックなキャンドルディナー——

六年間、私たちにはそんな場所での食事は一度もなかった。

背を向けて立ち去るとき、彼の友達がみんなそこにいた。

あのホテルの情報は、彼らの誰かのSNSで偶然見つけたものだった。

去り際、彼らの口笛と拍手が聞こえた。

「やっぱお似合いだなー、何年越しだ?ついにゴールインか!」

「さ、乾杯だ!二人の未来に!末永くお幸せに!」

私は心の中で、ひとり苦笑した。

六年も彼の傍にいたのに、彼の友達は、私の存在すら知らなかった。

でも、彼とあの女のことは——みんなが知っていた。

苦味が喉の奥から込み上げる。

今日という日は、私たちの「交際六周年記念日」だった。

彼がホテルを予約していたことを知り、「いよいよ初めての夜だ」とときめいた気持ちが、今では猛毒に変わっていた。

家に戻ると、ちょうど深夜零時。

宅配便が届いた。

アパートの玄関先に置かれた、記念日用のケーキ。

箱の上には、彼の筆跡で書かれたカードが添えられていた。

——これからの毎日を、君と共に過ごしたい。

配達員の青年が、にこやかに私に言った。

「彼氏さん、すごく素敵な人ですね。うちで一番高いケーキですよ。時間厳守で届けてほしいって、カードも彼が直筆で……!」

私は玄関を開け、ケーキを雑にテーブルに置いた。

彼は、今日が私たちの記念日だとちゃんと覚えていたのだ。

でも、この夜にしたことは——

私はソファに沈み込んだ。

無人の部屋に向かって、涙が静かに溢れ出す。

この部屋のあちこちに、彼との生活の痕跡が残っている。

それなのに、彼は他の女と一夜を過ごした。

ケーキを見ていると、もう気持ち悪くてたまらなかった。

どれほど時間が経ったのか、わからなくなった頃——

静まり返ったアパートの玄関の扉が、突然、開かれた。

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