忘却の恋、覚醒の裏切り
「十億円。一週間以内にこの国を離れて、二度と碧斗の前に現れないで」
高橋裕子(たかはし ゆうこ)は、浅見花音(あさみ かのん)の向かい側に座り、手入れの行き届いた顔に隠しきれない軽蔑を浮かべていた。
以前の花音であれば、目を真っ赤にして「お金のために彼と一緒にいるのではありません」と反論していただろう。
しかし今の彼女は、ただ静かに頷くだけだった。「分かりました」
裕子は明らかに呆気に取られた様子だったが、すぐに冷笑を浮かべた。「身の程を知っているようで安心したわ」
裕子は「身の程」という言葉を、まるで花音と高橋碧斗(たかはし あおと)との間にある絶望的な格差を強調するかのように言い放った。
花音は視線を落として黙り込み、その小切手を受け取ると、そのまま背を向けて立ち去った。