暗闇からの脱出
首都圏の御曹司と結婚して六年目、桃子(ももこ)は男女の双子の子供たちへの贈り物として信託基金を設立しようと考えた。
しかし、担当者が資料を確認した後、首を横に振って言った。「申し訳ありませんが、この基金は両親が子供のために設立する場合に限られています」
桃子は一瞬戸惑い、こう説明した。「出生証明書を提出しました。私はこの二人の子供の母親です」
すると担当者は奇妙な目つきで彼女を見た。
「奥さん、今はすべての情報がネットワークで管理されています。偽造書類では審査を通れません。システムにはっきり表示されています。子供たちの父親は確かに佐倉啓太(さくら けいた)ですが、母親はあなたではなく桧山雪音(ひやま ゆきね)です。
この二人の子供は、あなたとは一切関係ありません」
桃子は全身が硬直し、頭の中が真っ白になった。雪音は、彼女の夫が生涯忘れられない初恋だった。
佐倉家と桧山家の因縁の対立に影響を受け、二人は既に関係を絶っていたはずだ。
しかし今、彼女が十月十日かけて命懸けで産んだ子どもたちは、夫と雪音の子どもだったなんて……
そんなことが、あり得るのか?