春はやがて冬を去っていく
「お母さん、決めたよ……明国に行って、お母さんのところに行く。そして結婚するの」
唐澤静香(とうさわ しずか)は深く息を吸い、嬉しい声で言った。
「春子ちゃん、やっとわかったのね!お母さんが紹介したあの人、本当にいい人よ。きっと幸せになれるわ!」
「……うん」
電話を切ると、唐澤春子(とうさわ はるこ)は無気力に床に腰を下ろした。
机の上に置かれた彼氏・柳原冬樹(やなぎはら ふゆき)のスマホは、まだ画面がついていて、メモアプリが開かれていた。
最新のメモは今日書かれたもので、写真にはハート型のピンクダイヤモンドの指輪が写っている。
それは春子の右手の薬指にある指輪と、まったく同じだった。
写真の下には小さな文字でこう書かれていた――
【この指輪をつける人が明菜だったら、どれほどいいだろう】と。
明菜は、冬樹の元カノだった。