時の流れに君は遠く
結婚三年目の記念日。その日は、白石静奈(しらいし しずな)の二十七歳の誕生日でもあった。
夫の長谷川彰人(はせがわ あきと)から贈られたのは、一枚の離婚届という、特別なプレゼントだった。
彰人は、落ち着いた様子でペンを手に取ると、書類の左下にサインし、静奈の前にそっと差し出した。
「寧々(ねね)は意地っ張りで、機嫌を取るのが大変でね。一度離婚という形をとらないと、俺を受け入れてくれないんだ。
俺はもうサインした。君も書いてくれ。
心配はいらない。ただ形式上のことだから」
その声は、夕食のメニューでも決めるかのように、何の感情も温度も感じさせない、平坦なものだった。