那知神山のハクサンコザクラ
心臓を逸生に移植してから五年後、私は人工心臓の拒絶反応で病室のベッドの上で息を引き取った。
意識が消えていくその瞬間、閻魔の声が耳元に響いた。
「笹本千遥――おまえに執着する者が人間界にいるせいで、おまえは輪廻に入れぬ。
五日の猶予を与える。その間に現世へ戻り、執念を解け」
再び目を開けたとき、私は死の五日前に戻っていた。
手には北東部行きの乗車券が握られている。
逸生とは三十歳になったら神山で結婚式を挙げようと約束していた。
前の人生では、その切符を病院のゴミ箱に捨ててしまった。
だが今回は、人でごった返す駅で列車に乗り込んだ。
まさか列車に乗り込んだ時に、同じく北東部へ向かう逸生と、彼の婚約者に出会うとは思わなかった。