「ただ、一緒にいたいだけなのに……やっぱり異世界同士、人間と獣人は結ばれないのかな?…」 理久は、以前から犬をどうしても飼いたくて、保護施設から訳アリの、でも、キレイな長い黒毛の大型犬を引き取った。 そして、理久と、理久から「クロ」と名付けられたその犬は、一人と一匹、毎日毎日仲睦まじく暮らしていた。 しかし、ある日、そのクロが突然失踪し、理久は悲しみとパニックの中で探し回る。 そして、そのクロ捜索中の悲しみに暮れる理久の目の前に突然、キレイな長い黒髪の長身のイケメンが現れた!
View More今日でもう何日目だろうか?
それ位、気が遠くなる程に、ずっとクロを探している。
それは、今から半年前…
理久は、無事志望した高校に合格した。
地元でも有名な進学校だったので両親は大喜びして、理久に何か高価なプレゼントをしようと希望を尋ねてきた。
理久は、小学生の頃から犬が飼いたかった。
だが、なかなか許可を貰えなかったが、今回は両親も首を縦に振った。
早速ペットショップに行こうと言う親に、理久は保健所へ行きたいと言った。
そこには沢山の犬がいて、母は子犬がいいのではと言っていた。
しかし、理久は、黒のオスの成犬を選らんだ。
長毛で、ゴールデンレッドリバー並の大きさ。
そして何より、両目が美しい深いブルーだった。
保健所の職員の話では、雑種の迷い犬で、大体3歳位らしい。
理久は早速引き取って、クロと名付けて本当に可愛がった。
散歩はいつも理久が行き、家にいる時は常に横にいて、寝る時も同じベッド。
クロも、理久が学校から帰るまで家の中の玄関の所でずっと待って、理久が帰ると飛び付いてきて尻尾をブンブン振って喜んだ。
しかし、そんな楽しい日々は、突然終わる。
3週間前…
いつも通り理久が朝起きると、ベッドにいるはずのクロが居なかった。
本当に、余りに突然の事だった。
「えっ?えええっ?!」 驚きの余り、理久の瞳孔が開く。 「けけけけっ…結婚って!俺達男同士だし!」 「何を言う。理久の世界も、同性で愛し合うって、テレビで言ってたよな。それに、この世界でも同性で愛し合うし結婚もする」 クロは、更に理久の手を握る両手に力を込めた。 「でっ…で、でも…クロには、跡継ぎがいるだろう?俺…産んで上げられないし…」 「大丈夫だ」 「なっ、何が大丈夫なんだよ!」 「この世界には、男でも子供を産める魔法がある。それに、もしダメでも、俺には沢山兄弟がいるから大丈夫だ!」 クロは、全く意に返さず微笑む。 「そっ、そんなご都合設定の魔法ある?それに、俺、根っからの一般人だから、王家の暮らしとかしきたりなんて無理無理無理無理!絶対無理!」 「理久、俺は、お前に妃として多くは望まない。お前は、俺の傍にいてくれさえすればいい…俺を、俺だけを愛してくれ…俺だけ愛してくれさえすればいい…」 一段と低く甘くなったクロの声に、理久はドキッとした。 クロは、それを見透かしたように、理久の左手の甲をクロの口元に持って行き、優しいキスをした。 「理久、左手にキスは、この世界の正式なプロポーズだ。頼む。俺と、結婚してくれ…」 理久は、クロの美声と上目遣いの男の色気に、同性なのに思わずクラッとなった。 「クロ…ありがとう…」 理久は、跪いたままのクロの長い黒髪を撫でた。 クロはその理久の反応にいい予感を感じて、尻尾をブンブン振った。 理久には、そんな大の年上の男がとても可愛く映る。 しかし… 「クロ…ごめん…俺、クロと結婚は出来ない…」 そう答えた理久を見上げていたクロは唖然と瞠目して、立派な耳と尾が又しなだれた。 「何故?俺が…俺が…獣人だからか?やっぱり…俺が怖いか?」 「違う…それは、違うよ…」 理久の首が横に2度振られた。 「俺…まだ高校生になったばかりで、これからもっと勉強して大学も行きたいし、自分の世界に戻って暮らさなきゃ…」 理久にしたら、結婚なんてまだまだあまりにも遠い遠い何年も先の将来の話しにしか思えない。 それに、あくまで理久が生きていける世界は、理久の生まれた人間の世界としか思え無い。 「理久…」 クロの青い瞳が、苦し気に細められる。
突然いなくなった国王のクロだったが…クロの国は、至って普通の暮らしが続いていた。すでにクロに譲位して引退していたクロの父で前国王は、以前自分が幼い頃、自分の父も何日か姿を消して無事帰って来た事を覚えていた。そして、その姿を消していた事のあるクロの祖父は、戻って何十年後のその死の直前クロの父だけに…「何日か姿を消していた時、違う世界に行って、本当に愛した人と暮らしていた」と、涙ながらに告白した。クロの父は驚きはしたが、自分の父が自分の母以外を愛した事には何の批判も無かった。国王とは、決して愛した者と結婚できるとは限らない。むしろ、愛した者と出来る方が稀だ。それは、国と国の戦略的友好の為、国王と臣下の相互利益関係を深める為…国王は、愛の無い政略結婚は普通で当たり前だからだ。クロの祖父も祖母も、結婚式の当日お互いの顔を初めて見た政略結婚だった。クロももしかしたらすぐ帰るかもと、クロの父は無論捜索もしていたが、クロの失踪を隠して、病気療養にして待っていた。そして…クロは自分の世界に帰ったが、クロは、理久を忘れられなかった。忘れられなくて…どうしても、どうしても忘れられなくて…とうとう、狂いそうになって…父と母に相談の上…理久に、化け物だと拒絶されるかもしれないのを覚悟し、それでも堂々とプロポーズする決心をした。そして、出来れば、クロの国に来て、一緒に暮らして欲しかった。あんな危険な呪術は、魔術師に頼んで消さなければならないのは分かっていたが…理久の世界の服に似た物を至急作らせ、それを着て…又、祖父の部屋に行き、古の文字を唱えた。クロは職務の間に、理久に遂に会いに来てしまった。魔術の穴を出てすぐ、何故かすぐに公園内に理久のいい匂いがして、クロは歓喜し体が熱くなった。そしてその匂いを辿ると、理久が暗がりのベンチにいた。今すぐに駆け出して、理久を思い切り抱きしめ、キスして、有無を言わず自分の国に攫いたい!そんな野獣そのものの激しい衝動を感じて体中が更に燃え上がるように熱くなり、クロは自分を諌めた時…理久は、座って泣いていた。そして、「クロ…俺の側に帰って来てくれ!帰って来てくれたら、ご飯でもおやつでも何でも、お前の好きな物食べさせて上げるから…なぁ…クロ…」と、一人ごちていた。ひとしきり話し終え、理久とクロの間に沈
理久は、秒でクロを引き取る事を決めた。 そして、クロは、理久を一目見て恋し、更に感覚ですぐ分かった。 とても優しい人間だと。 すぐ立ち上がり、しなだれていた尻尾を珍しく振り、膝立ちしていた理久の太ももに顔を擦り寄せた。 すると、理久は、子犬がいいと言う理久の母の文句を一蹴して、クロを抱き締めた。 それからクロは、楽しかった。 ケガもみるみる完治した。 クロは、凄く幸せだった。 理久が学校へ行っている以外は、ほぼ一緒。 食事も、 勉強中も、 理久一人でゲーム中も、 テレビを見ていても、 家族旅行も、ベッドの中も、時には風呂でさえも… もう、何年も前からそうだったと思いたくなるほど… 違和感も無く自然で心地良く… ずーとずーと、ずーと一緒。 そして、本当に理久は、クロの面倒をよく見てくれた。 しかし、そんなある日、クロの脳裏に突然、獣人である記憶が戻ってしまった。 どうすればいいのか? 理久に本当の事を打ち明けるべきなのか? しかし、人間からしたら獣人など、化け物だと受け入れてもらえないかもしれない。 そして何より、理久が妖怪や幽霊、UMAなどが大の苦手で恐れているのを知っていた。 記憶が戻ってもまだ犬の姿のまま、クロは数日悩んだ。 しかし、満月の夜。 クロは、理久の風呂上がりの匂いに、発情してしまった。 我慢しなければ… 我慢しなければ…と、すでに滾っている下半身を一生懸命耐えようとしたが… クロはついに人型になって、口から鋭い双牙を出し、ベッドで眠る理久を襲いそうになった。 その性欲は凄まじかった。 クロは、こんなに誰かを欲しいと思った事が無かった。 それでも、必死でなんとか耐えた。 だが… クロは、遂にたまらなくなって、人型のまま理久の家を出た。 そして、自分が初めてこの世界に出た、あの公園へ行ってみる事にした。 僅かな外灯の灯りとあの時の虚ろな記憶で、どの辺りの木から自分が出たか探す… すると、沢山の木に囲まれて、それらしいものがあった。 クロの抜群な視力で、少し遠くから眺めていると、突然… その木の根本近くに、白い大きな月の模様が浮かんできた。 まるで、これから満ちていく三日月の形。 それは… 実は
クロが、話し出した。真っ直ぐに、理久の瞳を見上げながら。理久は、その射るような強い視線に、まるで直接握られたように心臓を収縮させた。クロは、この様々な獣人の世界の王国の王様だった。本当は名前もクロでなく、アレクサンドルと言う。そして、少し前から亡くなった祖父で、前前国王のそのままになっていた珍しい品々を集めた部屋がやたら気になっていた。そこは、巨大な城の誰一人として今や入らない、すでに忘れられた空間。それに、クロは、王になってから毎日毎日、お妃を決めろ!早く決めろ!と周囲からヤイヤイ言われていた。そして、毎日毎日、断ろうが何人もの何処かの姫や令嬢と勝手に見合いを組まれ、いかにもと分かる欲に塗れた色目を使われて媚を売られ、もうほとほとうんざり辟易していた。だがある日、クロはどうしてもそう言うストレスもあり気晴らしに、なおかつその部屋が気になって、誰にも告げぬまま、こっそり鍵を持ち出して一人入った。側近や付き人に言えば、埃に塗れるやらなんやらと必ず反対されたからだ。それに、何故だろう…普段、こんな馬鹿げた事はしないタイプなのに…国王になってからは、増々、行動には慎重だったのに…どうしても、部屋の中に入りたかった。まるで、部屋に呼ばれているかのように…それに、少し中を見て、すぐ職務に戻るつもりだった。そこは…やはり埃に塗れ、蜘蛛の巣が張り放題。どこから手に入れたのか、変わった動物のミイラや骨や、壺や仮面や不気味な人形が、元王の部屋にしては小さな空間に溢れていた。すると突然、部屋の中央に鎮座している大きな陳列台と床との僅かな隙間から、ネズミが2匹出てきた。古い部屋だし仕方が無いなと思いながら、掃除はしなければなと、何気にその隙間を覗くと…陳列台に隠れるように、床に何かが描かれていた。一体何かと…普通ではなかなか動かせないその台を、クロは持ち前の怪力で一人で軽く動かしてみた。すると、そこに、呪術なのか?…その部分だけ埃が無くキレイなまま…紅い何かで描かれた大きな円陣が幾つか重なったり組合って、訳の分からない記号も幾つかあった。だが、クロには唯一、その円や記号の横に書いてあった文字だけが読めた。いにしえの今はもう、王族にしか伝わらない、市井の人々には忘れられた古代文字。そこには…「神聖なる血を受け継ぐ一族の者よ…我、
理久は、まるでフランスの太陽王の宮殿の中のような、内装も調度品も華美で煌びやかな広い部屋にいた。だが、どこから見てもThe日本人の理久には馴染まないと言うか、浮いてしまうと言うか…その雰囲気に、思わず小さくなってしまい全く落ち着かない。そして、よく読む、異世界転移の小説の主人公の気持ちが痛いほど理解出来た。今はこの異世界も夜のようで、大きな沢山の窓は高価そうなレースのカーテンが締め切られていた。しかし、この世界には、暗がりになると光る石があるらしく、天井のゴージャスなシャンデリアはそれで出来ていて、煌々と広い部屋を照らしていた。そして、理久は椅子に座り、沢山の獣人の召使いが目の前のテーブルに、理久とクロの食事を用意しているのをただ眺める。獣人は、色々な種類がいる。クロと同じ犬もいれば、猫や馬、熊もいる。けれど特に目立っていたのが、仲の良さそうな、黒のスーツに身を包む2人のどちらもかわいいウサギの獣人の男子だ。人間で言うなら、20歳前後位に見える。彼等は、一人がかわいくて凛とした爽やかイケメンで、もう一人は、笑顔が甘過ぎる、ウサ耳の良く似合うめっちゃくちゃかわいい系だった。どちらかと言えば、爽やか男子が2人の仲をリードしているのかとおもいきや、主導権を握っているのは、以外や以外、かわいい方のようだった。クロは、理久の向いに座り、召使い達に色々指示を出す。ただ…クロの顔つきや喋り方が、理久と一緒にいたさっきまでと違う。理久と一緒だった時は、柔らかくて、時に甘えるような表情や言葉遣いが、今は支配者然として居高くまるで別人のようだ。(クロ…やっぱり…本当に…王様、なんだ…)理久は、クロの顔をまじまじと見た。さっきまで優し気だった野生味のある男らしい顔が強く引き締まり、更に男前度合いが増していた。途端に、理久の胸の奥がなんだかザワザワとする。やがてすぐに食事の用意は完了し、召使い達は全て退室した。理久は、目の前のテーブルに並べられたステーキや焼きたてのパンやデザートなどの、これまた豪華さに目を丸くした。「沢山、いくらでも食べろ…理久」クロが、理久の向かいから右腕で頰杖をついて言った。そして、クロの表情と喋り方が、又柔らかくなっている。それでも、理久が無言で不安そうにクロを見た。「どうした?冷めるし、腹へってるだろ?」結
一瞬、ブワッと男が白煙に包まれと思えば、次の瞬間、犬になっていた。理久が大好きな、クロに瓜二つの…美しい黒の毛並みの…そして、青い首輪は首にでなく、ブカブカの状況で前右足にあった。「ク…ク…ク…ロ?」間違い無かった。途端に喜びの余り、理久の脳裏からさっき襲われかけた事が瞬時に吹っ飛んだ。そしてバッと近寄り、その黒色の体に抱きついた。「クロ…良かった…良かった、お前が無事で。本当に本当に心配したんだ」思いっきり抱き締めてやる。「くぅ~ん…くぅ~ん…くぅ~ん」クロが、甘える時のとってもかわいい声を出した。「クロ…」理久の両目から懐かしさと嬉しさで、又涙が溢れてきた。それを見たクロは、激しい勢いで理久に飛びかかる。スポっと、あの首輪が、クロの足から抜けた。理久は、ベッドに上向きに倒れ、クロが上におおいかぶさり頬を伝う涙をペロペロペロペロ舐め出してきたので笑った。「クロ!くすぐったい!ダメだ、クロ!ああっ!ダメ!ダメ!そこはダメー!」だが、ふと、なんだか変な声を出してしまったと理久は気付く。すると、又、今度はクロが白煙に消えさっきの男になり、寝転ぶ理久の顔の両横に手を付き、上から見下ろしてきた。
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