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16.アゼルの告白と特別な女性

last update Last Updated: 2025-06-16 22:22:45
少し離れた場所でアゼルのあまりにストレートな愛情表現を見ていたサラリオとルシアンは呆れたような、しかし少しだけ羨ましげな表情を浮かべていた。特にサラリオの碧眼の奥には、獲物を見つけた時のような一瞬だけ強い光が宿っていた。

ルシアンが悪戯っぽい笑みを浮かべてサラリオに囁く。

「ああ、兄さん。このままでいいの?アゼルに葵を取られちゃうかもしれないよ」

サラリオは、ルシアンの言葉に動揺したようにわずかに表情を硬くした。

「な、何を言っているんだ。そんなこと……」

サラリオの言葉はどこか歯切れが悪かった。ルシアンはそんなサラリオの様子を見るのが楽しかった。

「あれ?兄さんは何も言わないの?それなら僕が参戦しようかな」

「おい、ルシアン!!」

ルシアンは悪戯っぽくにやりと不敵な笑みを浮かべながら、その場を後にしていった。

(あ、あいつら……。人の気も知らないで。)

サラリオは小さくため息をつくとその場にがくりと座り込んだ。普段の冷静さとは異なる、珍しい焦燥とかすかな後悔のような感情が浮かんでいる。

アゼルの腕の中に包まれていたが、身体を話すとアゼルはポツリと呟いた。

「それに、葵は他の女性とは何かが違う。あのルシアンもお前と話しているといつもよりも真剣な顔をしている。キリアンもお前と知識を交換している時だけ普段見せないような表情をする。あのサラリオでさえ、お前を前にすると普段の冷徹さが薄れる。お前は、俺たちの誰の心も揺るがす力を持っている。何か不思議な力を持っている気がするんだよな。なんか魔法でも使えるのか?」

「え……?」

そう言ってアゼルは身体検査でもするように私の腕やお腹、脚をポンポンと触り確かめていく。予期せぬ発言に言葉を失っていた。

「……アゼル、何をやっているんだ。」

呆れ切った顔をしてサラリオが止めに入った。

「葵は何か他の女性とは違う気がするんだ。国が違うとかそいうことじゃなくて、何かもっと深い、繋がりのようなものを感じるんだよな。」

その言葉にサラリオは一瞬、硬直したように見えたがすぐに戻った。

「なにを言っているんだお前は。強引すぎると怖がる女性もいるんだから気をつけろよ。」

「はいはい」

そう言ってサラリオに返事をすると私の耳元で小さく囁いた。

「葵は嫌だった?でもさっきのが俺の気持ちだから」

私は初めて男性の腕に導かれて抱かれたことへの衝撃で頭がい
中道 舞夜

愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~ 尽くす側から尽くされる側へ、そして転生は偶然ではなかった? 毎日22:22に更新中!気に入って頂けたら本棚登録してもらえると嬉しいです。

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