愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~ 尽くす側から尽くされる側へ、そして転生は偶然ではなかった? 毎日22:22に更新中!気に入って頂けたら本棚登録してもらえると嬉しいです。
「愛する人のために薬学を覚えるなんて、葵様は本当に立派ですね」メルはそう言ってキラキラした目で私に話しかけてくれた。彼女の純粋な憧れの眼差しに私は少しだけ胸が苦しくなる。「残念だけどメルが思っているような素敵な話じゃないんだ。私は、日本にいる時に自分が必要とされていない人間だと思っていたの。親同士が決めた結婚で、夫になった人には私とは別に一緒になりたい人がいたの。でも、それは叶わぬ恋だったのね。夫は私に全く興味がなかった、だから少しでも自分の価値を作りたかったの。」幸助さんのことを久々に思い出し俯きがちに言った。「薬学を覚えたのは夫のためだけれど『愛する人』ではなかったかな。夫に私の価値を感じて欲しかった。『特別』になりたかった。でもそこに愛情があったわけではない。特別になることが『使命』や『義務』だと思っていたから」私の告白に、メルは何も言わずただ静かに耳を傾けてくれた。彼女の瞳は、私の言葉の全てを受け止めてくれるように優しく潤んでいた。「でもね、今は感謝しているの。日本で学んだことがこの国で役に立って、誰かを笑顔にできることが本当に嬉しい。今は使命とか義務じゃなくて自分の意思で学びたいって思っているの」「葵様は、やっぱり素敵です!」メルは、私の言葉を聞き終えると満面の笑みでそう言
その日の夕刻、サラリオは深く感動した様子で私の部屋に訪れた。「レオンと葵の話を侍女長から聞いたよ。葵の知っていることをもっと詳しく皆にも教えてくれないか?葵の持つ知識は、この国の人々の医療に役立ち暮らしを豊かにすると思うんだ。まさか、野草に役立つことがあるなんて考えたこともなかった。あの草が資源になるなんて……ぜひ、その知識をこの国のために役立ててほしい」「はい、私で良ければ。」この国に来て初めて自分が誰かの役に立ったと思った瞬間だった。続けてサラリオは、この国の医療や衛生状況の課題を口にしていた。それ以来、私の薬草の知識は王宮内で重宝されるようになる。医師たちが私に野草について尋ねに来たり、私が調合した簡単な塗り薬が兵士たちの軽傷の手当てに使われたりすることもあった。最初は小さな貢献だったが感謝に変わるたびに満たされた気持ちになった。しかし、同時に新たな波紋も広がり始めていた。宮廷の医者の中には、異邦の女性である私が自分たちの専門分野に口を出すことを快く思わない者もいた。また、私が知らぬところで「ただの野草」を「薬」にすることを『魔法を操る異国の女性』と奇妙な噂話となって隣国の一部の商人や貴族たちの耳に届いたようだ。水面下で私を狙い自国に連れて帰ろうと画策する者たちが現れていた。そんなことも知らず、私の知識が誰かの役に立ちこの国の人々の笑顔を増やすことができるという喜びに浸っていた。私は、このバギーニャ王国で少しだけ自分の役割を見つけた気分でいたが、
バギーニャ王国での生活にも少しずつ慣れ、王立図書館での学びも深まり充実した日々を送っていた。ある日の午後、レオンとリオが庭園で遊んでいると、レオンが転び、膝を擦りむいてしまった。大した怪我ではなかったが小さな擦り傷からわずかに血がにじんでいる。メルが慌てて宮廷の医者を呼びに行こうとするのを私は思わず止めた。「メル、待って。私が……」とっさに庭の片隅に群生している、見慣れた野草に目が留まった。日本で「オオバコ」と呼ばれているその草は、傷の治りを早め止血する効能があることを知っていた。この国の薬草図鑑には載っておらず、ただの野草として扱われているようだった。私はしゃがみ込み、オオバコを数枚摘み取ると手のひらで揉み始めた。汁が滲み出てくるまで揉み潰しそれを優しくレオン様の擦りむいた膝に当てた。「お姉ちゃま、これ、何?」レオンは興味津々といった顔で私の手元を覗き込んでいる。「これは少しだけ痛みを和らげてくれるおまじないよ」そう答えると私は布で軽く押さえてやった。数分もしないうちにレオンの膝の出血が止まり腫れも引いていくのが分かった。「すごい!止まった!」
厩舎に着くと、俺は葵のために特に気性の穏やかな馬を選んだ。初めて馬に乗る彼女が怖がらないように背の低い馬を選び、鞍に座らせるのも手伝ってやった。「なんだ上手に乗れるじゃないか。」「私の家系は代々乗馬をやってきました。基本的には男性のみのなのですが、こっそり教えてもらって……」葵は手綱を引いてゆっくりと歩き出すと瞳には好奇心の色が宿り笑顔になっていった。王宮の敷地を出て広がる草原を駆けていく。風が彼女の髪をなびかせ横顔が眩しい。普段、宮殿の中にいるばかりであまり外に出る機会がなかっただろう。俺はこの国の豊かな自然を彼女に見せてやりたかった。「葵、あそこに見えるのはこの国の象徴である『バギーニャの峰』だ。その麓には古くから聖地とされてきた泉がある」俺が指差す方角に葵は目を輝かせた。彼女は意味ありげに泉を見ている。様々な場所を案内し、夕暮れ時、俺たちは小さな丘の上に立ち止まった。眼下には夕日に染まるバギーニャ王国の町並みが広がっている。オレンジ色に輝く空の下で町の人々の営みが小さく見える。「綺麗ですね……」葵の呟きは感嘆に満ちていた。その横顔は夕日に照らされて絵画のように美しい。俺は、そんな彼女の姿を静かに見つめいた。サラリオ兄さんも、ルシアンも、キリアンも皆、葵に惹かれて
葵がサラリオ兄さんの部屋を訪れたあの夜以来、俺の心は常にざわついていた。葵の説明を聞いて安心したものの、彼女がサラリオ兄さんと二人きりでいたという事実が、俺の胸に棘が刺さったように残っている。一人の女性として葵に惹かれている。だからこそサラリオ兄さんへの敵意を隠しきれなかった。普段は、国の統治について協力し合い決して仲が悪いわけではない。むしろ、互いの能力を認め合い信頼している。しかし、それと葵のこととは別だ。今日の朝、食事をとり終わった後に宮廷の回廊でサラリオ兄さんと鉢合わせした。国境の警備について話そうと口を開きかけた、その時だ。遠くから葵の姿が見えた。彼女の柔らかな髪が廊下の窓から差し込む光にきらめいている。「葵!」俺は、サラリオ兄さんよりも早く反射的に声を張り上げていた。その声に、葵は驚いたようにこちらを振り向き笑顔を見せた。俺は彼女の元へと駆け寄った。「葵、まだ馬に乗ったことないだろう。俺と一緒に外に出ないか?色んな場所を案内してやる。」「アゼル様、いいのですか?ありがとうございます。それでは、ご一緒させてください」「ああ、すぐに行こう。」優しく葵に語りかけながら、ちらりとサラリオ兄さんへと視線を向けた。俺の視線を受けたサラリオ兄
『もし、あの時王子たちが思うように【夜の誘い】として訪れていたらサラリオ様はどうしていましたか?』ふと頭に浮かんだ疑問を途中まで口に出してしまい、とっさに止めた。サラリオも私の突然の発言に困惑した様子だった。彼の顔もわずかに赤く染まっているように見える。(もう、、私ったら何を言っているのだろう……。)私は心の中で自分自身に呆れた。(サラリオ様は私が【夜の誘い】で部屋を訪れたら、昨日のように迎え入れてくれたのだろうか。そして、もし理解した上で入れたとしたら、ルシアンのいうような『女性へのもてない』があったのだ?それって私じゃなくても、迎え入れることもあるってこと?)王子たちが言っていた理由で私が訪れ、サラリオも受け入れてその後の一夜を過ごすことを想像して恥ずかしくも甘く感じる私と、訪れたのが私以外の女性でサラリオが部屋に通す姿を想像し胸が締め付けられて痛くなる私がいた。サラリオに受け入れらることを喜ぶ気持ちと、受け入れられるのが他の女性では嫌な気持ちが混在する。その時、確かな感情が胸の奥で芽生えたのを感じた。サラリオの視線にドキドキし、その大きな手で触れられたくなる。そしてその手で昨日のように引き寄せて胸の中に顔をうずめたい。彼の吐息や熱、身体の厚みを感じたい。もっと強く長く感じていたい。男性に触れたいと思うこと自体が初めてで、戸惑いとこんなことを思う自分がはしたなく感じて恥ずかしさを覚えた。