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17.甘い言葉とルシアンの教え

Penulis: 中道 舞夜
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-17 22:22:21
バギーニャ王国での日々は甘い戸惑いに満ちていた。

「美しい」「綺麗」「可憐」「健気」──王子たちから毎日のように甘く囁かれる褒め言葉や、手の甲にそっと落とされるキスや、ふわっと包み込むようなハグでの挨拶など、どれもこれも私の心を動揺させて、慣れる日は一向に訪れない。未だに私は頬を赤く染め、心臓をバクバクとさせて困惑していた。私の様子を見て、最初のうちは王子たちも少し困ったような、申し訳なさそうな顔をしていた。

しかし、しばらく経っても一向に慣れない私に対して、サラリオは「どうしたら葵は喜んでくれるの?」といつもその碧眼を細めて顔を近づけ微笑んでくる。それだけ鼓動が早まり意識が遠のきそうだった。

アゼルは「そろそろ慣れろよ」と呆れたように、けれど少し楽しげに言う。キリアンは「葵は、この国の他の女性とは違う反応で面白い」と珍しく口元に笑みを浮かべて私の様子を観察しているようだった。

褒められるたびに動揺するのは、夫・幸助との過去が原因だった。幸助さんからは、女性として扱われることはおろか、褒め言葉など一度も向けられたことがなかった。

王子たちからの甘い言葉に思惑や打算がないことは分かっていても、「とんでもございません」「そんな私なんかにはもったいないお言葉です」と自分を卑下する言葉が口をついて出てしまう。褒められることに慣れていない私の心は、彼らの甘い言葉を受け止める準備ができていなかった。

そんなある日のことだった。庭園の片隅で私が鑑賞をしているとルシアンがやってきた。

「葵、今日のドレス、君の髪の色と合っていてとても似合っている。素敵だね。」

「そんな、とんでもございません。」

「…ねえ、葵?なんでそうやって否定するの?」

いつものように返すと、ルシアンがいつにもまして真剣な瞳で尋ねてきた。

「みんな心の底から葵のこと素敵だと思って言っているのに、それを『とんでもない』とか『もったいない』って否定するのはおかしくない?」

ルシアンの言葉は、まるで私の心を見透かしているかのように真っ直ぐに響いた。彼の問いかけは、私がこれまで当たり前のように使ってきた言葉の裏に隠された意味を容赦なく突きつけてくるようだった。

「だって……私なんか……」

「違うよ、葵。」

私はまた、いつものように口ごもろうとした。だが、ルシアンはそれを許さなかった。
中道 舞夜

愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~ 尽くす側から尽くされる側へ、そして転生は偶然ではなかった? 毎日22:22に更新中!気に入って頂けたら本棚登録してもらえると嬉しいです。

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