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chapter62

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-07-20 21:38:32

「だから英二も、沙織のこと見守っててあげてね」

「はい」

 内心私も、沙織がどう決断するのか気になっていた。 沙織自身は大丈夫なんて口には出してはいるけど、本当はすごく悩んでるんだと思う。

 航太くんには言わないでって言ったけど、本当 は言うのが怖いと思う。

 沙織はああ見えて本当には、すごく弱いから。普段はクールでミステリアスだけど。

 みんなから信頼されてる分、沙織自身はすごく弱いのかもしれない。

 心の中は繊細で、下手したらすぐ折れてしまいそうなくらい傷つきやすくて、本当にすぐに泣いちゃう時があって。

 なんたって沙織の心は、繊細なガラスのハートなのだから。

 だからそんな沙織を支えてあげられるのは、ずっとそばにいる私しかいない。

 私沙織を支えてあげないとすぐにムチャをするから、身体への負担も大きくなるしね。

 そうならないためにも、私が沙織を支えてあげなきゃ。……航太くんのためにも。

 そんなことを考えていた時、スマホの着信音が鳴ったのだった。

「はいもしもし、佐倉です」

「瑞紀?俺だけど」

「か、課長……?」

 電話は課長からだった。

「お前は一体どこで道草食ってるんだ? 約束の時間はとっくに過ぎてるぞ」

「約束?……あっ!」

 そ、そうだった……。私今日、課長と食事に行く約束してたんだった。

「やっと思い出したか」

「す、すみません」

 私ってば、やっちゃった……。

「ったく……今どこだ?」

「え? あ、駅の近くです。沙織の家に様子を見に行っていて」

「なるほど。……まあそういうことなら、仕方ないな。家で待ってるから、なるべく早く来い」

「はい。すぐ行きます」

「ああ。じゃあまた後で」

 私は電話を切った。

「課長、なんですって?」

「え? ああ、沙織の様子は大丈夫なのかって」

 私はとっさにウソをついた。

「……そうですか。ところで、約束ってなんですか?」

「え? あ、あれね。大したことないから」

 そう言ってみたが、英二は気になるのか「課長と約束、してたんですか?」と聞いてくる。

「まあね。 本当は報告書を今日の夜までに出す約束してたんだけど、結局間に合わなかったから明日にすることにした」

「……そうですか」

 英二はきっと、私のウソに気づいている。 それでもなにも言わなかったのはきっと、私のためだと思う。

 英二は私の気持ちを
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