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chapter69

Auteur: 水沼早紀
last update Dernière mise à jour: 2025-07-26 16:12:15

沙織は私のことを思ってくれていることも、わかる。

「ねえ、もっと前向きに考えてみたら? もしこのチャンスを逃したら、もう次のチャンスはないよ。アンタもわかるでしょ?」

「……わかる。 わかるけど、なんで今になって言われるのかな」

「え?」

「どうせなら、課長に出会う前にその話がでてほしかった。 そしたら私、こんなに悩むことなくてすんなりと決められたのに」

 タイミングが悪すぎる……。

「まあ、確かにそうね。でもそれは仕方ないよ。……わかってると思うけど、これはアンタにとって、究極の選択なのよ。選んだ道でアンタの人生が変わる」

「……究極の、選択」

 そっか。……そうだよね。

「そうよ。その道を選んだら、アンタはもう後戻りは出来なくなる」

 後戻り……出来なくなるか。 確かに、そうだな。

 私は考えながらオレンジジュースに手を伸ばす。

「でもさ、よく考えてみなよ。 常務がアンタにその話を出したのって、常務がアンタの社員としてのスキルや実力、働きぶりを認めてるからよ?」

 そういえば……。

「……常務が言ってた」

「え?」

「常務は、私が優秀な社員だから選んだって言ってた」

 私が自分がそこまで優秀だとは思ってなかった。まだまだ未熟で勉強不足だし。

「でしょ? ってことは、アンタはそれだけ信用されてるってことでしょ」

「……そうかな」

「そうよ。だからアンタを選んだんだと思うけどね」

 沙織に言われて、私はつい「私は優秀なんかじゃないよ。 まだまだ半人前だし、学ぶこともたくさんあるのに」と口にしてしまう。

「そんなことない。アンタは充分実力があるよ。仕事もちゃんと出来るし、人に気を使えるし、部下からも信頼されてて情に厚い。……それに課長にだって、信頼されてるじゃない」

「そうかな……?」

「そうよ。 アンタはみんなから認められてるわよ。だから自信を持ちなさいよ」

「……うん、ありがとう」

 そんな私に、沙織が「これはアンタに初めて話すことなんだけどさ」と私を見る。

「うん、なに?」

「私たちが初めてこの会社に入った時、私実はやめようと思ってたんだよね」

「えっ!そうなの?」

 知らなかった……そうなんだ。

「入ったのはいいけど、ずっと雑用ばかりで、仕事なんてまともにもらえなかったじゃない?」

「まあ、そうだね」

 なんか、あの頃が懐かしいな……。

「あの時
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