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1 スカートの丈は短い方が可愛い

作者: 栗栖蛍
last update 最終更新日: 2025-05-13 08:35:49

 広井(ひろい)駅を出発して少しすると、電車は大きな川を超える。そこからはもう民家もほとんどない田舎の風景が広がっていた。

「何考えてるの?」

 小さな集落の無人駅を過ぎたところで、荒助(すさの)芙美は並んで座る相江湊(あいえみなと)に声を掛けた。虚ろ気に外を見つめる彼に芙美がそれを尋ねるのは、入学式から数えて2回目だ。

「あ、いや、天気良いなと思って」

 前も同じような返事だった気がする。促すように空を見上げた彼の視線を追うと、まだ真夏の気分を残したモクモクの入道雲が山の緑に重なっていた。

「今日も暑くなりそうだね」

「そうだな」

 ほんの少し笑って見せて、湊はまた風景に没頭する。

 広井駅を過ぎると、改札から遠い2両目の車両には他の客が誰も居なくなった。恋人同士ではないが他人という訳でもなく、芙美はなんとなく彼の側に居る。

 芙美が挨拶すれば彼はちゃんと答えてくれるし、嫌がっている様子もない。ただ毎度のように黙って外を眺める彼は、心がどこか遠くにあるような気がした。

『次は白樺台(しらかばだい)』

 少しずつ民家が増えてきたところで、アナウンスが流れる。

 山奥の小さな町の駅に下りるのは、同じ高校の制服を着た男女ばかりだ。

 エアコンのきいた車内からホームへ出ると、昨日の雨で湿度の高くなった暑い空気がムンと広がった。「あっついね」と芙美が手うちわを扇ぐと、湊が「ほら」と改札の向こうを指差す。

「咲ちゃん!」

 芙美の到着を待ってましたと言わんばかりに笑顔を広げる彼女は、同じ一年の海堂咲(かいどうさき)だ。ウエストをくるくると巻き上げた超絶ミニ丈のスカートから惜しみない美脚を晒して、駅から出る芙美を迎えた。

「おはよう、芙美。会いたかったよ。ついでに湊も、おはよう」

 大袈裟に目を潤ませる咲を冷たい目でチラ見して、湊は「おはよ」とそっけなく返事する。

「おはよう咲ちゃん。この間一緒にプール行ったばっかりだよね?」

「そんなの一週間も前だろう? それは久しぶりって言うんだよ。あの時の芙美は、めちゃくちゃ可愛かったな」

 鞄を胸に抱きしめて、咲は「うんうん」と夢見がちに何度も頷いた。

 ちなみに、咲がいつも下ろしているストレートの髪を高い位置で結わえているのは、この間プールに行った時に芙美が「ポニーテールも可愛いよ」と褒めたからだと芙美は思った。

「あの時の咲ちゃんこそ、凄かったよね」

 地味なワンピース型の水着だった芙美に対し、咲が着ていたのは布地も半分以下の大胆なビキニだった。スレンダーな悩殺ボディで見知らぬ男たちを魅了している割に、本人は彼等に全く興味がないらしい。

「折角の身体だし、隠しとくのは勿体ないだろ?」

「…………」

 疲れた溜息を吐き出す湊に、咲はニヤリと唇の端を上げる。

「何だよ湊。そんなに私の水着姿が色っぽかったか?」

「はぁ? 興味もないね」

「私の魅力が分からないなんて残念な男だな」

 咲が挑発的に胸を張ると、湊は彼女を睨みつけた顔をぷいと逸らし、面倒そうに先を歩く。

 校門では生徒会の面々に混ざって校長が生徒たちと朝の挨拶を交わしていた。三人はバラバラに「おはようございます」と頭を下げる。

「はい、おはようございます」

 校長の田中は微笑むと目が無くなってしまう、見た目も中身も温和な初老の男だ。それとは対照的に、端に立っていた風紀委員で三年の伊東がキラリと咲に目を光らせる。

「海堂さん」

 一ヶ月ぶりの服装チェックに、伊東の声も鋭く尖った。

「毎度毎度、貴女はそんなに僕の注意を受けたいんですか?」

 理由は咲のスカート丈だ。校則では『膝丈』という事になっているが、膝上二十センチの違反者を彼は無視することができない。

 けれどそんなやりとりも毎朝の恒例行事になっていて、ヒラヒラと揺れる短いスカートを指差す伊東に、咲は「いやぁん」と恥ずかしがって見せた。

「先輩、気にしすぎですよぉ。スカートは短い方が可愛いじゃないですか」

「可愛いかどうかは、ここでは関係ありませんよ」

 声色を変えた咲の主張にも、伊東は屈しない。顔を赤らめながらも「駄目です」を貫いた。

「はぁい、わかりました」

 咲は仕方なく頷いて、くるくると巻き上げてあるスカートをくるくると逆に下ろす。ようやく風紀委員納得の膝丈スカートになった。「よろしい」と頷く伊東の横で、「海堂さんは元気ですね」と校長は大して気にもしていない様子だ。

 咲は「失礼しまぁす」と頭を下げて校門を潜り、十歩ほど歩いたところで再びウエストに手を掛ける。ニヤリと策士の笑顔を芙美に向けて、彼女が再びくるくるとスカートを巻き始めたところで校長が三人を呼び止めた。

「そうだ君たち。今学期から一年のクラスに転入生が来たので、仲良くしてあげて下さいね」

「へぇ、本当ですか!」

 こんな山奥の高校に誰かが編入してくるなんて稀な事だが、わざわざ引っ越して来たのだろうか。

 どんな人が来るのかと芙美は胸を躍らせたが、咲と湊は同時に緊張を走らせた。

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