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第十六話 守るべきもののため、愛から目を背け①

last update 최신 업데이트: 2025-06-24 18:01:55

【二〇一五年 杏】

 私は何も言えず、ただ黙り込んでいた。

 魂の抜けた人形のように、身体から力が抜けていく。

 そんな私を、奴は用が済んだとばかりにぞんざいに扱った。

 勝利を確信したのだろう。

 あっさりと解放され、何事もなかったように車から降ろされる。

 そして、そのまま車は視界から消えていった。

 それでも、私はしばらくそこから動けずにいた。

 気づけば、道端でぼんやりと突っ立っていて、何度も弟の顔が頭にちらつく。

 ――早く帰らなきゃ。

 ようやくその思いが私を動かした。

 ゆっくりと歩き出す。

 けれど、あの男の声と顔が、頭から離れない。何度も何度も、あの時の会話が、脳内で繰り返される。

 あの勝ち誇ったような顔。

 思い出すだけで吐き気がした。

 なんであんな奴が……のさばっているの?

 なんで、どうして? こんなの、絶対に間違ってる。

 世の中、おかしいよ……。

 ふらふらとした足取りで家路を辿る。

 もうすぐ家に着く――新がきっと、心配して待っているはずだ。

 そう思ったとき、ある思いが胸を支配する。

 でも……どうしよう。

 あんなこと、あの子には言えない。

 言えるわけがない。

 あんな残酷な真実。

 アパートの前で立ちすくむ。

 窓から見える明かりを見上げ、深呼吸した。

 そして、自分の頬をぴしゃりと叩く。

 しっかりしろ!

 私が、新を守らないと――。

 「……よし」

 小さくつぶやいて、無理やり口角を引き上げる。

 作り笑いだっていい。

 つぶれてしまいそうな弱い自分を隠す。

 そして、私は階段を駆け上がっていった。

 「ただいまー!」

 明るく声を張り上げた。

 そんな自分が、ひどく嘘く思える。

 でも……私は、こうするしかない

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댓글 (1)
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憮然野郎
杏も、そして修司も、本当に可哀想すぎますね...
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