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ゴリゴリゴリゴリ。どこ? ここ。なにこれカーテンかけられてる。やだ。ウチ、裸だ。誰? 誰なの? ウチのミサオを奪ったイケメンは?「レイカ」「カリン? 無事でよかった」ウチ皆殺しにしたと思った。またガマンできなくて。「ゴメンね。こんなところに閉じ込めて。でも分かって。ウチらあんたが怖い」檻? 地下室なの?カリン、寝たまんまって、起き上がれないんだね。無理もないね。セイラは? ゴマすってるのか。「ごめん。それやめてくれる?」「ゴマするの、やめてあげよ」「でも。この子あんなに」「いいよ。やられるんなら、夜のうちにやられてたから」ゴリ。「レイカは、昨日ね……」「悪いんだけど、何か着るものくれないかな」「あ、ごめん。ちょっと待ってて。車にあると思うから、取ってきてくれる?」セイラ、足もとフラフラ。扉開いててよかった。外は明るいんだね。ココロどうしたろ。「レイカ、寝たまんまでゴメンね。体力使い果たしちゃったみたい」セイラより吸われてたからね。セイラ戻ってきた。「車の中、これしかなかった」やっぱり『血塗られたJK』コスなんだ。あ、カレー☆パンマンの被り物はいいです(無声)。「昨日の夜のこと」「だいたいわかるけど。ココロは?」「そのことだけど。昨日の晩、レイカが怪物になった時、あ、ゴメン」「いいよ」どうしたってウチは怪物だよね。「辺りにいた蛭人間が全部、……アレに群がって、おっきな蛭人間団子になったんだけど」〈蜂球戦術という〉また? いーかげんにしろ、げっぷやろー。「アレは地下室の外までそいつらを引き摺って行ったんだ。そして、扉が閉まったら、しばらくしてすごい地響きがして」「うん」「収まったと思ったら、今度はアレが扉開いて降りてきて、ウチ正直終わったと思ったけど、そうじゃなかった」「&h高倉さんはゴリゴリするのはなんでか知ってます? ケッコー効き目あるっぽい。シオネやココロにも効いてた。「あれも、我々の激情を鎮静させる効果があります。ただし、山椒のスリコギでなければなりません。屍人もこれは同じです」 そうなの? でも、セイラはスマフォの音でも放してくれたって。「それは、その方たちに特別な繋がりがあるからです。屍人であっても大切な人のことは分かるのです」 そうなんだ。セイラとシオネ、気持ち繋がってたんだな。これ聞いたらカリンたちきっと喜ぶよ。なら、ココロはあの時どうしてカリンを放してくれなかったんだろ。「きっと、親に、つまりはその方を殺したヴァンパイアに操られていたのでしょう」え? 「親は屍人を支配し、自由に操りますから」 あの時カリンがココロの様子がいつもと違うって言ってたけど、それは蛭人間を怖がってじゃなくって、親のヴァンパイアに操られてたからなんだ。ひょっとして、普段出歩かないココロが窓口のウチに会いに来たのも。「レイカ様を見に来たのでしょう。親のヴァンパイアがその方の目を使って」 そうだったんだ。でもなんでウチなんかを。「そうそう、ミワ様はどうされてますか?」 ん? 急にミワちゃんの話。ミワちゃん、連絡付かないんです。「お母様とミワ様のことを、お話しておこうと思いまして。いえ、この間は、大変失礼なことを申しましたが、もしや誤解されているのではないかと思い、正しくお伝えせねばと」 高倉さんが話してくれたのは、ミワちゃんが何かの疑いを掛けられて、六辻家の筆頭ってことで辻王のうちに預りの身となっていたということだった。 詳しいことは高倉さんも知ってなくて、とにかく疑いが晴れるまでは、うちで生活をすることになっていた。 でもチッキョとかナンキンって感じではなかったんだって。二人は友だちのように仲良くしていたって、ママが殺された最後の日まで。あれ? ミワちゃん、ママが死ぬ少し前に出て行ったんじゃなかったっけ。 要するに、高倉さんは、ウチが居なくなったから、ミワちゃんを娘替わりに家に置いたわけではないってことが言いたかった
ただいま。っても、返事あるわけないか。「お帰りなさいませ」 あれ? 今日、高倉さん来る日だったっけ。「特別にまいりました」 そうなんだ。「お昼はどうされましたか?」 お昼ご飯まだ食べてない。これから作るの大変だな。「店屋物でもとりましょうか」 それがいいです。そうしてください。「どんなものがよろしいですか?」 なんでもいいです。おいしければ。「お風呂、沸かしてありますから、待ってる間にいかがですか」 そうしよ。昨日の晩、入らなかったし。 気持ちよかったー。なんか久しぶりのお風呂って感じだった。てか、げっぷひどくなってきて風呂場でずっと変なおっさんたちの薀蓄聞かされてた。いつまでこれ続くんだろ。作左衛門さんは人に拠るって言ってたからな。 まったく、どいつの話もウィキペディア見れば分かるよーな内容バッカでうんざりだよ。 ん? このニオイは? イヤー、なんか和むねー。気分いーねー。おー、うな重だ!「おいしそーですね。これ頼んでいただいたんですか? お金払います」「いいえ、こういう時のためにと、前よりお母様から預かっておりましたので」ん? どぃうこと?「お母様はもしものことがあった時にと、レイカ様のために色々ご準備されていらっしゃいました」 織り込み済みってこと? まいっか。まず食べよ。「さ、お召し上がりください」 おいしそー。いただきまーす。目の前の薬味入れは。クンクン。お、うちに山椒があるなんて。じゃあ、遠慮なく。山椒掛けてっと、また掛けてっと、もっと掛けてっと、まだまだ掛けてっと。「あの、かけすぎかと。山椒が山盛りになっていますが」 あ、ほんとだ。もうちょっとかけて。もうちょっと。んーいい匂い。「お食べになりませんですか? ずっとそうして鼻をお重につけていらして」 はーい。これでいい感じデズ。「しかたがないです。辻のヴァンパイアですから」 だよねー。山椒のこと
何日ぶりかでカイシャ来てみたけど、あたしの机あった。なければないで清々したのかもしれないけど。で、なんであたしの机に足のっけてふんぞりかえってんだ、カワイ。「あ、ねーさん。カイシャ出てきていいんですか? 謹慎9月末までってもっぱらの噂ですけど」 それはすでに噂でもなんでもないだろ。うるさいからついて回るなって。あたしは厚生室の住人に用があるの。 いるかな? いたいた。北村シニアマネ。「ヒビキくん。よく来たね。進捗はどうだい」「大方は見えて来たんですけど、聞いてもらえますか?」 これまでに分かったことを障らない範囲で話してみた。北村シニアマネは聞き終わると、しばらくバランスボールでブーラブーラして、「さすがだね。そこまで分かったならどうしてここに?」「まだ宮司さんの奥さんのことが把めてないからです」「関連があるって思ってるんだ? 社長の案件と」「はい」「なぜだい?」「町長みたいな余所者が、400年続いたかれらのネットワークを勝手にできるとは思えないからです」「裏に誰かがいると」「多分、千福オーナーが」「なるほどね」「20年前に何かあったんじゃないかって」「私が、辻沢不動産を落とした時って言いたい?」「はい」「何故?」「3カ月では短すぎるからです。お師匠さんが教えたのなら『碁太平記白石噺』新吉原揚屋の段は3カ月ではあがらない」「何かあって、強制終了させられたと?」「そうです」「まあ、お稽古がどれくらいかかるかは教わる人に拠ると思うけれど、当たらずとも遠からずだよ。ヒビキくん、よく調べたね」 ここにガラ携の持ち主、調由香利が登場することになるとは思わなかった。レイカのママだ。 調由香利は知る人ぞ知る美人で、辻沢の男どもがこぞって言い寄っては振られていたのはよく知られた話。ところが北村シニアマネが千福オーナーのところでジョーロリを習ってたころ、何の前触れもなく身籠ったという噂が流れた。彼女をものにした幸せ者はいったい誰か、町の話題はそのことで持ちきりになっ
……。ゴリゴリゴリゴリ。どこ? ここ。なにこれカーテンかけられてる。やだ。ウチ、裸だ。誰? 誰なの? ウチのミサオを奪ったイケメンは?「レイカ」「カリン? 無事でよかった」ウチ皆殺しにしたと思った。またガマンできなくて。「ゴメンね。こんなところに閉じ込めて。でも分かって。ウチらあんたが怖い」檻? 地下室なの?カリン、寝たまんまって、起き上がれないんだね。無理もないね。セイラは? ゴマすってるのか。「ごめん。それやめてくれる?」「ゴマするの、やめてあげよ」「でも。この子あんなに」「いいよ。やられるんなら、夜のうちにやられてたから」ゴリ。「レイカは、昨日ね……」「悪いんだけど、何か着るものくれないかな」「あ、ごめん。ちょっと待ってて。車にあると思うから、取ってきてくれる?」セイラ、足もとフラフラ。扉開いててよかった。外は明るいんだね。ココロどうしたろ。「レイカ、寝たまんまでゴメンね。体力使い果たしちゃったみたい」セイラより吸われてたからね。セイラ戻ってきた。「車の中、これしかなかった」やっぱり『血塗られたJK』コスなんだ。あ、カレー☆パンマンの被り物はいいです(無声)。「昨日の夜のこと」「だいたいわかるけど。ココロは?」「そのことだけど。昨日の晩、レイカが怪物になった時、あ、ゴメン」「いいよ」どうしたってウチは怪物だよね。「辺りにいた蛭人間が全部、……アレに群がって、おっきな蛭人間団子になったんだけど」〈蜂球戦術という〉また? いーかげんにしろ、げっぷやろー。「アレは地下室の外までそいつらを引き摺って行ったんだ。そして、扉が閉まったら、しばらくしてすごい地響きがして」「うん」「収まったと思ったら、今度はアレが扉開いて降りてきて、ウチ正直終わったと思ったけど、そうじゃなかった」「&h
ギー。ロッカータンスが開く音。そこから出て来たのは通学靴。グレイのプリーツのスカート。赤黒い血のついた辻女の夏服。顔面蒼白で金色の瞳、四本の銀牙が唇を突き破ってその先から血の色のよだれが滴っている。でもそれは、たしかにココロだった。「子ネコ」は名前を口にしないためだったかも。屍人は名前を呼ぶと襲って来るから。「カリン。ココロだよ。ウチのことすき?」「すきだよ。生きてるとき言ってあげなくてゴメンね」 ココロがカリンに近づいて、少し体をかがめてカリンの首筋にゆっくりと口を持って行く。歯を立てているように見えないのはなぜかな。カリンが鼻をすすった。カリンがココロの制服の襟首を少し開いて、二つの穴を見せてくれる。シオンのと同じ二つの穴。ココロがくねくねしだした。「ココロ、脇の下弱点だったでしょ。今は他の場所は何しても感じないんだけど、脇の下だけはこうなんだ。かわいいでしょ」 うん。ココロかわいい。喉が小さく上下してるのも赤ちゃんみたい。「おかしいな。いつもはこれくらいで自分から放すんだけどな」「カリン。ココロってこんなミルクの飲み方?」 そういえばシオネの時とずいぶん違うように見えた。「ほんとだ。目を開けてる。今までこんなことなかった」 ココロは焦点の定まらない目できょろきょろと、あちらこちらに視線を飛ばして落ち着かない様子。「入口に何かいる? 音がするみたい。レイカ見える?」 うん。いるよ。改・ドラキュラが。ココロあいつが分かったんだ。改・ドラキュラ、近づいてきた。こっち降りて来る。くそ、ウチだって、ザ・デイ・ウォーカー。って、何ができるんだっけ。いいや、適当に戦えば、何とかなるっしょ。あれ、逃げてくよ。この間は、ぐいぐい迫ってきたのに。変なの。カーミラ・亜種じゃないから?「セイラ、ゴマすって」 セイラがゴリ……。え? セイラ倒れた。限界だったんだ。「レイカお願い。ウチもたないかも」 スリ鉢、割れちゃってる。どうしよう。そうだ、スマフォ。セイラのスマフォにゴマスリの音が。どこ? ポケット。カバン。あった。あれ? こ
風、涼しい。風にあたったら、なんか落ち着いた。しばらーくそうしてたら、ゆっくりゆっくりカリンの紫キャベツが近づいて来た。ウイィー。窓が開いて、「レイカ、正気に戻った?」 カリンが声を掛けてくれた。「もう大丈夫だよ」 後ろドアが開いて中に入れてもらった。セイラがゴリゴリゴリ。セイラがゴリゴリ。セイラがゴリ。最大級のアウェー感。「レイカ。ココロにも会って」 カリンがバックミラーを覗き込んで言った。モチロンだよ。ココロにこの間のこと謝りたいもん。「多分頷いてくれてんだろーけど、ミラー映ってないから声でお願い」「あ、はい。いいよ」 セイラ、ワラウな。さっきはゴメンね。「ついたよ。ココロんち」 お化け出そう。って、いまさらか。「ここにいたんだ」「そうだよ。ほとんど出てこない」「何でこのあいだウチとこ来たんだろ」「はっきりとは分かんないけど、血が欲しいのとは違う理由の気がする」 どうしてそれがわかるの?「この子は休んでてもらうから、レイカ行こう」「カリン。ゴマスリは? セイラがやらなきゃでしょ」「そうか。さっきのことあるか。でも大丈夫? 顔色悪いよ」「セイラは大丈夫だから。白ごまだったよね」「そう。ココロは白ごまが好き」 暗いね。なんか変な臭いする。段ボールの腐ったような。でもココロのとはちがう。ココロは日向の香りだもんね。「レイカ。ホントに大丈夫だよね。さっきみたいなのは、やだよ」「ごめんねセイラ。もうしない」 鼻つまんどくね。こーやって。やっぱ血の匂い嗅ぐと出ちゃうみたい。次は大丈夫。多分。自信ないけど。「この奥だよ」 台所だ。窓目張りしてある。昼も暗いんだな。しかし、何もないね。テーブルも椅子も。ジュータンだけ敷いてあって。カリンがジュータン剥いだら床に扉が。地下室なんだ。「ここだよ。レイカ扉持ち上げるの手伝ってくれる? すごく重いんだ」