——ルーシーの忠告とレティアの誘い
ルーシーは顔色を変えながら、さらに言葉を続けた。
「あのノクスたち、ただのオオカミじゃないのよ。漆黒の毛並みと紫の模様は、瘴気を纏っている証拠。銀色の瞳は、相手の動きを見透かすような鋭さを持ってるし、あの爪と牙は岩を砕くほどの威力があるの。群れで襲いかかれば、普通の冒険者なんてひとたまりもないわ。あれが可愛いなんて、正気の沙汰じゃないわよ!」ルーシーの声には、ノクスたちの恐ろしさを伝えようとする必死さが込められていた。しかし、レティアはその説明を聞いてもなお、にこにこと笑顔を浮かべていた。
「でもね、ルーシー。オオカミさんたち、わたしにはすっごく優しいんだよぅ♪」
レティアの無邪気な言葉に、ルーシーは呆れたようにため息をつきながら、再びノクスたちをちらりと見た。その視線には、まだ警戒心が残っているものの、どこか諦めのような気配も漂っていた。「あーそうなのね……。わたしは今日のノルマを達成させるから……えっと……レティーはどうするのかしら? 家に帰るの?」
ルーシーはちらちらとレティアを気にするように見ながら尋ねた。その仕草には少しの戸惑いと遠慮が感じられた。「あ、そーだぁ! うちに遊びに来る? ちょっと狭くて……オンボロな家だけど……よかったら♪」
レティアは甘えるような笑顔でルーシーを見つめながら、思いつくままに提案した。「え!? それって……わたしを……家に誘っているの?」
ルーシーは驚きの表情を浮かべ、思わず目を見開いて聞き返した。その反応が、レティアにとっては少し不思議だった。『えっと……家に誘ってる以外にどう聞こえるのかなぁ?』
レティアは小首をかしげながらも、再び軽い調子で続けた。「嫌だったら、べつにいいんだけど。それだったらぁ……明日も待ち合わせしてあそぼー?」 家に来るのが抵抗あるならと、彼女なりに譲歩して提案を言い換えた。「ちょ、行かないなんて言ってないし! どうしてもって言うなら……行ってもいいわよ……! 勝手に話を進めないでよねっ!」
ルーシーは顔を赤らめながらも、慌てた様子で声を荒げた。しかし、その目はどこか期待しているようで、心の中ではレティアの提案に少し嬉しさを感じているのが伺えた。レティアはそんなルーシーの反応に気づくこともなく、ただ満面の笑みを浮かべながら言った。「わーい! ルーシーが来てくれるんだね! 楽しみぃ~♪」
その無邪気な笑顔に、ルーシーは恥ずかしさを隠すように再びそっぽを向いたが、心の中ではほんの少し、暖かい気持ちが芽生えていた。 ——レティア、新たな獲物へルーシーは、慌ただしく立ち上がると、「狩りのノルマを達成させなきゃ!」と短く言い残して足早に去っていった。彼女の後ろ姿が見えなくなると、レティアはその方向を見つめながら小さく呟く。
「わたしたちも狩りをしないとね。えっと……なんて言ってたっけ? ノクスだっけぇ?」
彼女は振り返ると、待機状態でじっと座っていたノクスたちに笑顔で声をかけた。「狩りにいこうかぁー♪」その声に、ノクスたちは緩やかに反応し、立ち上がってレティアの後ろへついていった。さらに、虹色の能力で作り出した動物たちにも声をかける。「あなた達もいっしょにいくよー♪」
虹色の輝きを放つ小動物たちはレティアの言葉を受け、静かに彼女の周囲に集まった。「んーっと……あっちに何かいるね。」
レティアはふっと顔を向けて気配を感じた方向を指し示した。その先へ向かって進んでいくと、視界に飛び込んできたのは、途方もなく巨大なイノシシの魔物だった。 ——巨大イノシシ、その威容その姿を目の当たりにして、ノクスたちが一瞬動きを止め、怯んだような仕草を見せた。その反応にレティアは首を傾げながら、目の前の魔物をじっくりと見つめる。
その体格は、普通のイノシシとは比べものにならないほど巨大で、まるで岩のように硬そうな筋肉質の体躯をしていた。体毛は荒々しく逆立ち、暗い闇に溶け込む漆黒の毛並みには赤黒い模様が不規則に走っている。特に目を引くのは、その牙だった。
イノシシの牙は、鋭く光る刃のようで、まるで何度も命を奪ってきたかのような冷たさを纏っていた。その表面は紫色に染まった液体が滴り落ち、毒のような瘴気を周囲に漂わせている。牙が光を反射するたびに、まるで命を狙う刃が振りかざされるような錯覚を覚えさせた。
赤い瞳は獰猛で、まるで相手の心を射抜くかのような鋭さを持っていた。それは単なる動物の目ではなく、敵を狙う捕食者そのものの目だった。地面を踏み鳴らす度に、巨体の重みで大地が震え、周囲の木々がかすかに揺れる。その音だけで、見る者の心を恐怖で掴んでしまうほどだった。
突然、そのイノシシの魔物は牙を振り上げ、「プシュー!」という激しい音とともに紫色の息を吹き出した。その異様な息が周囲に充満し、甘ったるいような、しかし危険を感じさせる不快な匂いが立ち込めた。息が触れた木々はすぐに枯れ始め、枯葉が落ちる音が静寂を一層際立たせた。
威嚇するように地面を掘る前足が、鋭い爪で深い溝を刻んでいく。筋肉の動きが一つ一つ鮮明に見えるほど力強く、その迫力にノクスたちですら一瞬怯む仕草を見せた。
レティアはその姿を見上げながらも、驚きよりも興奮と好奇心が勝った様子で、「おおきいねぇ……すごい迫力ぅ!」と呟いた。一方で、彼女の背後に控えるノクスたちが緊張感を持って低く唸り声をあげ、彼女を守るように動き出そうとしていた。
その説明を聞いたレティアは目を丸くし、ついに実感が湧いたような表情を浮かべた。彼女の瞳は驚きで大きく見開かれている。「え? なにそれ……わたし、お金持ちじゃーん。」 彼女は嬉しそうに笑いながらさらに続けた。その笑顔は、純粋な喜びに満ちている。「その数、わかんないけど……いっぱいだよね、すごくいっぱいな気がするぅ!」 フィオはその言葉に合わせるように微笑みながら、分かりやすい例を挙げた。彼女の声は優しく、レティアが理解しやすいように工夫されていた。「あ、レティーちゃんには、その例え分かりやすいかもね。お菓子何個分換算! 大体、銀貨1枚くらいだもんね。それに紅茶付きだし……雰囲気も豪華で貸切状態って最高だよね。」 レティアはその説明にさらに興奮しながら笑い、心配していた気持ちがすっかり晴れている様子だった。甘いデザートと楽しい仲間たちが、彼女の心をさらに軽やかにしていた。彼女の周りには、幸せな空気が漂っている。 ♢体型への懸念と新たな討伐計画 レティアが楽しそうな表情を浮かべながら呟いた。彼女の視線は、目の前のデザートから離れない。「わたし、毎日通っちゃうかも……」 その言葉を聞いたフィオは残念そうな顔をして、レティアの体をちらりと見つめながら言葉を返した。彼女の目には、少しの心配がにじんでいる。「それ、太っちゃうよ……可愛い体型がぁ……。」 レティアは驚いた顔をしてフィオを見つめる。彼女の眉は上がり、純粋な驚きが表情に現れていた。「え? そうなのぉ?」 フィオはキッパリと断言する。その声には、一切の迷いがない。「そりゃ……甘いものを食べて動かなきゃ太るね。」 ジェレミーも微笑みながら優しく言葉を添えた。彼の表情は穏やかで、フィオの意見を裏付けているようだった。「はい。太りますね……。ですから私も、訓練後のご褒美として食べると言ったのですよ。」 その言葉を聞いたレティアは、突然思いついたように笑顔で声を上げた。彼女の瞳は、新しいアイデアに輝いている。「運
フィオも負けじとカウンターの前で悩みながら、ニコニコと笑って注文する。彼女の指先が、ショーケースのガラスを優しくなぞる。「わたしは、チョコレートパフェにしようかな! 甘いのって元気が出るよねー♪」 一方でジェレミーは、ショーケースをじっと見つめて何を頼めばいいのか困っている様子だ。彼の眉は少し下がり、迷いの表情が浮かんでいた。それを見たレティアが明るい声で提案した。「ジェレミーはこれにしたら? このケーキ、すっごく美味しそうだよぅ!」 ジェレミーは微笑みながら頷いた。彼の顔には、レティアの提案への信頼がにじんでいる。「では、それにします。レティア様のおすすめなら間違いありません。」♢デザートの歓びと新たな希望 それぞれのデザートがテーブルに運ばれてきた。皿の上に置かれたデザートは、まるで宝石のように輝いている。レティアは目を輝かせながらイチゴのタルトにナイフを入れ、クリームとイチゴを一緒に口に運ぶ。その一口で、彼女の顔は至福の表情に変わった。「ん~っ! 甘酸っぱくて美味しい~♪ ゼリーもプルプルしてるよぅ~!」 フィオはチョコレートパフェをスプーンですくいながら嬉しそうに笑う。スプーンの先からは、冷たいチョコアイスの香りが漂ってくる。「すごーい濃厚! チョコとクリームが絶妙だねぇ♪ あ、クッキーもサクサクしてて美味しい!」 ジェレミーは勧められたケーキをフォークで丁寧にすくい、一口食べた瞬間、驚いたように目を見開いた。その柔らかな舌触りと上品な甘さに、彼の表情は感動に包まれていく。彼の口元からは、小さな感嘆の声が漏れた。「おお……これは柔らかく、甘さがちょうど良いですね。久しぶりに、こんなに美味しいものをいただきました。」 彼はしばらくの間、ケーキの味わいに浸りながら、感慨深げに続けた。彼の瞳には、遠い過去の記憶が映し出されているかのようだった。「失われた身体の自由が、こうして少しずつ戻ってきていることを実感できます。次回もこれを……また頼みたいと思っています。体も自由に
ジェレミーはその純粋な言葉にさらに感動し、改めて頭を下げた。彼の心には、レティアとともに新たな冒険を支える覚悟がしっかりと芽生えていた。その姿は、忠誠と決意に満ちていた。♢レティアの隠された才能と仲間への思い「っていうか、レティーちゃんって……剣術もできるんだ? すごいね……」 フィオは驚きと尊敬の入り混じった表情で、レティアに問いかけた。その瞳は純粋な好奇心に輝いている。「魔術師だと思ってたけど……違ったんだねー」 その言葉に、レティアが答える前に、ジェレミーが静かに口を開く。彼の声は落ち着いており、確信に満ちていた。「ええ。レティア様の色表適性は完璧ですので、どの職業でも遜色なくこなせるはずです」「もぉ〜、余計なこと言わないでよぅ……!」 レティアは恥ずかしそうに視線を落とし、頬をほんのり赤らめながら呟いた。彼女の頬は、夕焼けのように淡く染まっている。そして、ふいに顔を上げて、ふたりに向き直る。「あ、でもね〜……ルーシーにはナイショだよっ! 本気で剣術やってる子にこんなの見せたら、ややこしくなっちゃうから〜」 その言葉に、フィオもジェレミーも素直に頷いた。彼らの間には、レティアの願いを尊重する空気が流れる。「……そういうことですか。了解しました」 ジェレミーが淡々と返すと、フィオはレティアの隣にそっと寄り添い、柔らかな声で言った。彼女の指先が、レティアの腕に優しく触れる。「あぁ、うん。レティーちゃん、優しいね〜♪」 するとレティアは、少し照れたように笑いながら答えた。その笑顔は、花が綻ぶように可愛らしい。「そうかなぁ? だって、大切なお友達だし……仲良く、ずっと一緒にいたいじゃん♪」「もちろんフィオも、ジェレミーも……ずっと一緒にいてほしいなぁ〜♡」 その
彼はその場に跪き、深々と頭を下げた。その頭上からは、彼の感謝と感動が伝わってくるかのようだった。♢治癒の魔法と挑発的な勝負 しかし、そんな感動的な場面にも関わらず、レティアは無邪気な笑みを浮かべたまま、さらりと言った。その表情には、一切の計算がない。「べつに……いーよー♪ じゃあさ、わたしと勝負してみちゃう?」 その挑発めいた言葉に、ジェレミーの目には再び情熱が灯った。彼の瞳は、かつての冒険者としての輝きを取り戻していた。苦笑いを浮かべながらも、意欲的な声で答える。「ぜひ、ですが……お手柔らかにお願いします。」 ジェレミーは剣を構え、慎重に間合いを計りながら、一歩、レティアへと踏み込んだ。彼の足音は、固い床に小さく響く。そして一気に動き出し、渾身の一太刀を振り下ろす――!風を切り裂くような剣閃が、レティアへと迫る。♢治癒の魔法と挑発的な勝負 だが、レティアは柔らかな笑みを浮かべたまま、その一撃を軽々と弾き飛ばした。金属が乾いた音を立て、ジェレミーの剣は虚空を斬る。「っ……!」 ジェレミーは目を見開きながらも、すぐに体勢を立て直し、再び攻撃に転じる。鋭く、迷いのない連撃。彼の剣は、流れるような動きでレティアへと迫る。そのたびに激しい金属音が施設内にこだまし、空気を震わせた。 しかし、レティアは涼しい顔でそれらをいなし、時には片手で軽々と受け流してみせる。その身のこなしは、まるで舞うように――優雅で、どこか楽しげだった。彼女の周りには、剣と剣がぶつかる火花が散り、その光がレティアの笑顔を照らす。「ねえねえ、本当に本気出してる? くすぐったいくらいなんだけど~♪」 レティアは、軽やかな声で笑いながら剣をさばき続ける。まるで攻撃そのものを楽しんでいるかのような、余裕の態度だった。その瞳は遊び心に満ちている。 一方のジェレミーは、全力を出し尽くす覚悟で食らいついていた。息は荒く、額には汗が滲む。彼の体からは湯気が立ち上り、その激しさを物語って
レティアは目を輝かせながら頷き、興奮気味にフィオに向かって言った。その瞳は、まるで星を映したかのようにキラキラと輝いている。「わたしの剣もピカピカにしたいなぁ~♪」 フィオは頬に手を当てて笑いながら答えた。その笑い声は、心地よい音色を奏でる。「それならここに預けたらどう? レティーちゃんの剣もきっともっとキレイになるわよ。」 次に訪れたのは物理攻撃の練習施設だった。広大な空間が広がり、床は頑丈な素材で作られていた。どこまでも続くかのようなその広さに、思わず息をのむ。中央には動く標的が設置されており、人型や魔物型など様々な形が用意されている。これらは魔法で制御され、自由に動き回ることで実戦のような訓練が可能だ。標的の表面には、無数の打撃痕が刻まれている。 さらに施設の片隅には「攻撃力測定器」が置かれており、冒険者が放った一撃がどのくらいの威力だったかをリアルタイムで確認することができる仕組みになっていた。壁際には武器がずらりと並べられており、冒険者が自由に使えるように整備されている。剣や斧、槍などが、鈍い光を放っていた。 レティアは広い施設を見渡し、飛び跳ねるように喜びを表現した。その動作の一つ一つが、彼女の無邪気さを物語っている。「わぁー! ここすっごい広いねぇ! これ、叩いてもいいの?」 ジェレミーは微笑みながら頷いた。彼の表情は穏やかで、レティアの好奇心を受け止めているようだった。「もちろんです。標的は魔法で修復されますので、どうぞ思う存分試してみてください。」 レティアは嬉しそうに武器棚から小さな剣を手に取り、早速動く標的に向かって駆け出した。その足取りは軽く、まるで風のようだった。「えいっ! どうだぁ〜!」 剣を振り下ろすと標的はクルクルと動きながら受け流すように避けた。それに驚いたレティアは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔を浮かべ、追いかけながら楽しそうに大きな声を上げた。その声は、広大な施設の中に響き渡る。「すごーい! 追いかけっこみたいだねぇ〜! フィオ、こっち来て一緒にやろうよ〜♪」 フィオは笑いながら少し距離を保ちつつ答え
彼は部下に指示を飛ばし、探索中のサポート体制を整えながらレティアとフィオを見守る準備をした。部下たちはきびきびと動き、それぞれの持ち場へと向かっていった。 ジェレミーは施設内の広々とした廊下を歩きながら、部屋や設備について説明を続けた。絨毯が敷かれた廊下は柔らかな光を放つランプによって照らされており、どこか温かみのある空間が広がっている。絨毯は足音を吸収し、廊下は静かで心地よい。 レティアは大きな目を輝かせながらあちこちを見回し、興奮気味に声を上げた。彼女の視線は、壁の絵画や装飾品に釘付けになっていた。「うわぁ〜すごーい! 豪華な絨毯だぁ〜! あっ、この壁の絵もすっごいキレイだねぇ♪」 フィオはその様子を微笑みながら見つめ、ジェレミーに声をかけた。彼女の優しい声が、廊下に響く。「こんなに広々とした廊下なんて、贅沢な施設ですよね。」 ジェレミーは柔らかな声で答えた。彼の声には、施設の品質に対する誇りがにじんでいる。「はい。冒険者の皆様が快適に過ごせるよう、細やかな配慮が施されています。」 レティアは絨毯を蹴って軽くジャンプしながら笑顔で声を上げた。彼女の体が軽やかに宙を舞う。「ねぇねぇ、次はどこ行くの〜?」 ジェレミーは微笑みながら先へ進む。次に向かったのは広々とした食堂だった。食堂の天井には美しいステンドグラスの窓が設置されており、昼間は自然光が差し込む仕様になっている。夜である今は、ランプの光がステンドグラスに反射し、幻想的な輝きを放っていた。ショーケースには彩り豊かな料理や、レティアが喜びそうなお菓子が並んでいた。甘い香りが、レティアの鼻腔をくすぐる。 レティアはショーケースを見つけると目を輝かせ、フィオの腕を引っ張った。彼女の指先は、フィオの腕にしっかりと食い込む。「フィオ! これ見て見て〜! ケーキもあるし、クッキーもあるよぅ♪ 食べられるかなぁ?」 フィオは笑顔を浮かべながら頷いた。彼女の目は、レティアの喜びを分かち合うかのように細められていた。「レティーちゃんが食べたいなら、注文すればいいんじゃない?」 ジェレ