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・Chapter(26) これからどうする?

last update Last Updated: 2025-07-09 22:01:07

聞き覚えの無いメロディが、枕元で鳴り響いた。

しかし、そのメロディは数秒で途切れる。

薄目を開け、ゆっくりと瑞穂がメロディの発信源に視線を向けると、和田マネージャーがスマートフォンを手に取り、アラーム機能を解除していた。

「おはよう」

昨晩のやり取りがあったからか、和田マネージャーのその笑みは、どこか作り笑顔じみていた。

「……おはようございます」

瑞穂はアクビをすると、目尻に溜まった涙を拭った。

「今、何時ですか?」

「8時半」

答えた和田マネージャーはベッドから起き上がると、玄関まで向かい、照明のスイッチをオンにした。

「高畑さん、何か飲む?

コーヒーと紅茶と緑茶があるけど?」

人工的に作られた朝の光の下、和田マネージャーがT-falのポットの前に立つ。

朝から、胸焼けを起こすコーヒーなど飲みたいと思わず、粉末を入れた緑色の熱いお湯に飲む価値があるのか、と思った瑞穂は、消去法で「紅茶」と答えた。

「りょーかい」

和田マネージャーは頷くと、洗面所で手を洗い、カップの一つにドリップバッグを装着した。

そして、もう一つのカップに、瑞穂の要望であるティーバッグを入れると、T-falを傾け、双方のカップに湯を注いでいく。

「はい」

バスローブの前をはだけさせたまま、和田マネージャーは紅茶の入ったカップをソーサーに載せ、瑞穂に手渡した。

「ありがとうございます」

瑞穂は添えられたスティックシュガーを入れると、ティーバッグを取り出し、スプーンで紅茶と砂糖をかき混ぜる。

朝に飲むストレートティーは安物ではあったが、それなりの清涼感を与え、冷房で冷えきった瑞穂の身体をほのかに温めてくれた。

しかし、昨夜の雨で体調を崩したようで、瑞穂はくしゃみを二回し、鼻をすする。

「大丈夫?」

ブラックコーヒーを飲みながら、和田マネージャーが瑞穂に視線を向ける。

「……大丈夫です」

瑞穂は笑うと、はだけたバスローブの隙間でトランクスを膨らませている、和田マネージャーの股間にそれとなく目をやった。

──アレが昨日、アタシの中で暴れていたんだな。

初体験の時には異生物としか思えなかった、男性のぺニスに中をかき回され、足指までしびれた昨夜のアバンチュールを思い出しながら、瑞穂は紅茶を飲んでいく。

·

「ここ、何時に出なきゃいけないんでしたっけ?」

紅茶を飲み終え、カップとソーサーをガラステーブルに置
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