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第576話
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元夫、ナニが終わった日 第604話
広間の入口で、佳子は完全にその場に固まってしまった。彼女の瞳は信じられないものを見たように、広間の中の光景をじっと見つめている。迅が、本当に茜と結婚している。どうして……そんなはずがない！逸人が横から冷たく言った。「これが現実だ。今、自分の目で見たよな？これは古川と桜井の結婚式だ！」佳子はかぶりを振り、一歩後ずさった。その時、広間の中で司会者が舞台に上がり、マイクを手に話し始めた。「ご来賓の皆様、お忙しい中、古川迅様と桜井茜様のご結婚式にお越しいただきありがとうございます。ただいまより、式を正式に開始いたします。新郎新婦のご入場です！」照明が一斉に落とされ、ゆったりとした結婚行進曲が流れ始めた。茜は迅のたくましい腕に手を添え、二人でゆっくりとレッドカーペットを進んでいった。そして、牧師の前に立った。牧師は二人を見て口を開いた。「桜井茜さん、あなたは古川迅さんを夫として迎えることを自ら望みますか？貧しくても、裕福でも、健康でも、病に倒れても、決して離れないと誓いますか？」茜は頬を赤らめながら答えた。「はい、誓います」牧師は続け、迅を見つめた。「古川迅さん、あなたは桜井茜さんを妻として迎えることを自ら望みますか？貧しくても、裕福でも、健康でも、病に倒れても、決して離れないと誓いますか？」その瞬間、佳子は自分の心が砕ける音を聞いた。鋭い刃物が胸に深く突き刺さったかのような痛みだった。まさか、迅が茜と、本当に結婚式を挙げているなんて。迅が、本当に茜と結婚するのだなんて。逸人が冷笑を漏らした。「ようやく目が覚めたか？君、古川の母を世話して、妹の世話までしてきたのに、古川は別の女と結婚してるんだ。ずっと君を騙してたんだよ。あいつは最低の男だ！」迅は自分を騙していたの？迅は本当に、茜を娶るつもりだったの？佳子はどうしても信じられなかった。彼女はポケットからスマホを取り出し、迅に電話をかけようとした。逸人「もうここまで来て、まだ諦められないのか？」「これは私と迅の問題だ。あなたには関係ない！」その言葉に、逸人は拳を強く握りしめた。佳子はもう自分のことが好きじゃないと、逸人ははっきり分かった。佳子の心は、完全に迅に向かっている。佳子は、迅のことが本当に、本当に大好きみたいだ。佳子は迅の電話番号を開き、通話ボタ
元夫、ナニが終わった日 第603話
佳子は逸人に強引に連れられ、ある大きなホテルへと連れて行かれた。佳子は抵抗しながら叫んだ。「離して！どこへ連れて行こうとしてるか知らないけど、私は絶対に行かない！」逸人は冷たく笑った。「君は一体何をそんなに怖がってるんだ？」佳子「怖がってなんかない。ただ迅を信じてるの。誰かを選んだなら、その人を信じるのが当然でしょ。私は迅が他の人と結婚するなんて信じてない！」「バカだな。古川は君のその信頼を、無条件の寛容さを、純粋さを利用してるだけだ。あいつは二股をかけて、女の気持ちを弄ぶクズ野郎なんだよ！」「黙って！私の彼氏を侮辱しないで！迅は私のものよ、誰にも侮辱させない！」「古川が君のもの？」と、逸人の視線は佳子の全身をなめるように見た。「どういう意味？まさか古川と関係を持ったってことか？」佳子は逸人を睨みつけた。「あなたには関係ないでしょ！」彼女はその場を離れようとした。しかし、彼女の白く細い手首は逸人に強く掴まれた。逸人は目を赤くしながら詰め寄った。「君、本当に古川と寝たのか？言えよ！答えろ！」逸人は今にも爆発しそうなほど感情が高ぶっており、鋭く彼女を追い詰めた。佳子はまっすぐ彼を見返し、落ち着いた口調で言った。「そうよ。私たちは寝たの。それで満足？」逸人の手は無意識に拳を握りしめた。「君たち、まだ結婚もしてないのに、そんなことするなんて、自分を大切にしてない証拠だ！」佳子はふっと笑った。「は？どこから出てきたのよ、その時代錯誤な考え。迅は私の恋人よ。愛し合って関係を持ったって、何が悪いの？」逸人は反論しようとした。「君たち……」「私を非難する資格あるの？あなただって、堀田舞と結婚してないのに、もう関係持ったじゃない。私を『自分を大切にしてない』って言うなら、あなたはどうなの？」佳子の鋭い一言が、逸人の口を完全に塞いだ。そうだ、自分は舞と関係を持った。だが自分は今、それを心底後悔している。そして今、佳子が迅と関係を持ったと知り、彼の目は真っ赤になり、嫉妬が爆発寸前までこみ上げてきた。まるで、迅という存在をこの世から消し去りたいほどの衝動が湧き上がってきた。「放して！もう帰る！」その時、逸人は佳子をぐいっと引っ張り、前方へと連れ出した。「何するのよ！痛いってば！」逸人は佳子をホテルの大広
元夫、ナニが終わった日 第602話
迅は自分がとても身勝手だと分かっている。何ひとつ彼女に与えられないくせに、それでも彼女を抱きしめた。自分は、彼女を失うのが怖くて仕方がなかった。佳子は腕を伸ばして彼の首に回し、こう言った。「迅は私だけのもの。分かった？」迅は私だけのもの！それは、佳子が迅に抱いている独占欲だ。迅は佳子の後頭部に手を添え、その唇に口づけをした。だが、それはほんの一瞬の軽いキスだった。すぐに唇を離すと、佳子はおとなしく彼の胸に頬を預けた。迅「佳子、もう寝よう」確かに眠くなった佳子は、そっと目を閉じた。佳子が目を覚ましたとき、迅の姿はすでになかった。その日から高校の入学試験が始まり、佳子は奈苗を試験会場まで送り届けた。初日の試験はとても順調で、奈苗は採点予想で満点近い点数を出した。かつて迅も理系トップ成績で県の一位となった過去があり、奈苗はまさに兄にそっくりだ。したがって佳子は、奈苗には大きな期待と自信を抱いている。翌日も、佳子は奈苗を試験会場に送り届けた。佳子が外で待っていると、突然一台の派手なスポーツカーが近づいてきた。車から降りてきたのは逸人だった。逸人は佳子の前に駆け寄った。「君、なんでまだここにいる？」佳子は彼に構いたくなくて言った。「私は奈苗の試験が終わるのを待ってるの。ここは試験会場よ。騒いだり、関係ない人がうろつくのは禁止されてるの。すぐに帰って」佳子の冷たい態度に、逸人は怒るどころか、にやっと笑った。「これは古川の妹だよな？君、彼の妹にこんなによくしてどうする？古川が今何してるか知ってるか？君ってほんと、哀れで笑える大馬鹿じゃん！」逸人の告げ口はこれが初めてではなかったので、佳子はすっかり慣れた。彼女は目線すら上げずに答えた。「また何を言うつもりなの？今も迅はカジノにいるんでしょ。分かったから、もういいよ。言わなくていい」逸人は冷たく笑った。「違うんだよ。古川は今カジノになんかいない。じゃあ、君当ててみろよ。彼が今どこで何をしてるか」佳子は逸人をちらっと見ただけで言った。「何を言いたいか知らないけど、私は聞くつもりはない。だから今すぐ帰って！」逸人は佳子を見つめた。「本当に聞きたくないのか？でも俺はどうしても言いたいんだよ。今日は、古川のおめでたい日なんだよ！」おめでたい日？佳子は眉をひそめて聞い
元夫、ナニが終わった日 第601話
佳子は迅を見つめて言った。「迅、今夜はもう帰らなくていいの？」迅はちょうど茜をなだめ終えたところで、今はこっそり戻ってきただけだった。まだ帰るつもりはあるが、それは夜中のことだ。したがって、彼はもう少し時間がある。迅「先に寝ていいよ。君が寝たら、俺は出ていく」佳子は布団の一部をめくり、自分の隣の場所をぽんぽんと叩いた。「じゃあ、こっちに入って。中は暖かいよ」迅は布団に入り、佳子の隣に横になった。佳子の柔らかく温かな体が寄り添い、小さな頭を彼の腕にのせ、澄んだ黒い瞳でじっと彼を見つめた。迅の胸の奥がぎゅっと締めつけられ、思わず彼女を抱きしめた。二人は寄り添ったまま、迅は佳子の隣にいる奈苗の方を見た。奈苗は内側で眠っており、ぐっすり寝入っているようだ。「奈苗はいつ寝たの？」「確か十時くらいかな。寝る前にしっかり復習してたよ。明日からは入試で、三日間あるの。明日は朝から試験会場に連れて行くから、迅は心配しないで」佳子は話しながら、迅を安心させようとした。迅の唇がわずかにゆるんだ。今の生活はまるで彼の両親がかつて送っていた日々のようだ。父親は外で働き、母親は家庭を守っていた。父親が忙しく外を飛び回っている間、母親は家のすべてを整えていた。だが、佳子にはそんな義務はない。今の自分は本当に余裕がなく、身動きがとれない状況なのに、佳子はずっと自分のそばにいてくれている。迅は目を伏せて佳子を見つめた。「佳子、俺……」佳子は彼の口元に指をあてて言った。「シーッ、感謝の言葉ならもうたくさん聞いたから、もういいよ。私がやってることは、自分がそうしたくてやってるの。ねえ、奈苗ってすごく優秀でしょ？あと十年もしたら、きっと立派になると思う。そしたら、私もそのおこぼれにあずかれるかも。それって投資みたいなもんじゃない？」佳子は目元を細め、にっこりと笑った。迅は力強い腕で彼女をしっかりと抱きしめ、彼女の長い髪にそっと口づけをした。そして低く「うん」と応えた。その時、佳子が彼の服を掴み、子犬のように鼻を近づけて匂いを嗅いだ。迅「どうした？」佳子「迅から女の香水の匂いがする！」佳子の嗅覚はとても鋭い。しかも、女性として、特に女性の香水の匂いには敏感だ。迅の心臓がドクンと跳ねた。今日は一日中茜と一緒にいたのだから、
元夫、ナニが終わった日 第600話
迅の目は赤く充血し、佳子の柔らかな声と優しい慰めに包まれながら、熱い涙が次々とこぼれ落ちた。迅は手を伸ばし、佳子をぎゅっと抱きしめた。彼はこらえきれずに泣き崩れ、かすれた声で嗚咽した。「佳子……俺、もうお母さんがいない……お父さんもお母さんも、もういないんだ……」佳子も迅をしっかりと抱きしめた。これは、彼が初めて自分の弱さと脆さを誰かに見せた瞬間だった。人前で涙を流すのも、これが初めてだった。佳子は静かに頷いた。「わかってるよ、迅。でも、迅には奈苗がいる。それに、私もいる。私はずっとずっと、迅のそばにいるから」そう言いながら、彼女はつま先立ちになり、両手で迅の端正な顔を包み、そっとその額にキスをした。おでこへのキス。それは、最も深い愛しさと慈しみのしるしだ。迅は再び佳子を力強く抱きしめた。……迅は戻っていった。戻らなければならなかった。病院ではすでに迅の母親の後事が整えられ、佳子と奈苗は遺骨を抱いて帰宅した。佳子は迅の母親の遺骨と位牌を祭壇に置き、奈苗は線香を一本立て、深く頭を下げた。「奈苗、今夜はここでお通夜をして、明日からは私の家で暮らそう」奈苗「でも佳子姉さん、私はここに残りたい」「だめよ。女の子が一人でここに住むのは危ないわ。私と一緒に帰るのよ。この件は話し合いの余地なし。私の言うことを聞いて」と、佳子は毅然とした口調で言った。奈苗はおとなしく頷いた。「わかった」佳子は彼女の頭を優しく撫でた。「うちには部屋がたくさんあるし、お父さんも千代もすごく優しい人よ。きっと奈苗のことも大好きになる。だから、怖がらなくていいの。今夜はもう遅いし、明日も学校あるんだからね。入試が近いでしょ。部屋で休んでいいよ。私がここにいるから」奈苗は首を振った。「佳子姉さん、私もお母さんのために通夜を守りたい」佳子は無理には引き止めず、布団を出して床に敷いた。「奈苗、じゃあここで一緒に寝よう」「うん」二人は一枚の布団にくるまった。布団の中はすぐに温かくなった。奈苗は復習ノートを取り出し、勉強を始めた。強く、勇敢に、奈苗は母親が望んだ姿を生きようとしている。その姿に佳子は心が安らぎ、照明の明るさを少しだけ上げた。一時間後、奈苗は本を抱いたまま眠りに落ちた。佳子はそっと本を抜き取り、布団をかけ直した。佳子は
元夫、ナニが終わった日 第599話
迅の目は赤く腫れ上がった。この間、彼はほとんど家に帰っていなかった。母親や妹に自分のしていることを知られたくなかったし、外の人にも母親や妹の存在を知られたくなかった。彼は自分の家族を守ろうとしているのだ。しかし、今日は突然、母親が倒れてしまった。迅「お母さん、具合が悪いのにどうして教えてくれなかったんだ？」迅の母親は答えた。「迅、お母さんは苦しまずに済んだよ。佳子さんがよく世話してくれて、先生からも一番いい薬をもらったからね。迅、お母さんは迅の負担になりたくないの。迅には楽しく平穏に生きてほしい。もしお父さんがまだいたら、きっと同じ願いを持っているはずよ、わかる？」迅の母親は迅に、彼の父親の辿った道を歩ませたくなかったので、ずっとそう諭していた。迅は母親の手を握った。「お母さん、安心して。今回の結末は絶対に違う」迅の母親の涙が頬を伝い落ちた。「みんな」佳子と奈苗が前に出てきて、二人とも迅の母親の手を握った。迅の母親は三人の手を重ね合わせた。「お母さんはもう行くよ。悲しまないでね。お母さんはお父さんのところへ行くの。あの人はずっと一人でいるし、私はここで一人であなたたちを育ててきた。きっとすごく寂しかったはずなの」佳子の涙がぱらぱらとこぼれ落ちた。「迅、お母さんは奈苗をあなたに託すわ。奈苗はあなたの妹よ、しっかり面倒を見てあげて。それから佳子さんだ。佳子さんは本当に良い子だ。彼女があなたのそばにいるのは幸運なことよ。大切にしなさい」迅は嗚咽しながら言った。「お母さん、わかってる」迅の母親は微笑みを浮かべた。「お母さんは一生幸せだったよ。若い頃はお父さんがいて、後はあなたたちがいてくれた。人生に完璧はない。まずまずが大事さ。お母さんは行くね」すると、迅の母親はゆっくりと目を閉じ、穏やかに息を引き取った。実際のところ、迅の母親にはまだ言えないままの心残りや未練があった。夫への未練、子どもの成長を見届けられなかったことへの後悔。しかし、時間はなかった。彼女はやがて旅立った。迅と奈苗は声をあげて泣いた。「お母さん！」迅の母親は世を去った。しばらくすると、佳子は迅を見つけた。彼は暗い廊下の中、一人で立っており、凛々しい背中を壁に寄せている。コートは着ておらず、中に黒いニットを着ている。青年の引き締まった体が
