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第405話
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再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない 第417話
「もし悠斗くんが瑛優ちゃんを探しに行ったのなら、二階にいる可能性がある」と涼は言った。二階は生徒たちの舞台衣装への着替え場所として使われていたからだ。夕月は涼との通話を切らず、スマートフォンをズボンのポケットに滑り込ませた。肩から下げていたリュックを降ろし、中から水筒を取り出した。水筒の水でハンカチを濡らしながら、彼女は尋ねた。「このハンカチで口と鼻を覆って二階に駆け上がったら、どれくらい持つと思う？」「火の勢いが収まらなければ、56秒以内に退避する必要がある」と涼は即答した。彼は素早く計算を終えていた。56秒後には二階の一酸化炭素濃度が臨界値に達し、それ以上留まれば夕月は意識を失う危険性があった。「わかった、じゃあカウントダウンをお願い」夕月は自分の命を、講堂の外にいる涼に委ねた。二人は離れた場所にいながら、まるで背中合わせで未知の危険に立ち向かうようだった。濡れたハンカチで口と鼻を覆い、夕月は二階へ駆け上がった。スポーツカーの中で、涼はノートパソコンを前に据え、表情は硬く引き締まっていた。後部座席に座った瑛優は、画面に映る夕月の姿を見つめながら、一言も発しなかった。今は静かにしていなければならないこと、ママの邪魔をしてはいけないことを悟っていた。*講堂内で、二階に駆け上がった夕月は、各部屋を次々と確認していった。突然、廊下に立ったまま、かすかな泣き声が聞こえてきた。泣き声の方向へと進み、ドアを開けると、そこには床に倒れ、ロープで縛られた悠斗の姿があった。喉からは小さな鳴き声が漏れていた。顔を上げた悠斗は、目の前に現れた夕月を見た。「どうしてこんなに遅いんだよ！！」彼は叫んだ。息子を見つけた夕月は、すぐに駆け寄った。悠斗を縛るロープのもう一方はテーブルの脚に結びつけられていた。幸いなことに、結び目は簡単な輪結びだった。夕月は一目見ただけで、どう解けばいいかわかった。ロープを解くと、悠斗は彼女の胸に飛び込んできた。「ママ！！」その懐かしさに満ちた呼び声に、夕月の胸が震えた。このような危機的状況で、彼女は感情を抑えようと必死だった。悠斗がなぜ縛られていたのか考える余裕もなかった。濡れたハンカチを悠斗に渡し、口と鼻を覆うよう促した。夕月は悠斗を抱き上げ、その場を離
再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない 第416話
「もしママが火の中に飛び込んでこなくても、パパにあなたを責めさせたりしないよ。だってそれは、ママがボクにどれだけ冷たいか証明してくれたことになるんだから」アシスタントが躊躇していると、悠斗は容赦なく最後通告を突きつけた。「ボクの言うとおりにしないなら、クビにしてやる！」悠斗の最後通告を聞いて、アシスタントの足はガクガクと震えた。今の時代、仕事を探すのはどれほど難しいことか。こんな高給の仕事を失うわけにはいかなかった。それに、彼は実は火のつけ方をよく知っていた。以前、消防署でアルバイトをしていて、様々な建物火災の訓練で火をつける役目を担当していたのだ。*天野は携帯を取り出し、涼に電話をかけた。発表会が終わり、みな帰る準備をしていた。涼はスポーツカーに座り、少し離れたところで天野のSUVが停まり、突然夕月が飛び出していくのを目にした。車から降りようとした瞬間、電話が鳴った。電話に出ると、天野の声が聞こえた。「瑛優を頼む。講堂で火事が起きて、まだ中に取り残された人がいる。消火装備を探してくる」涼は振り向いて講堂の方を見た。上階から立ち上る炎が夜空を明るく照らしていた。天野は元軍人で、消火活動には経験豊富だった。講堂で火事と聞いた瞬間、彼の頭の中には自分と講堂の間にある最寄りの消火栓の場所が浮かんでいた。何度か学校を訪れていた彼は、校内の消防設備の場所をしっかり頭に入れていたのだ。「夕月さんは？」涼が尋ねた。「もう講堂に向かったよ」天野はそれだけ言うと、電話を切って踵を返した。涼は車から降り、瑛優を自分の側に迎え入れた。「ママとおじちゃんはどこに行ったの？」瑛優は不思議そうに尋ねた。「すぐ戻ってくるよ。ここで待っていよう」涼は運転席に座りながら言い、ノートパソコンを取り出した。スマホをホルダーに固定し、画面をタップして夕月に電話をかけた。すぐに通話がつながった。「そんなに急いで講堂に向かって、中に誰がいるんだ？」涼が尋ねた。夕月の息が荒い声が聞こえる。「悠斗がまだ中にいるの。でも今のところ正確な場所は分からないわ」夕月の耳に、電話越しにキーボードをたたく音が響いた。心強い低い声が耳に届く。「通話は切らないでくれ」「あと30秒。講堂の監視カメラシステムにハッキングしてい
再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない 第415話
冬真は彼女の名を叫んだ。夕月が駆け出した瞬間、彼女の身体から強力な磁力が発せられ、自分の心臓が引き寄せられるような感覚に襲われた。冬真は直ちに夕月の後を追った。「あっ！社長！」アシスタントも彼らの後に続いて走り出した。講堂の方向を見つめながら、焦りの表情で額の汗を拭った。彼の心は不安で一杯だった。二週間前、悠斗は彼らに学校の講堂を調査させていた。「講堂で火事を起こしたいんだ！そしたらパパとママに、僕が講堂に閉じ込められて出られないって伝えて。もしママが僕を愛してるなら、命がけで助けに来るはずだよね！」当時、冬真から悠斗の世話を任されたアシスタントは、その計画を聞いて背筋が凍るような思いをした。「坊ちゃま、それは危険すぎます！絶対に火事の中にいるなんて許せません！」「とにかく何とかしてよ！これが危なくならないように方法を考えるのがあなたの仕事でしょ！」悠斗は威圧的な態度でアシスタントの前に立ちはだかった。「これはパパとママが仲直りするためにやることなんだよ！」「でも……坊ちゃま、もし危険な状況になったときに、お母様が命懸けで火の中に飛び込んでこなかったら……」アシスタント困り果てた様子で言った。「そんなママなら、ママ失格だよ！」悠斗は即座に言い返し、小さな拳を握りしめて自分の両足を見下ろした。「ボクはただママに戻ってきて欲しいだけなんだ。これはママへのテストなんだよ！もし助けに来てくれなかったら、もうママのことは諦めるしかないよね」悠斗はタブレットを手に取りながら言った。「ボクが読んだこの小説みたいになって欲しいんだ。パパが命がけで火の中に飛び込んで僕を助けに来て、ママも僕たち二人を失えないって分かったら、ママも飛び込んでくる。そうしたら僕たち三人が火の中で抱き合って、お互いの気持ちが分かるんだ！お互いがどれだけ大切な存在か確かめられるんだよ！それからパパがママを片手で抱えて、もう片方の手で僕の手を引いて、三人で火の中から脱出する！この火事が僕たちの家族にハッピーエンドをもたらすんだ！」悠斗は素晴らしい幻想に浸りながら、アシスタントに命令した。「あなたの任務は、講堂の火事が安全であることを保証すること！火事で僕やパパやママが怪我をしないようにすること！」アシスタントは本気で土下座して「
再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない 第414話
「火災警報だ！」「火事？どこかで火事が起きたの？」「うっ、臭い！何か焦げる匂いがする！」何人かの保護者が口と鼻を覆った。現場にいた教師が声を張り上げた。「皆さん、慌てないで！きちんと列を作って、速やかに避難してください！」教師たちが指示を出すものの、警報音は不吉に響き渡り、さらに保護者たちも混乱に拍車をかけた。彼らは我が子を抱き上げ、出口へと殺到した。講堂内の椅子は次々と倒れ、子どもたちは混乱と押し合いの中で大泣きし始めた。二階から慌てて駆け下りてきた子どもたちのうち数人が床に転んだ。橘家のボディガードたちは咄嗟に駆け寄り、倒れた子どもたちを抱き上げた。「星来坊ちゃまの位置情報が携帯から消えました！」一人のボディガードがスマホを見ながら報告した。「もしかして星来坊ちゃまはすでに外に出られたのかも。瑛優お嬢様に会って、二人の時間を邪魔されたくなくて位置情報をオフにしたんじゃないでしょうか」何人かのボディガードはその場で途方に暮れた。講堂で火災が発生し、星来を見つけられないまま、この危険な場所を離れることもできない。「星来坊ちゃまの賢さなら、火災に気づいたらすぐに避難するはずです。わざわざ危険な状況に身を置くような方じゃありません」最終的に、ボディガードたちは自分たちを納得させ、まだ避難していない子どもたちを連れて先に外へ出ることにした。講堂の外に出てから、同僚と連絡を取り、星来の捜索を続けるつもりだった。夜の闇が深まり、火の光が講堂の窓を照らしていた。しかし夜の帳に隠れるように立ち上る濃い煙は、はっきりと見えなかった。冬の夜、強風が吹き荒れ、焦げた匂いが遠くまで運ばれていった。天野は運転席に座り、車を方向転換させようとしたとき、鼻がピクリと動いた。彼は窓の外を見た。匂いに敏感な彼は、何かが燃えているのを感じ取った。なぜ学校でこんな焦げ臭いのだろう？大型のSUVは駐車場の入口に到着し、窓際に座った夕月は車止めの前に立つ冬真の姿を目にした。そこへ駆け寄ってきたアシスタントが冬真を呼び止めた。「社長！大変です、講堂で火事です！！」冬真は一瞬凍りついた。学校の講堂の方を見ると、上階の窓がオレンジ色に染まっているのに気がついた。「悠斗は？」彼は尋ねた。「坊ちゃまは……まだ中に……」アシス
再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない 第413話
星来の体は砂袋のように「ドン」と床に倒れた。目を固く閉じ、顔は青ざめ、霜に打たれた草のように生気を失っていた。部屋の中は静寂に包まれていた。悠斗は棒切れを握る手を震わせながら、幼い顔に似合わない大人びた冷酷さを浮かべていた。その骨の髄まで、橘家の人間が生まれながらに持つ身勝手さと冷淡さが滲み出ていた。倒れたままの星来は微動だにせず、まるで時間の隙間に閉じ込められたかのようで、見ているだけで胸が締め付けられた。しかし悠斗の漆黒の瞳は深淵のようで、まるで心の未熟な子供のように善悪の区別もつかず、自分がしていることが間違っているとは微塵も思っていなかった。悠斗は棒切れを置くと、手を伸ばして星来の腕から腕時計を外した。かつて仲が良かった頃、星来は悠斗に秘密を教えてくれていた。星来の腕時計には位置追跡システムが組み込まれていたが、時々イライラしたり落ち込んだりすると、誰にも見つからなくなりたくなるのだと。だから自分で腕時計を改造したのだと。悠斗は腕時計のボタンを押した。これは星来が教えてくれたことだった。このボタンを押すだけで、橘家のボディガードたちは衛星を使っても彼を追跡できなくなる。悠斗は腕時計を床に投げ捨てると、気を失った星来を部屋の奥へと引きずり込んだ。ロープを取り出すと、かなり苦労しながら星来の手足を縛り上げた。顔面蒼白になった悠斗は、意識を失った星来を見つめた。血の気の失せた唇が震えていた。星来を傷つけていることは分かっていた。星来を傷つける代償がどれほど大きいかも知っていた。だからこそ、こんなことをして怖くて不安だった。でも、こうしなければもっと大切なものを失うことも分かっていた！「僕のママを奪わせないよ！」この言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。「僕はもう一度ママを失った。ママを失うってどれだけ辛いか分かる？どうして僕のママを奪おうとするんだよ！」悠斗は苦労しながら星来をロッカーの中へ押し込んだ。怪我をした足はまだ完全に治っておらず、歩くたびに錆びた釘が膝に刺さるような痛みが走った。体の痛みは一つの問題だったが、実際には少しは歩けるようになっていた。ただ足を動かすと痛みが生じ、その痛みのせいで歩き方がぎこちなくなってしまう。人に笑われるくらい
再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない 第412話
「橘京花さんですか？エンジェルインターナショナルのマネージャー、堂本一也（どうもと かずや）と申します。先ほど会場でお嬢さんのステージを拝見しました。もしよろしければ、お嬢さんをチャイルドモデルとしてデビューさせることをご検討いただけませんか？」電話の相手はさらに続けた。「本来なら学校で直接お話ししたかったのですが、あなたが……」堂本は、京花と斎藤、それに望月が橘家の人間に連れ出されるのを目の当たりにしていた。やむなく人を通じて京花の電話番号を入手したのだった。京花は両手で携帯を握りしめ、背筋を伸ばして姿勢を正した。「エンジェルインターナショナルは知っています。うちの娘を選んでくださったのですか？！」一瞬にして、京花の顔は喜びに満ちあふれた。望月の露出を増やし、より多くの注目を集めさせることは考えていたが、自分では動画を撮ることもできず、芸能事務所に直接接触する面子も保てなかった。橘家の人間として、自ら芸能事務所に接触し、望月を芸能界に送り込めば、橘家の年長者から叱責を受けることは間違いなかった。しかし京花は芸能界がいかに儲かるかをよく知っていた。望月が有名になれば、母親である自分も注目を浴びることになる。京花はすでに「有名子役・橘望月の母」としてインタビューを受ける姿を想像していた。「……はいはい、わかりました！明日娘を連れて面接に行きます」京花は電話を切ると、バッグからコンパクトを取り出した。パフを手に取り、鏡に映る自分の顔に向かってメイクを直し始めた。「何の面接？」鳴が尋ねた。京花はパウダーを叩くのを一旦止め、鳴に視線を向けた。「国内最大の子役育成会社、エンジェルインターナショナルを知ってる？」鳴は首を振った。「聞いたことないな」京花は息を吸い込みながら言った。「エンジェルのマネージャーから電話があったの。望月と契約したいんですって」鳴の目が輝いた。「望月ちゃんがスターになるのか？」彼は興奮して言った。「それじゃあ、これからたくさんお金を稼げるようになるじゃないか！」京花は得意げに唇の端を上げた。「伊吹先生にはかなりのお金を渡したわ。望月をリードダンサーにするためよ。おかげで注目を集めて、エンジェルに才能を見出されたのね」コンパクトをしまうと、京花は望月に両腕を広げた。「おいで、マ
