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42.凛、再来。狙うは啓介母の心

last update 最終更新日: 2025-06-09 20:48:32

「先生、また来ちゃいました!」

都心から少し外れた閑静な住宅街の一角にある啓介母が主宰する料理教室に、今日もまたエプロン姿の女性たちの活気ある声が響く中、私は明るい声で教室の扉を開けた。その顔には一点の曇りもない笑顔が貼り付いている。

啓介母は、教壇から私の姿を認めるとふわりと目を細めてくれた。

「あら、凛さんいらっしゃい。また来てくれたのね。嬉しいわ。」

前回の料理教室で啓介の母親が好きな作家の展示会の情報を伝えた。場所は啓介の家の近く。私の予想通りお母さんは喜び、近くまで足を運んだついでに息子に会おうかしらと口にしていた。

あらかじめ行く日を聞いておき、展示会を一緒に回った。そして、待ち合わせ場所に行くのに道に迷うと心配だからと送り届け、偶然を装って啓介との再会を果たしたのだった。

もちろん全て計算通りで、啓介のお母さんに私と啓介の関係を知ってもらう、そして啓介に私とお母さんが仲良くしている姿を見せるための作戦だった。

まさか私が母親と一緒にいるとは思ってもいなかった啓介の驚いた顔ときたら……。今でも思い出すと笑みがこぼれてくる。

「先日はありがとうございました。とても楽しかったです! あの日、啓介さんにもお会いできて嬉しかったです。」

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