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5. 「あの日の僕ら」⑬

作者: 佐行 院
last update 最終更新日: 2025-08-30 11:13:07

-⑬ 買い物途中で見たあいつ-

 古着屋の一角にあるアクセサリーのコーナーで、守は赤青両方のリンゴを模したイヤリングをずっと見つめていた。

※この話から紛らわしくなってきたので「橘」の事は「正」と表記します。

正「お前、さっきも好美ちゃんにプレゼント買ったのにまた買うのか?」

守「いや、やめておくよ。さっき、かなりの高額を買っちゃったから財布と相談しながら買い物しなくちゃ。」

桃「あの時の守君、格好良かったじゃん。ちょっと惚れちゃったかも。」

正「え、嘘だろ。」

 桃は冗談だと言うように正に微笑みかけながら踵を返した、少し離れた高級ジュエリーショップで好美が何かのショーケースを見ていた。

 好美の意図を察し、与した桃が好美の元へと向かって行った。

 その途中、テレビで見覚えのあるどこかの社長らしきスーツ姿の女性が親戚と思われるもう1人の女性とカフェで紅茶を飲んでいるのを見かけた。

女性①「ねぇ、ここの紅茶には何が合うか知っているかしら?」

女性②「確か・・・、チョコデニッシュが人気の組み合わせだと聞いていますが。」

桃「ふーん・・・。ああいう人でもこういう庶民的なお店でお茶するんだ、もっと高級な喫茶店のイメージしてたけど。」

 そこから数歩歩いた店舗に好美がいた、3人程の店員達が皆他の客の相手をしていた事から桃は高校からの同級生の心情をわずかながらに汲み取っていた。

桃「好美、守君にかまってほしかったのよね。素直じゃないんだから。」

好美「だって・・・、さっきからずっと1人でいるか正君と買い物しているんだよ。寂しくもなるよ、誰と買い物に来ているか分かってんのかな・・・。」

 先程から恋人がいない事に気付いた正が辺りを見廻すと、2人が少し離れた高そうな店にいる事に気が付いた。

正「おい守、あそこはちょっとまずいかも知れんぞ。」

守「えっ・・・、いや待てって・・・。」

 眺めていたイヤリングを戻して店へと向かった守と正は途中のカフェで結愛らしきスーツの女性が親戚らしきもう1人の女性とカフェで温かな珈琲を飲んでいたのを見た。

結愛「こちらの珈琲はお口に合いますか?」

女性①「うん・・・、悪くないわね。」

守「あれ・・・、多分結愛だよな。大人になってしっかりビジネスしてるっぽいな。」

正「何か、違和感が無い様な。ある様な。」

 そこから数歩歩いて店に到着し、好美の見ていた
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  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   5. 「あの日の僕ら」⑳

    -⑳ 暗号- 和樹の発言を聞いた好美は守に即座に質問した。好美「え、知り合いなの?」守「うん、小さい頃によく近所の河原とか公園に連れて行って貰ってたんだ。」和樹「お前美人さん捕まえて、羨ましい奴だな。それにしても真希子さんどうしたんだ、さっきやけに慌てた様子で出て行ったけど。いつものバンじゃなくて珍しくスルサーティーまで出しちゃって、よっぽどの事だったんじゃないのか?」 亡くなった通称「赤鬼」である渚の「エボⅢ」、その娘の光の「カフェラッテ」、そして通称「紫武者(パープルナイト)」であった真希子の「スルサーティー」はこの辺りでは有名で、近所の人達は排気音を聞くだけで誰の車か即座に分かる様になっていた。守「母ちゃん?「結愛の家でお茶」しに行った。」 この「結愛の家でお茶」というのは守・正・和樹の3人の間で「貝塚財閥で緊急事態が発生した」という意味の暗号となっていた、守と正はともかくだが和樹は真希子と同様に貝塚財閥の株主だったので情報を握っておく必要があったのだ。和樹「守、正、家から飲み物を取り出そうと思ってんだ、よかったら手伝って(中で詳しく教えて)くれ。」 和樹は3人で家に入るなり話し始めた。和樹「それで?何があったんだ。」守「元義弘派閥の奴らが今日の総会で可決された議案に改めて意義を申し立てたらしいんだ、それで結愛が母ちゃんを呼んだ訳。」和樹「茂手木と重岡か、確かにあの2人が出て来るとかなり面倒になるもんな。持ち株率を考えたら真希子さんでなきゃ対抗できないわ。」正「乃木建設のおっさんはどうなってんの?」守「一応母ちゃんと結愛に味方してるらしい、噂で聞いただけなんだけど義弘派閥の2人は結愛を社長の座から引きずりおろそうとしているらしいんだ。」 よく考えてみれば高校時代に「貝塚財閥全権1週間強奪券」を使用した後、義弘が逮捕されたが故にそのまま社長になった結愛の事を義弘派閥の2人が良く思っていないのも分からなくもない。正「結愛から全権を奪おうとしているのが見え見えだな、でもおばちゃん(真希子)がいるから大丈夫なんだろ?」守「勿論、あの会社に母ちゃんに逆らえる奴なんていないからな。」和樹「俺もわずかながら真希子さん達に協力するつもりだ、そう伝えておいてくれ。」 真剣な話をしている男たちに後ろから何も知らない女子たちが無邪気に声を掛け

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   5. 「あの日の僕ら」⑲

    -⑲ 今日の夕食- 大財閥の筆頭株主は代表取締役社長からの電話に驚きを隠せずにいたが、次の瞬間ため息をついた。真希子「またあの2人かい、面倒くさい奴らだね。仕方ないから私が行くわ、結愛ちゃんはその場にいてな。」結愛(電話)「ではリムジンを。」真希子「それだと遅くなるよ、すぐ近くにあるから私の車で行くさね。」守「まさか・・・、な・・・。」 その「まさか」だった。電話を切ると真希子はスルサーティーに飛び乗ってエンジンをかけ、いつもより強めに空ぶかしをして長方形のヘッドライトを点灯させた。真希子「守、危ないからちょっと端に寄ってな。後今夜は申し訳ないけど、適当に何か買って食べておくれ!!」守「まさか・・・。」 どうやら2回目の「まさか」も当たってしまったらしく、真希子の愛車は出口に向けて勢いよく加速すると強烈なスキール音と共にドリフトして駐車場を出て行った。一瞬女性の「キャッ!!」という声がしたが、排気音がかき消してしまった様で守は気付かなかった。守「ゲホゲホ・・・、本当にあいつで行っちゃったよ。しかもまたここでドリフトして・・・。」 そう、守のいた駐車場を真希子がドリフトで出て行くという件は今に始まった事では無かったのだが、それによる土埃に慣れる事は無かった。 守がテールランプを見送ると、桃に会っていたはずの好美が歩いてやって来た。好美「守、今の車って・・・。」 「こうなりゃ仕方ない」と意を決した守は好美に打ち明けた。守「今の母ちゃんなんだ、走り屋でさ。実は今、急用が出来て飛び出して行っちゃったんだよ。」好美「そ・・・、そうなんだ・・・。」守「隠してて悪かった・・・。」 守は目の前の彼女の表情から驚いているのか、それとも引いているのか、好美の心境を汲み取る事が出来なかった。一先ず、話を逸らす事に。守「それで、どうした?桃ちゃんと会ってたんじゃなかったの?」好美「あのね・・・。」 好美はそう言うと無言で顔を近づけ唇を重ねた、数十秒ほどキスを続けた後に顔を離してから笑顔になった好美は話し出した。好美「あのね・・・、BBQ(バーベキュー)行かない?」守「え?BBQ?」 実は数時間前、約束通り桃の住む和多家へと到着した好美を和樹が誘っていた時の事。和樹「好美ちゃん、最近彼氏できたんだろ?お肉沢山あるから誘っちゃいなよ。」好美

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   5. 「あの日の僕ら」⑱

    -⑱ 母からの贈り物と緊急事態- 宝田家でゆっくりとした時間を過ごした好美が桃と会う約束があると伝えて一旦帰宅してから数時間後のPM5:00頃、いつもなら株主総会に行った真希子が帰って来る時間なのだが影すらも見えない。 1時間後、日が傾き西日が差し込み始めたPM6:00。いつものリムジンではなく聞き慣れない排気音(エキゾースト)が近づいて来たので守は駐車場に出た。 一瞬隣のアパートに住む光が帰って来たのかと思ったのだが本人の愛車であるカフェラッテの姿も無い、その代わりと言ってはなんだが見覚えの無いクーペタイプの軽自動車が1台止まっていた。守「カペンだ・・・。」(うん、権利的な問題はなし。) 守がこう呟くと電子音と共に屋根が自動で開いてトランクらしき部分にすっぽりと入っていった、ただ驚くのは次の瞬間だった。車内にいたのが真希子だったのだ。守「母ちゃん、どうしたんだその車。」真希子「「どうしたんだ」って、あんた用に買ったんだよ。入学祝い兼免許取得祝いさね。」 そう言って真希子が守に鍵を渡した。真希子「今まで忙しすぎてろくに誕生日のプレゼントとか出来ていなかっただろ、せめてもの償いをさせておくれよ。」守「償いだなんて・・・、本当にありがとう。」 初めての愛車に涙する息子を運転席へと誘導する母、守が覗き込んだ黒を基調とした車内には本革張りのシートが2つ並んでいた。真希子「車屋に言って特別にいじって貰ったのさ、あんたが「楽しく乗れる」様にね。」 守は真希子の放った「楽しく乗れる」という言葉に疑念を持ちながら運転席に座った、ステアリングも社外パーツを使用しているらしい。よく見れば足回りにも細かく拘った6MTの走り屋仕様になっていた。 守はやっぱりかと思いながら言葉を飲み込んだ、目の前で真希子がニコニコと笑っているからだ。 守は車から降りて改めてお礼を言った。守「本当に、ありがとう。」真希子「何を言ってんだい、これからこいつであんたも一緒に山を攻めようじゃないか。それに2人乗りだから出来たばっかりの彼女と2人きりでドライブ行きな。」 真希子が守の予想通りの発言をした時、守は心中である事件を思い出していた。そう、先程の「ハヤシライスすっからかん事件」だ。真希子「それにしてもお腹空いたね、良い時間だから夕飯にしようね。」 家の中に入った真希子

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   5. 「あの日の僕ら」⑰

    -⑰ 静かな時間に包まれた幸せ- 桃は2人きりの状態になっている階段の踊り場の真ん中で突然立ち止まった、頭を下げて深呼吸した桃の肩が小刻みに震えていた。正「おい、どうしたんだよ。」桃「ねぇ、私の事好き?」正「勿論だ、世界で一番愛してる!!一時も桃の事忘れた事なんてない!!」桃「じゃあ、私が今したい事分かる?」正「確か食事に・・・。」 すると、正のいる方に突然くるっと振り返り目に涙を浮かべながら訴えた。桃「もう、いつまで待たせる気?!」 大声を発した桃は正の顎を掴み、無理矢理唇を重ねた。それから数十秒ほど、ずっと静寂がその場を包んでいた。2人はずっと、目を閉じていた。 長いキスを交わした後、顔を離した桃は右手で唇周辺を拭った。桃「上手いじゃん、本当に初めてなの?」正「初めて・・・、だよ。桃とのキスってこんなに甘い物なんだな。」 それを聞いた桃は再び顔を近づけた。桃「これからずっとしてあげる、そして正を幸せにしてあげる。」正「馬鹿か、俺が桃を幸せにするんだろうが。」 正が桃の肩に手を回して再びキスを交わした、先程よりも長く・・・、長く・・・。遠くから聞こえるBGMと柔らかな明かりにより何となく良い雰囲気になった2人はずっとキスをしていた。2人が顔を離した時、桃が再び涙を流した。正「また、泣いてんのかよ。」桃「嬉しくて、温かくて。泣きたくもなるよ、女だもん。」 桃の涙を受け止める様に正が桃を抱いた、桃も正に応える様に自らの体を正に寄せた。 すると、2人をずっと包んでいた静寂が突如消え去った。子供「ママーあの人達抱き合ってるー。」母親「もう、見ちゃいけません。本当に、すみません・・・。」正・桃「あはは・・・。」  何となく気まずくなった恋人たちは引き笑いをしながら親子を見送った。桃「子供か・・・、行こうか。」正「うん。」 優しい光が照らす階段から歩いてすぐのレストランコーナーへと繰り出した2人、因みにこのショッピングモールは各階に飲食店が散らばっていたので迷いに迷った。 2人の様にこのモールの階段でキスを交わすカップルは少なくなく、「このモールの階段で長くキスを交わしたカップルは結ばれる」という都市伝説がある位だった。桃「お腹空いちゃったね、何処行こうか?美味しいお店知ってる?」 正は返答に困った、先程のキス程

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   5. 「あの日の僕ら」⑯

    -⑯ 友の本気と親子の危機- 真希子のパソコンがある小部屋から好美のいる居間まで距離があるからか、それともつけっぱなしになっていたパソコンの画面に各企業の株価ががっつり映っていたのを目撃したからか、守は息切れしていた。好美「汗だくじゃん、何でそんなに辛そうにしているの?」守「気のせい・・・、です・・・。」 勿論気のせいなどでは無い、玄関を開けた瞬間に小部屋に駆け込みパソコンを強制終了してから居間までダッシュしたからである。好美「取り敢えず、何食べようか。そう言えば、何も買ってきてなかったね。」守「さっき聞いたんだけど、母ちゃんがハヤシライス作ってるみたい。」 居間には深めの鍋いっぱいに入ったハヤシライスの良い香りが漂っていた、守は好美が来ている事をさり気なく報告した。守(メッセージ)「今日彼女来てんだけど、ハヤシライス一緒に食って良い?」 時間的にも株主総会直前なので即座に返信した真希子、携帯の扱いには慣れている様だ。真希子(メッセージ)「この前言ってた子かい?構わないよ、好きなだけ食べて行きなと言っといてね。」守(メッセージ)「了解。(好美に)好きなだけ食ってけって。」好美「やった、ハヤシライス大好きなの!!」 親子2人は1時間後、自らの発した言葉を後悔する事をまだこの時点では知らない。 鍋を火にかけ、炊飯器から皿に白飯をよそって食事を始める2人。数分後、ハヤシライスを楽しみながら好美がゆっくりとした口調で話し始めた。好美「実はさ、桃の事なんだけどね・・・。」 時は数日前に遡る、この日午前中の授業を終えた好美は桃と近所のイタリアンレストランで学生限定のパスタランチを食べていた。因みに授業の関係上、守と正は数人の友人達と学内の食堂で済ませていた。 スパゲティミートソースを注文した桃がフォークにパスタを絡ませながら突然切り出した、何気に1口で食べる事が出来ない位の量が絡まっている。桃「私と正ってね、正直言えばその場のノリで付き合い出したんだけどね。最近思うんだ、正がいなきゃ寂しいなって。正無しの人生を想像できないなって、この前皆でショッピングに行った後に家に帰った時特にそうだった、直前まで会ってたというのにまた会いたくなっちゃってんのよ。大学にいる時もバイトしている時も気付けば正の事考えてる自分がいるのね、こんな気持ち生まれて初め

  • (改訂版)夜勤族の妄想物語   5. 「あの日の僕ら」⑮

    -⑮ 母の素性と彼女の意見- 守は真希子に好美を会わせる事に少し抵抗していた、理由は真希子の素性である。 これは2人が付き合いだしてからまだ間もないある水曜日の事だった、教員免許取得に必要な単位となる授業のテストに向けて教え合いながら一緒に勉強していたが故に守と正は松龍に入ったのがランチタイム終了ギリギリになってしまった。 ピークタイムが既に過ぎてしまっていたのか、好美はお冷を持ってきながらチラチラとテレビを見ていた。どうやら、流れているニュースが気になっているらしい。 守がテレビに目をやると、「有名大手ファンド、元本割れと多額の借金により倒産」とあった。 テレビのキャスターによると、とある印刷会社の重役が会社の利益から3割程を自らの所有する口座に横流ししていた事が発覚したためその会社の株が大暴落したのが今回の事件の発端だという。好美「私、投資家とかギャンブラーとか言う人達の気が知れないんだ。正直言って今でさえこうやってアルバイトしているからそうなんだけど、必死に働いて稼いだお金をもっと自分の為に使えないのかなって思っちゃって。それにこの辺りって走り屋も多いって言うでしょ、ああ言う人達もわざわざお金使って騒音とかで他の人に迷惑かける様な車を作るなんて私から見るとガラの悪い人ばっかりだなって。」 すると、好美の言葉を聞いた龍太郎が黙っていなかった。龍太郎「好美ちゃん、それはちょっと違うな。確かにこの辺りにはバイクの暴走族や違法改造の車を走らせるガラの悪い走り屋も居たりするけど、逆に警察に協力して自ら山へ出向いて悪い奴らを一掃してしまう良い走り屋も居たりするんだぜ。それにそいつらはボランティア活動に積極的で、定期的に山の上やそこら辺の公園を掃除している所を見かけるからな。ほら守、覚えてるか?伝説の何てったかな・・・。」正「「赤鬼」じゃね?ほら、数年前に峠から車ごと落ちて亡くなったって言う奴だろ。そう言えば、お前んちの近所に住んでいなかったか?」 近くすぎる、お隣さんだ。龍太郎「今は娘の光ちゃんが意志を継いで走ってるって聞いたけど、守は何も聞いてねぇのか?そう言えば守・・・、お前のか・・・。」守「好美、のど乾いたから水のお代わりくれ。」好美「う・・・、うん・・・。」龍太郎「おいおい、話を逸らすなよ。」守(小声)「ごめん、ただ好美に母ちゃんの

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