俺は内心で動揺した。心臓がドクンと音を立てる。それにしても、セミロングのサラサラの金髪は陽光を受けてキラキラと輝き、透き通るような青い目は宝石みたいにキレイだ。こんな近くで可愛い美少女を見られるなんて……。目のやり場に困る。
ミリアは少し顔を伏せ、戸惑いがちに口を開いた。その声は、控えめながらも真剣さを帯びていた。
「あの……とても希少で高級な治療薬を使用をして頂いたとお聞きしています……しかも兵士達にまで惜しげもなく使って頂いたと……」
彼女の声は、どこか遠慮がちだ。
「それも含めて、お礼は終わってるよ」
俺は軽く手を振った。別に気にすることじゃない。
「いえ……それにキスまで……」
ミリアは顔を真っ赤にして、じっと俺を見つめてきた。その潤んだ上目遣いに、俺の心臓が少しだけ跳ねる。
「うわぁ……上目遣いで頬を赤くして……可愛いなぁ……」
多分、どこの世界でも、貴族と平民だし付き合ったり仲良くするのは無理だろうなぁ……。彼女や友達にしても面倒になりそうだよな。貴族だし。
「キスではなく、助けるためにしただけだよ? 気を失い掛けていて、一人で治療薬を飲めなかったので……口移しで飲ませただけで……」
俺は慌てて釈明した。誤解されては困る。
「それでも、皆の前でキスをされたので……わたしは……」
ミリアの声が小さくなる。ん?まさかキスをしたので結婚とか? まさかなぁ……。一抹の不安がよぎる。
「わたしは……ユウヤ様のお嫁さんになります……」
彼女の言葉に、俺は思わず固まった。頭の中が真っ白になる。
「え?」
そのまさかだった。いやいや……ミリアは可愛くて魅力的で、こんな金髪美少女が嫁さんに出来れば最高なんだけどさ。仕方なくって感じなのが嫌だな……助けてキスをしたから結婚しますって感じが嫌だ。それに貴族だろ? 絶対に面倒事が待ってるだろうし……。俺のスローライフが無くなる気がする! 豪華な暮らしも憧れるけど、自然豊かな山で自給自足して、寂しくなったら村や町で仲良くなった友人と楽しく話をして過ごすのが良いんだ!
「ミリアは嫌なんじゃないの? キスをされたから仕方なくだよね?」
俺は恐る恐る尋ねた。彼女の真意を確かめたい。
「ち、違います……あの……その……」
ミリアの頬がさらに赤くなり、目を逸らしてモジモジしている。彼女の指先が、ドレスの裾をいじる。その様子は、まるで純情な少女のようだ。そして、意を決したように俺の目を見つめ直し……
「ユウヤ様に一目惚れです♡」
彼女はまっすぐに、はっきりと告げた。その瞳は、一切の偽りなく俺の心を射抜く。
「えっ? 一目惚れ? 俺に? モテない俺に?」
俺は驚きを隠せない。……あ、今は可愛い系の顔になってたんだっけか? そうか、今の俺は、中学生くらいの容姿で可愛い系の顔だった。
「いやいや……一目惚れで結婚? 俺の事を何も知らないだろ? 付き合うとかからじゃないの?」
「十分に人柄は知っていますわ。貴族の娘を無償で治して何も言わずに立ち去るお方です。普通は貴族の命を助ければ大金が支払われますし、平民なら一生遊んで暮らせるだけのお金は支払われるはずです。支払われなければ、その命を助けられた貴族の価値はそれだけという風に言われ続けますし……無欲で優しいお方です」
ミリアは淀みなく言い募った。その言葉は、俺の行動を美化している。ただ……面倒事に巻き込まれないように立ち去ったとは言えないね。
「それって、もしかして迷惑を掛けちゃってる?」
俺は少し心配になった。意図せず、この世界の常識に反する行動をしてしまったのかもしれない。
「とんでもありません! とても感謝しておりますわ」
ミリアは首を横に振った。
「俺と結婚しても良い事は無いんじゃないかな……お金も無いし家も無いんだよ?」
俺は最終兵器のように、自分の現状を突きつけた。これで諦めてくれるだろう。
「それは問題ありません。わたくしが、家もお金もあるので大丈夫です」
なにその高待遇というか、養ってあげるって感じは。完全にヒモじゃないか。
「それじゃなんだか、それ目的で助けたみたいになっちゃうんだけど」
「あの腹部を切り裂かれ内蔵まで傷が達していた状態の、わたくしを治せたのはユウヤ様だけだと聞いています。医者は状態を聞いただけで恐れて逃げ出したと言ってましたし。何の恐れもなく瀕死の、わたくしを治療した勇気も素敵です」
医者が逃げ出した? あぁ……だから医者が来なかったのか……。でも、何で? もしかしたら救えるかもしれないだろ? そしたら大金持ちか、治療費が多くもらえるだろ?
「医者が恐れて逃げ出したって?」
「はい。医者なのに治療が出来なければ殺したとなりますので罰されますね。医者じゃなくても治療した者も同じですね……暗殺の疑いも出てきますから……普通は、わたくしの様な貴族の瀕死の状態の者には治療や手助けをされないどころか近寄ってくる者もおりませんよ」
ミリアは淡々と説明した。その言葉に、俺は背筋がゾッとした。うわっ。俺かなり危ない事をしてたのね……。だから誰も治療や近付く者も居なかった訳か……納得したよ。もし失敗していたら、暗殺者として捕まっていたかもしれないのか。
それにしても、国王からの呼び出しとは……。まあ、思い当たる節といえばポーションの件くらいしかないよな。他に何かした覚えもないし……。 「出発のご準備ですか?」 ミリアが心配そうに俺を見つめてくる。「まあね。国王様からお呼び出しだからさ」「わたくしも、ご一緒させていただきますわ」 ミリアは、まったく迷いのない声で言った。「本当に? 実は一人で行くの、ちょっと不安だったんだよな」 貴族のミリアが一緒にいてくれれば、かなり心強い。それに俺、国王との謁見の作法なんて何も知らないし……。「明日の朝、迎えの馬車が来るみたいだぞ」「へぇ~。ずいぶん高待遇ですわね……」 ミリアは少し驚いたような表情を浮かべた。「そうなの?」「ええ。国王が平民に迎えを出すなんて、かなりの特例ですわ。王国に多大な功績があったり、王命に関わる用件でない限りは、まずありえません」 やっぱり……治癒薬の件で“どうしても会いたい”ってことなんだろうな。 その夜。ベッドに座るミリアの隣に腰を下ろし、何かお礼になるものはないかと考える。言葉はもう何度も伝えているし、お金を渡そうにも興味なさそうだし…… ふと思いついて、前にとても喜んでくれた“頬へのキス”で感謝を伝えた。「いつもありがとうな、ミリア」「きゃぁ♡ はわわぁっ、わぁ……。い、いえ……はぅぅ……♡ も、もっと……ユウヤ様のお役に立てるように、ガンバりますわっ」 ミリアは顔を真っ赤に染めておろおろしながら、お休みの挨拶をして部屋を出ていった。 ……俺もそろそろ寝るかな。それにしても――ミリアの頬、やっぱり柔らかくていい感触だったなぁ。 ——王都への旅路 翌朝…… 準備を終え、いつものメンバーで店の前に集まっていると、迎えの馬車がやってきた。磨き上げられた車体はまばゆいほどに輝き、その側面には王家の紋章が堂々と刻まれている。 いつもの顔ぶれ――俺、ミリア、男女の護衛二人、それ
あ、従業員を雇えば良いんじゃないの? それで馴れてきたら店を任せれば良いじゃん。ミリアの紹介をしてくれる人なら安心できそうだし……。 お店で手伝ってくれていたミリアを呼んで相談してみた。「なぁ~ミリア、信用できるヤツに店を任せたいんだけど……良い人を紹介してくれないか?」「そうですわね……これでは、ユウヤ様と落ち着いてお話も出来ませんし……」 ミリアは少し考えるように言った。彼女と話をしていると、外が騒がしくなった。「店主は、いるか!!?」 それは、呼び声ではなく、怒鳴り声が店内に響き渡った。 うわっ、まさか初のクレームか? 傷が治らないとか? いや、そんなはずはない……。もしかして、もう偽物が出回ってるとか? それとも期限切れの品を騙されて掴まされたって話かも……? そう思いながら店の方へ出てみると、そこには騎士風の男が5人と、いかにも偉そうな貴族風の男が1人。周囲の客たちは、その異様な雰囲気に圧倒されたのか、みんな距離をとって怯えたように様子をうかがっていた。「何でしょうか?」 俺が尋ねると、貴族風の男が腕を組み、冷たい視線を向けてきた。「誰の許可を得て薬を売っているんだ?」 は? 許可……何も考えてなかった……。誰に何の許可を貰えば良いんだ? 薬師ギルド? 商業ギルド? 町長? 領主? 国王?「いえ……まだ許可は得ていません」 俺が正直に答えると、貴族風の男はニヤリと笑った。「では、違法だな……コイツを捕らえろ!」 騎士たちが剣に手をかけ、俺に近づいてくる。1日目にして閉店か? しかし、その言葉を聞いて、必要としてくれていたお客さんがキレていた。「ふざけるな! どうせ領主が金の匂いを嗅ぎつけたんだろ!」「税金とか言い出したりして、薬の値上げされたら困ります!」「まさが、薬の独占する気じゃねぇのか!?」 お客さんたちが貴族風の男に詰め寄る。その間に、不機嫌な顔をしたミリアが、懐から手紙を取り出し、偉そうなヤツに突き付けた。
護衛を見ると、目を閉じて嫌そうな表情をしていた。そりゃそうか……屋敷での護衛よりも外の方が護衛が大変だもんな。「いや。止めておいた方が良いんじゃないのか? 護衛が大変そうだし?」 俺がそう言うと、ミリアが護衛に視線を移した。「何なのですか! その表情は! お嫌でしたら付いてこなくても結構です。ふんっ!」 ミリアはご機嫌斜めになってしまい、警護が慌てた様子で言い訳を始めた。「ち、違います。少し訓練不足で体力が無くなっているようでして……少し疲れていただけです。決して嫌な訳ではありません! すみませんでした!」 警護の責任者は、顔を真っ青にして必死に弁解する。「知りませんわ。ご自由になさって結構ですわっ」 ミリアは、プイと横を向いてしまった。これも俺のせいなのか? そこまで面倒を見てられないぞ……嫌だったら付いてこな来なければ良いんじゃないの? で代わりの者を護衛に付ければ良いじゃん。それかミリアを説得すれば良いだろ。「それじゃ、俺は帰るよ」 俺はそう言って立ち上がろうとした。「どちらにお帰りに? 家は無いと仰っていましたよね?」 ミリアは、すぐに俺を呼び止めた。「あぁ~家は無いからテントで寝泊まりしてるぞ」「テントですか? それでしたら、うちに是非お越しください! 部屋も空いていますし」 ミリアは目を輝かせ、俺を誘った。「いやぁ……迷惑になるし悪いよ」「……誰の迷惑になるのですか?」 ミリアの問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。「えっと……使用人の方達のさ……」「使用人ですか? それは使用人達のお仕事ですわっ。迷惑と思うなら仕事の放棄ですわね……ですが、うちにはその様な使用人は居ませんわよ」 ミリアの言葉に、メイ
この薬は即効性があり、効果がはっきりと実感できる仕様になっている。痛みはすぐに消え、擦り傷程度なら一日で完治する。刺し傷や中程度の傷なら三日ほど、重傷でも一週間程度で治癒する。 服用量によって効果は増幅し、二本飲めば回復速度は二倍となる。患部に直接かけた場合も同様で、二本分を使えば治癒がさらに加速する。ただし、効果が上がるのは最大で二本まで。三本、四本と増やしても、それ以上の効果は得られない。「これは美味いな。薬と聞いて苦くて不味いと思ってたが……って……あれ? 痛みが無くなって血も止まったな! なんだこれは! スゴイな!」 冒険者の声がデカくて、宣伝効果もバッチリだな……ありがたい。彼の興奮した声に、周りの冒険者たちが注目し始めた。お陰で注目されて人だかりが出来たけど……軽傷者に使っても宣伝にならないので、俺はケガの程度がヒドイ人を探していた。「うちのパーティに重傷を負ったヤツがいるんだ! 是非1本貰えないか? 頼む!!」 別の冒険者が、焦った様子で駆け寄ってきた。「でしたら食堂まで運んで来て下さい」 慈善事業じゃなく宣伝なので、皆が見てる前で治さないと意味がないので運んできてもらう。宣伝だからという理由だけじゃなく、不衛生な外より室内で処置をした方が良いだろ。「分かった。直ぐに運んでくる!」 冒険者は力強く頷き、ギルドの外へと駆けていった。運ばれてきた人は腹部にモンスターの爪で引き裂かれ、明らかに重傷だった。その傷口からは、生々しい血が滲んでいる。これは……マジで痛そう! 前世の記憶の医者でも大手術だね……内臓まで切り裂かれてるし……爪なので3箇所も引き裂かれてるし。まー死んでいなければ治るでしょ……多分。重傷だし2本使うか……。「今回は特別に2本使わせてもらいます」 俺はそう言って、2本の治癒薬を取り出した。「助かるか? 大丈夫か?
多分だけど人気が出れば偽物が出回ってくると思うので、空き瓶を利用して販売されても信用に係るので、使い切ると瓶は消滅して消えるように設定した。魔法が無い世界なので真似は出来ないと思う。それと偽物が作られないように、見た目にも薄い透明なピンク色の液体で、ほのかにピンク色に光るようにしてあるので、これも真似が出来ないと思う。しばらくして、俺は受付嬢に近寄り感想を聞こうと声を掛けてみた。「使ってみました?」「うん。使った! 使ったよ。なにコレ!? スゴイんだけど! 子供の時の肌に戻って……ぷにぷにして、しっとりしてる! もぅ最高~♪」 受付嬢は興奮した様子で、自分の頬を触りながらまくしたてた。その肌は、確かに瑞々しく輝いている。だけど、お姉さん……20代前半だよね!? そんな肌を若返らせて……どうするの? 10代の肌は違うか。ぷにぷにだもんな……と、ミリアの頬を見て納得する。「説明をした通りですけど、持続するのは明日の今頃までですよ。今の技術ですと、これが限界なんですよ」「そうなの? うわぁ……。で、値段は……?」受付嬢は、がっかりしたような声を出し、すぐに恐る恐る価格を尋ねてきた。「先程のサイズの瓶で銅貨20枚です。大瓶ですと銀貨6枚で33日分で3日分お得ですよ」「あぁ……大瓶が欲しいけど給与日前で厳しいんだよね。給与日まで小瓶で我慢する~明日も来るんでしょ?」 受付嬢は期待に満ちた目で俺を見上げた。返事をしないでいると慌てた様子のお姉さん。「えぇ~なによそれ……。来てよ~ねぇねぇ~お願いっ」 彼女は俺の服を掴んで揺すってきた。その瞬間、ミリアが頬を膨らませて、怒った表情で近づいてきた。「ユウヤ様。何をされてるのかしら?」 ミリアの声には、明らかに不機嫌な色が混じっている。「えっと&h
「ギルドマスターは居るのかしら?」 ミリアが毅然とした口調で受付嬢に話しかけた。その声には、貴族ならではの有無を言わせぬ響きがある。「はい? まぁ~居りますが、約束をされていなければお会い出来ませんよ。お約束はお有りでしょうか?」 受付嬢は、ミリアの纏う普通とは違うオーラを感じ取ったのか、俺との対応とは打って変わって、少し戸惑った様子で答えた。「お手紙を届ける事は出来ますわよね? 急ぎの件だと仰って頂けるかしら」 ミリアの高圧的な口調に、受付嬢はすっかり圧倒され、素直に従って席を立ち、手紙を届けに行った。その背中は、どこか焦りを帯びているようにも見えた。 しばらくすると、ギルドマスターなのか、男性職員が慌てて出てきた。彼は受付に並ぶ人達を見回し、後から追うようにして来た受付嬢に誰なのかを聞いているようで、受付嬢が指でこちらを差した。「き、君達が、この手紙を?」 ギルドマスターらしき男性は、息を切らしながら問いかけてきた。俺は内容を知らないのでミリアを見た。「ええ。そうですわよ。それが何か?」 ミリアは涼しい顔で答える。「この手紙は、どうやって手に入れたんだ? どういう経緯で書いて頂けたんだ? 本物なのか? 偽物だとしたら重罪だぞ!」 ギルドマスターは、興奮した様子で矢継ぎ早に質問を投げかける。その顔には、焦りと疑念が入り混じっている。 ミリアは何の手紙を渡したんだ? 誰からの手紙を渡したんだ? この慌て方は……とても偉い人からの手紙だよな……領主様からの手紙か? だとしたら父親から書いてもらった手紙か。さすが貴族のお嬢様だな……。「そんなに、まくし立てられましても困りますわ」 ミリアは眉一つ動かさず、冷静に言い放った。「平民の君達が頂けるような手紙では無いだろ!」 ギルドマスターは、まだ疑いの目を向けてくる。「ですが、本物ですわよ? 蠟封の印と手紙の紙の透かしを見れば分かりますよね?」