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第16話
最新チャプター
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第254話
満月館だ。遥は探偵から送られてきた写真を受け取った。「なるほど、晋に取り入ったわけね？」遥は冷笑した。「本当に......性懲りもないんだから！」晋に取り入っていれば、直哉から逃げられるとでも思ってるのかしら？「お母さん、そんな都合のいい話はないわよ！私を桜井家の地獄に引きずり込んだのはあなたなのに、今さら自分だけ逃げようだなんて、私が味わった苦しみはどうしてくれるの？」遥は携帯を取り出し、晋也の番号に電話をかけた。「晋也、私よ。今会えそう？」......一方で、入院して1週間後、綾の体調はすっかり良くなっていった。井上主任にも退院して自宅療養していいと言われた。それは、彼女が妊娠13週に入り、ようやく安定期に差し掛かった頃だった。つわりや眠気といった初期症状はすっかり消えていた。ここ数日、綾の食欲は旺盛で、見た目にも元気になっていた。退院の日、文子と史也は綾を連れてショッピングモールへ行った。綾のお腹は目立ち始めたので、以前の服はもう着られなくなっていたのだ。文子は彼女を連れて店を回り、上から下まで、下着からアウターまで全て買い替えた。輝と史也は静かに彼女たちに付き添い、両手にたくさんの買い物袋を抱えていた。会計の時、綾は自分で支払おうとしたが、文子はそれをさせなかった。「これは義理の親である私たちからのプレゼントよ。受け取ってもらえないなら、私たちのこと義理の親だって思えないってことね！」文子は綾の方にカードを押し返した。綾は驚き、「私の義理の親になってくれるの？」と尋ねた。「もう、そんなに驚くなんて！」文子は笑いながら尋ねた。「どうしたの？嫌なの？」綾は泣きそうになりながら、「嫌じゃない。ただ、ちょっとびっくりしただけ」と言った。「私たち夫婦には子供がいないんだ」史也は綾を見ながら言った。「若い頃はそれでいいと思っていたが、歳をとると、少し寂しく感じるようになった。もし嫌でなければ、私たちを頼りにしてくれ」この言葉に、輝は大笑いした。「先生は寂しがりやかもしれませんが、文子さんはそんなことありませんよ......」「黙ってなさい！」史也は眉をひそめて叱った。輝は「へへ」と笑ってごまかした。「この前修復した文化財について、6000字の論文を書け。来週の
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第253話
輝は彼女を慰めた。「それはそれでもういいじゃないか。もう過ぎたことだし、今はとにかくお腹の子の事を考えて、二人の娘を無事に出産することが一番大事なんだ！」綾は軽く微笑んだ。「もし二人とも息子だったら？」輝は眉をひそめた。「そんなこと言わないで！絶対女の子だよ！」綾は彼の言葉に笑ってしまった。-北城、法律事務所。清彦はオフィスのドアをノックした。「入れ」清彦はドアから入った後、ドアを閉めて、デスクの前に歩み寄り、手に持っていた金属製の箱を机の上に置いた。「碓氷先生、見つかりました」誠也は箱に視線をやった。「全部処理したのか？」「ええ。小野さんはずっと付き切りでしたが、幸いこの石はベッドの下にありましたので、検査員が機転を利かせて、小野さんが気付く前に回収することができました」誠也が箱に手を伸ばそうとすると、清彦は急いで注意した。「碓氷先生、これは強い放射能を発しています。くれぐれも気を付けてください」「分かっている」誠也は箱を開けた。濃い灰色のエネルギーストーンは、冷たく鈍い光を放っていた。誠也はそれをしばらく見つめ、箱を閉じた。今朝、彼は自ら南渓館に戻り、悠人に尋ねたのだ。悠人は幼く、蘭に唆されて、これがどれほど危険なものか理解していなかった。綾を病気にさせてしまうことを知ると、悠人は恐怖に苛まれて、後悔したのだ。「碓氷先生、私にはよく分かりませんが、綾さんが蘭さんを疑っているのなら、なぜあなたがこんな庇うようなことをする必要があるのですか？」「石は悠人が綾のベッドの下に置いたものだ」誠也の声は冷たく重苦しい響きだった。「もしこのことを綾が知られたら、悠人のことをまた受け入れてもらえると思うか？」清彦は、その言葉を聞いてはっと気付いた。誠也は、綾の心の中で悠人のイメージを守ろうとしていたのだ。誠也は目を細めた。「これは近年国内で取り締まっているものだ。小林蘭が手に入れられたのは、武の力添えなしには考えられない」知るものはみんな知っている。今やこの種のエネルギーストーンはM国あたりから入ってきていることが多いが、スムーズに税関を通過するのは容易ではないのだ。蘭はただ桜井家に嫁いだだけの後妻だから、こんなものを手に入れるには、武以外にルートはないはず。「機会を見つけて
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第252話
「大丈夫だよ」柚は彼を抱きしめた。「実は先生も小さい頃、悠人さんと同じように、母が弟を産んだ時、毎日両親が弟ばかり可愛がって、私を愛してくれなくなるんじゃないかって不安だったの」「それで、どうなったの？」悠人は尋ねた。「でもね」柚は彼を見て微笑んだ。「父と母は変わらず私を愛してくれた。弟もだんだん大きくなって、父と母みたいに私を愛してくれたし、私も弟を愛してるんだ。どうしてだと思う？」悠人は首を横に振った。「だって家族だからだよ！」柚は悠人の小さな鼻をつまんだ。「悠人さんもお父さんとお母さんと家族だよね。だから、もし新しい赤ちゃんができたとしても、お父さんとお母さんは悠人さんを愛していたのと同じようにその赤ちゃんに愛情を注ぐはずよ。そして新しい赤ちゃんもまた、兄である悠人さんを愛してくれるはず。それはとても仲睦ましい素敵なことだよ。怖がるところか、喜ぶべきことなのよ」悠人は目をパチパチさせて、しばらく考えてから尋ねた。「じゃあ、遥母さんと蘭おばあちゃんは間違ってるの？」「先生は彼女たちに会ったことがないから、簡単に評価することはできないけど、悠人さんのお母さんには会ったことがあるからわかるんだ。彼女はとても良い人だと思うし、新しい赤ちゃんができたからって悠人さんを愛さなくなるような人には思えないな」「でも、母さんは本当にもう僕に構ってくれなくなったんだ！」「じゃあ、悠人さんはよく考えてみて。お母さんを怒らせるようなことしてないかな？」悠人は眉をひそめ、少し不安そうに言った。「もしかして、僕が遥母さんと仲が良いから？」「それは先生にも分からないな」柚は彼の頭を撫でた。「でも、このことはお父さんに聞いてみるといいよ。魔法の石のことも、お父さんならきっと解決してくれる。だから、今はもう寝ようね」その言葉を聞いて、悠人の不安な心はようやく落ち着いた。柚先生は正しい。お父さんはすごいから、きっと魔法の石を何とかしてくれるはずだ。柚は悠人を寝かしつけ、自分も彼の隣に横になり、優しく子守唄を歌った。悠人はすぐにまた眠りに落ちた。柚は彼が完全に寝入ったのを確認してから、静かに立ち上がり、部屋を出て行った。隣の部屋に戻って携帯を手に取り、柚は時間を見た。午前2時過ぎ。この時間に雇い主に電話をするのは、あま
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第251話
「お腹の赤ちゃんって、どういうこと？」柚は優しく尋ねた。「蘭おばあちゃんに、誰にも言っちゃダメって言われてるんだ......」悠人は怖くてたまらなかった。目を閉じると、血まみれで苦しむ母の姿が浮かんでくるのだ。魔法の石で母があんな風になってしまうなら、いっそそんな石はいらない。「柚先生、どうしよう？」悠人は不安で胸が張り裂けそうだった。「僕、母さんを傷つけちゃったみたいだ。悪いことしちゃったみたいだ......」「悠人さん、泣かないで。ゆっくり話して」柚はティッシュを何枚か取り、優しく涙と鼻水を拭いてあげた。「母さんは新しい赤ちゃんを妊娠してるんだけど、お父さんには内緒なんだ」柚は驚いた。「でも、お母さんとお父さんは離婚手続き中じゃなかったかしら？」「母さんは怒ってるから離婚するって言ってるだけだよ。それに、お父さんはきっと母さんと離婚しないもん！」悠人はきっぱりと言った。「母さんが怒らなくなったら、また家に帰ってくるから、そしたら、僕と母さんはまた一緒に暮らせるようになるんだ！」柚は、彼らの家族の事情をよく知らなかった。しかし、悠人の実の母が別にいると知ってから、誠也と綾の離婚は、その実の母と関係があるのではないかと薄々感じていた。それは、本来部外者の柚が、深く詮索するべきことではないのだ。しかし、今、悠人は綾が妊娠していて、誠也はそれを知らないと言っている？5歳の子供が、どうしてそんなことを知っているのだろう？「悠人さん、お母さんが赤ちゃんを妊娠しているって、どうして知っているの？」「蘭おばあちゃんと遥母さんが教えてくれたんだ」悪夢の恐怖に囚われていた悠人は、蘭の忠告などすっかり忘れてしまっていた。「蘭おばあちゃんは、母さんが僕を嫌いになって、僕に冷たくなったのは、お腹に新しい赤ちゃんがいるからだって言ったんだ。新しい赤ちゃんができたから、母さんは僕を愛してくれなくなったんだって！だから、蘭おばあちゃんが魔法の石をくれたんだ。母さんの寝室のベッドの下にこっそり置くようにって。蘭おばあちゃんは、その魔法の石で母さんのお腹の赤ちゃんは天国に帰るんだって。そしたら、母さんはまた前みたいに僕を可愛がってくれるって言ったんだ」悠人の話を聞いて、柚は自分の推測が証明されたと確信したのだ。
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第250話
誠也は少し間を置いてから顔を上げ、清彦を見た。眼鏡の奥の瞳は冷たく光っていた。「現状はどうなっている？」「赤ちゃんはとりあえず無事です。ですが、綾さんの今回の腹痛はいつもと違うようです。病院の話では、強い放射線を帯びた物に接触したことが原因ではないかとのことです。幸い早期発見でしたので、今のところ胎児に異常はありません。しかし、綾さんの体調がかなり弱っております。入院して安静にする必要があるとのことです」それを聞いて、誠也は眼鏡を外し、眉間を押さえた。「警備を二人増やせ」「承知しました」清彦は少し間を置いてから尋ねた。「では、今晩の桜井家での夕食会は、出席されますか？」誠也は目を細めた。「出席する。いい酒を何本か用意しろ」「かしこまりました」......奈々はオフィスと休憩室を何度も行ったり来たりして探したが、エネルギーストーンは見つからなかった。彼女は綾に電話した。「全部探しましたけど、見つかりませんでした」「お風呂場も全部探したの？」「ええ、全部です」奈々は言った。「でも、どんな形をしているのか分かりませんから、本当に無いって断言するには、専門の検査チームに来てもらうしかありませんね」綾は言った。「じゃあ、専門機関に連絡して、来てもらえるように手配して」「分かりました。でも、この時間だとちょっと遅いですから、明日になります」「うん、お願い」電話を切ると、綾は文子と史也の方を見た。「先生、文子さん、もう容態も安定しました。時間も遅いから、帰ってください」文子は言った。「今夜はここに残って、あなたに付き添うわ」「そんな必要はありません」輝はソファから立ち上がり、言った。「先生も文子さんももうお歳ですから、夜更かしはしないでください。私はまだ若いから平気です。だから私が残って綾の面倒を見ます！」「この子は！何を言ってるの！」文子は彼をたしなめた。「私が分からなくても、看護師さんがいますから。文子さん、心配しないで、早く帰ってください。私がここにいるのに、まだなにか不安ですか？」それを聞いて、綾も言った。「岡崎先生は北城でもよく私の面倒を見てくれていました。大丈夫ですよ。先生と文子さんは帰ってください」「そうね。じゃあ、また明日来るね」「ええ」綾は輝を見た。「先生たちを送ってあげて」
碓氷先生、奥様はもう戻らないと 第249話
「それならもっと説明がつかないな」井上主任は言った。「念のため、もう一度家に帰ってよく確認した方がいいだろう」「はい、ありがとうございます、井上先生」「どういたしまして。あなたのこの状況は、早期発見だったから流産に至らなかったんだ。でも、今後の胎児ドックには注意が必要だ。もし本当に放射性物質に触れたとしたら、胎児の発育を特に重視しなければならない」井上主任は言葉を濁したが、意味は皆分かっていた。放射線は胎児の奇形につながる。綾の心は再び張り詰めた。文子は彼女の手を優しく撫でた。「私が井上先生を見送ってくる。あなたは考えすぎないで。井上先生が言ったように、早期発見だったから赤ちゃんは大丈夫よ」「うん」綾は頷いた。文子は井上主任を見送った。綾の表情は真剣だった。輝が近づいてきて、彼女を見た。「何か思い当たることはないか？」「最近はスタジオと南渓館以外には、病院に行っただけだ」綾は思い出した。「でも、病院でも裏庭に行っただけだ」「この前の水晶のブレスレットには問題はなかった」輝は少し間を置いてから、また言った。「南渓館の可能性はないだろうか？」「それはないと思う」綾は分析した。「最近、悠人は柚さんと一緒にそこに住んでいる。もしそこに何か問題があれば、彼らにも体に反応が出るはずだ。でも、彼らは二人とも元気そうだった」それに、南渓館の家具の配置は、以前彼女が自分で手配したものだ。今回戻ってみても、少なくともリビングとキッチンの配置は変わっていなかった。他の場所には行っていない。だから、南渓館ではないはずだ。「この数日はスタジオに泊まっていた」綾は回想した。「スタジオに泊まっていた数日間で、体がだるくなったり、体調が悪くなったりし始めた気がする」「でも、スタジオには以前もよく泊まっていたのに、何もなかっただろう？」綾は、蘭が悠人を連れてスタジオに来た時のことをふと思い出した。あの時の悠人の様子は、今思い返すと、少し変だった。「もしかして、彼が......」輝は尋ねた。「誰が？」綾の顔色が変わった。「私の携帯を取ってきて」輝はすぐに携帯を渡した。綾は奈々に電話をかけた。奈々はすぐに電話に出た。「綾さん」「奈々、今すぐ私のオフィスと休憩室に行って、パワーストーンみたいなも
