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第453話

Author: 栄子
その影響を受けてか、雲水舎に戻ると、澄子はしきりに田舎に帰りたがっていた。

綾はそれを止めようとしたが、優希の名前を出しても無駄だった。

浩二の様子を見て、最近少し落ち着いていた澄子の病状が、また悪化し始めたようだ。

結局、澄子の希望通り、雲水舎で一晩過ごした後、翌日、仁と高橋が澄子を連れて田舎に戻った。

この時、コンクール決勝戦の夜から、すでに2週間以上が経っていた。

澄子の事件がこんなにスムーズに進展し、結果が出たのは、誠也の助けが大きかった。

綾も当然それを分かってはいたが、それは誠也がすべきことだとも思った。

彼は当時この事件を担当した弁護士だったのだから、事件に新たな展開があった今、全力を尽くすのは当然だ。

それも、当時結婚の条件の一つだった。

千鶴と遥が綾の作品を盗作事件というと、千鶴は賠償金と罰金を支払い、二宮家に連れ戻された。

懲役は免れたものの、千鶴を守るために支払われた金は、彼女の結婚と引き換えに得られたものだそうだ。

二宮老婦人は千鶴に、最近妻を亡くした陣内グループの社長との結婚を決めたのだ。

陣内社長が結納金として20億円と、陣内グループと二宮グループの3年間の新エネルギー契約を提示したからだ。

つまり、二宮老婦人は孫娘を売ったのだ。

その陣内社長はすでに50代で、前の3人の妻は全員亡くなっており、千鶴は4人目の妻になるということだ。

千鶴の人生は、これで終わったも同然だ。

遥は本来、懲役刑を受けるはずだった。

しかし、克哉が介入した。

彼は遥の夫として、精神鑑定書を提出したのだ。

遥は双極性障害を患っていた。

そして、その病気は10年以上も前から患っており、診断記録などの証拠も十分にあった。

さらに彼女は最近、自傷行為などの症状が顕著に現れていたため、最終的に遥は刑事責任能力がないと判断された。

克哉は遥の代わりに賠償金を支払い、彼女を連れて去って行った。

こうなると、葛城弁護士でもこの判決を覆すことはできなかった。

綾もまた葛城弁護士が最善を尽くしてくれたことを知っていた。

まさか遥が双極性障害を患っているとは、誰も予想していなかったのだから。

数日後、綾は突然匿名のメールを受け取った。

それは動画だった。

動画の中の遥は精神病院の病衣を着て、地面にひざまずきながら謝っていた。「出し
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