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第209話
最新チャプター
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第238話
茜が帰ったあと、玲奈は二階に上がってパソコンを開き、自分の作業に取りかかった。一時間ほどしてから、智希がいくつかの資料を送ってきて、「先に目を通してほしい」と伝えてきた。玲奈はすぐにファイルを開いた。最初に目に入ったのは、新たに追加された三つの不動産物件で、それぞれの所在地が明記されていた——その所在地を見て、彼女はふと手を止めた。その三つの物件はすべて青木家のあるエリアの空き物件で、しかも位置的にも青木家にかなり近かった。正直言って、智昭が以前、青木家の正面にある物件を購入してくれたとはいえ、それだけでは彼女の不安を完全に拭うことはできなかった。なにしろ、祖母は外で散歩するのが好きだし、たとえ遠山家が彼女の家の正面に住んでいなくても、同じエリアに住んでいるだけで顔を合わせる可能性は高い。その点が、やはり気がかりだった。でも今は……この新たな契約書を見つめながら。智昭はまた、彼女の心の懸念を取り除こうとしているのか？これはあくまで智昭が感謝の気持ちを表すものであり、彼女に余計なことを考えさせないための誠意なのだろう。だとしても、この三つの物件はまさに彼女の望んだものだった。それ以外のことは、もうどうでもよかった。彼女は別の資料に目を移した。そこには、智昭が資金繰りのために、まず400億を前払いで振り込むと記されていた。オークションでの贈り物の金額や、大森家に物件を買い与えた件で智昭の財力は知っていたものの。こうして軽々と何百億を出せることに、やはり驚かされた。問題がないことを確認すると、玲奈は智希に連絡を取った。契約の手続きが完了してまもなく、資金が振り込まれた。不動産については、智昭の弁護士によれば、まだ名義変更の手続き中で、数日後には権利証を玲奈の手元に届ける予定だという。これらの処理が終わった時点で、すでに午前中は過ぎていた。手術を終えたばかりの藤田おばあさんが退屈していないか心配した青木おばあさんは、午後に見舞いに行くことにした。玲奈も一緒に行くことにした。というのも、月曜日からはまた仕事に集中する予定で、しばらくは病院に藤田おばあさんを見に行けないかもしれなかったからだ。病院に着くと、玲奈は再び優里の姿を見た。彼女はもう、智昭と優里のことに関心はなか
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第237話
玲奈が裕史たちと昼食の時、玲奈は映画のチケットを購入した。食事のあと映画を観て、それから少し街をぶらついた。裕史が試着室に入り、真紀がフィギュアを買いに行った間、玲奈は茜に言った。「このあと、ママが家まで送っていくね」「家に？」茜は隣に座りながら言った。「帰らないよ。もう一晩おばあちゃんの家に泊まって、明日の夜に帰るの」玲奈は水を一口飲んでから言った。「裕史と真紀は今日一日ずっと付き合ってくれたでしょ。明日は集中して宿題しなきゃいけないから、青木家にいたら邪魔になっちゃうのよ」「別に一緒にいてもらわなくてもいいよ。私はタブレットで遊んでるだけだから」玲奈はそれ以上何も言わなかったが、タイミングを見て智昭にメッセージを送った。茜をあとで迎えに来てほしいと伝えた。智昭の方は何か用事があったのか、なかなか返信がなかった。裕史が買い物を終えたあと、少しだけまたぶらついてから、皆で青木家に戻った。青木おばあさんと裕司は茜の帰宅を心から喜んでいた。彼らは本当に彼女を大切に思っているのだ。茜は口がうまくて、夕食後には青木おばあさんと散歩に出て、青木おばあさんをとても喜ばせた。それでも、智昭からの返事はなかった。その夜、茜は青木家に泊まった。翌日、裕史と真紀はそれぞれ自分の部屋で大人しく宿題をしていた。茜も言ったことをちゃんと守り、自分で階下に行って遊びを探したり、玲奈のそばに静かに座っていたりして、騒ぐことはなかった。その時、智昭から玲奈にメッセージが届いた。茜を迎えに行かせるという内容だった。玲奈は返信しなかった。数秒後、茜のスマホが鳴った。茜は玲奈に言った。「パパからだよ」玲奈は「うん」とだけ返した。智昭が何を言ったのかは分からないが、電話を切った茜は玲奈に言った。「ママ、パパがどこかに連れて行ってくれるって……」「うん、パパからも聞いた。行きたいなら行っておいで」「うん！」三十分後、茜を迎えに来た智昭の車が到着した。茜が出発すると知った青木おばあさんは、やっぱり少し寂しそうだった。いつものように、たくさんの食べ物を茜に持たせた。車が走り去るのを見送りながら、青木おばあさんは不満そうに言った。「前はもっと気前がいいかと思ってたけど……たった二日で、もう迎えに来るなんてね」そ
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第236話
美智子は焦ったように言った。「藤田おばあさんが怪我してこの二、三日、智昭と玲奈、それに青木家の人たちも頻繁に顔を合わせてるって聞いたわ。昨日なんて、智昭が青木家のおばあさんと一緒に食事してたって目撃情報もあるの。まさか、復縁でも考えてるんじゃ？」「そもそも二人の間に情なんてなかった。だから復縁もありえない」優里は落ち着いた声でそう返したが、美智子の言葉遣いが気に入らなかった。美智子があまりにも慌てるので、彼女は仕方なく説明した。「藤田おばあさんは青木家と仲がいいの。だから智昭は玲奈と青木家のおばあさんを味方につけて、病院に来てもらったの。そうすれば、藤田おばあさんが手術を拒む口実に智昭に私と別れろなんて言い出すことも防げる」美智子はそんな背景があったとは思いもしなかった。今回の転倒で、藤田おばあさんは彼たちを藤田グループから追い出した。この数日、二つの家はずっと、藤田おばあさんが「智昭が優里と完全に別れるなら手術を受ける」と脅すのではと心配していた。そして、智昭がそれに屈するのではないかとも心配していた。でも、智昭と優里は今も良好な関係を保っている。それは智昭が藤田おばあさんを説得したからだと思っていたが、実際は青木家に協力を頼んで状況を動かしていたのだと知って、驚いた。そう考えると、美智子はようやく安心して尋ねた。「じゃあ、そのプロジェクトは智昭から青木家へのお礼ってこと？」「そう」優里は答えた。「感謝の気持ちでもあるし、線引きの意味でもある」それを聞いた美智子は感嘆の声を漏らした。「やっぱり智昭って本当に抜け目がないわね。だからこそあんなに会社を上手く回してるのね」話がいい方向に進んでいるはずなのに、美智子の顔には微妙な陰りが見えた。でも……何かを思いついたのか、喜びは一瞬で消え、彼女は眉をひそめた。「今、青木家は玲奈のおかげで長墨ソフトの案件を取って、少し持ち直してきてるのよね。もし藤田グループのプロジェクトまで取ったら、青木家が本当に復活しちゃうんじゃない？」その話題になると、優里の表情は冷たくなり、答えた。「あのプロジェクトは受け取らなかったわ」「受け取らなかった？」優里が答える前に、美智子はすでに察していた。「なるほど、智昭に恩を売って、あの善人面の玲奈が未練がましく繋がろうとしてるってわけ
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第235話
玲奈は智昭に向かって言った。「おじさんが言ってたんだけど、藤田グループの誰かが彼に接触して、プロジェクトの提携を持ちかけたらしい」智昭が何か言おうとした。玲奈は続けた。「あなたが私とおばあちゃんに恩を感じたくなくて、お礼のつもりでそうしてくれてるのは分かってる。でも、私たちが病院に行ったのは、あなたのためじゃない。だから、プロジェクトの件は断るわ」もし彼らが藤田グループと取り引きでもすれば、大森家や遠山家は黙っていないし、あちこちで問題を起こすに決まっている。たとえ今の彼が純粋に恩返しとしておじにプロジェクトを任せようとしているとしても、それは感謝の延長線にすぎない。でも、彼が愛しているのは優里だ。もしもいつか気が変わって、今日の助けを引き合いに出してきたら、それはただの厄介な貸しになってしまう。その時何かあったら、責任を負うのは青木家のほうだ。彼からのプロジェクトなんて、彼女には受け取れない。彼女は冷たく言った。「安心して。離婚したら、私たちは赤の他人。私はもうあなたに関わらない」彼女にとって、これもまた智昭なりの線引きにすぎなかった。彼がこんなに急いで線を引こうとするのは、結局、彼女に執着されるのが怖いからじゃないか。でも、彼女はもう彼に執着しない。彼女の話を最後まで聞いた智昭は、数秒の沈黙の後に「わかった」と答えた。玲奈はそれ以上何も言わず、スマホを手に取って背を向け、裕司に自分の考えを伝えた。通話を終えると、彼らはそのままスキーに出かけた。今回のスキーは順調で、特にトラブルもなかった。ただ、玲奈はほとんどの時間を裕史、真紀、茜との会話に費やしていた。智昭との会話は、必要がある時を除いてほとんどなかった。智昭もまた、自分から話しかけることはなかった。昼が近づいた頃、智昭は玲奈に「用事があるから先に帰る」と伝え、玲奈は淡々と返した。「うん」智昭は茜に向かって問いかけた。「茜ちゃんは――」「ママたちと映画見に行く！」それは玲奈が決めたことではなく、裕史と真紀が映画に行きたがっていたのだ。三人の子どもたちは話し合ってから、玲奈に提案した。智昭は「わかった」とだけ答えた。彼は玲奈に軽く頷くと、背を向けてその場を後にした。智昭が出てから十数分後、玲奈のスマホが鳴っ
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第234話
茜は駆け寄り、嬉しそうに言った。「わあ、美味しそうなものがいっぱい！それにタピオカミルクティーもある」「うん」智昭は言った。「みんなが来るって聞いて、少し用意させた」そう言いながら、彼は玲奈に視線を向けたが、彼女が無視すると、真紀と裕史に視線を移し、軽く会釈してから促した。「座って」智昭の放つ雰囲気は強く、裕史と真紀は藤田おばあさんに挨拶した後、自然と彼の言葉に従って茜のそばに座り、茜と智昭が差し出した食べ物を口にした。子どもたちが食べ始めたころ、智昭は玲奈に一品を差し出した。「食べてみる？」藤田おばあさんが見ているのに気づいて、玲奈はそれを受け取り「ありがとう」と言った。そう言ってひと口飲んでみると、それは彼女の好みにぴったりなイチゴ味のドリンクだった。スキーに行くと聞いた藤田おばあさんは智昭に向かって言った。「智昭、玲奈たちと一緒に行っておくれ。スキーは危ないし、玲奈一人で三人の子どもを見るのは大変よ。あなたが手伝ってあげなさい。私は執事と小山さんがいれば大丈夫だから、ずっと付き添わなくていいのよ」玲奈が口を開こうとしたとき、智昭が先に言った。「わかった」茜は智昭も一緒に行くと知って、大喜びだった。玲奈と茜たちは病室でしばらく過ごした後、帰る準備を始めた。智昭はテーブルの書類を片付け、玲奈たちと一緒に病室を後にした。彼らは二台の車で向かった。茜と裕史たちは玲奈の車に乗った。スキー場に着くと、智昭は茜のウェアやゴーグルを整えていたが、その時、彼の携帯が鳴った。彼は少し離れて電話に出て、しばらくしてから答えた。「あとで向かう」茜は聞いた。「パパ、それ誰からの電話？」智昭は答えずに尋ねた。「昼ごはんはパパと食べたい？それともママたちと行きたい？」茜は少し戸惑った。「え？一緒に食べないの？」智昭は言った。「うん、パパはちょっと用事があるんだ」玲奈と裕史たちは智昭の会話を聞いていたが、何も言わなかった。智昭は茜の頭を撫でて言った。「急がなくていいよ。まず滑ろう。滑り終わってから考えても遅くない」「うん！」三人の子どもたちが少し離れた場所で話している中、玲奈はゴーグルをつけながら智昭に聞いた。「離婚のこと、まだ？」智昭は「まだだ」と答えた。少し間を置いて、彼は続けた。「もし急
社長夫人はずっと離婚を考えていた 第233話
智昭が手を差し出してきたのを見て、彼女は仕方なく腕の中の花を渡した。彼女は清司や辰也たちの方を一切見なかった。ベッドの方へ歩み寄り、藤田おばあさんに尋ねた。「具合はどう？」「まだちょっと痛むけど、大丈夫よ」手術を終えたばかりで疲れが見えていた藤田おばあさんは、手を差し出して彼女の手を軽く握りながら言った。「一日仕事して疲れたでしょ？もうご飯は食べた？後で智昭たちと一緒に食べて行ったら？」玲奈はそう答えた。「いいの、おばあさま。会社で食べてから来たの」玲奈が依然として智昭に対して距離を保っているのを見て、藤田おばあさんは言葉を飲み込んだ。その後も玲奈は少しだけ藤田おばあさんと会話を交わした。藤田おばあさんが疲れて休むと言ったので、玲奈も帰ることにした。青木おばあさんは智昭に玲奈を送るよう頼み、ちょうど彼らも食事に行くところだったため、一緒に病院を出た。エレベーターの中で、清司がずっと玲奈をじっと見つめていた。その視線に気づいた彼女は冷たく振り返りった。「もう見飽きた？」清司が肩をすくめた。「……まあ、だいたいね」玲奈はそれ以上相手にしなかった。エレベーターが目的の階に到着すると、彼女が真っ先に外へ出た。智昭たち三人はその後に続いた。玲奈との距離が二、三歩空いたのを見て、清司は小声で智昭に耳打ちした。「あの態度の変わりよう、本当にあきらめたのか？いや……俺にはそうは見えないけどな？」智昭は無言のまま、玲奈の背中を見つめていた。辰也は内容が聞き取れず、「何の話？」と尋ねた。清司はさっきの話をそのまま辰也に伝えた。辰也もまた、智昭と同じように玲奈の背中を見つめるだけで、特にコメントはなかった。病院の出口を出る頃、智昭は玲奈の背中に向かって言った。「茜ちゃんは今、青木家にいる」玲奈はその言葉に一瞬だけ足を止めたが、何も言わずにそのまま駐車場へ向かった。そこで彼女は、優里がまだそこにいるのに気がついた。彼らが出てくるのを見て、彼女は二、三歩こちらに近づいた。玲奈はまっすぐ自分の車に向かい、智昭と辰也たち三人はそのまま優里の方へと歩いて行った。玲奈は車に乗り込むと、そのままエンジンをかけて走り去った。智昭たちがどうしたのか、彼女は一切気に留めなかった。彼女は車を走らせ、青木家に帰っ
