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第280話

作者: 雲間探
茜が玲奈に電話をかけて間もなく、智昭が手配した迎えの車が到着した。

結局、茜は玲奈が戻るのを待つことなく、その車に乗って出発した。

個室に着くと、茜は智昭と優里の胸に飛び込んだ。「パパ、優里おばさん!」

智昭は笑いながら彼女の頭を撫で、優里は彼女のリュックを隅に置いた。

個室には、辰也、清司、そして結菜もいた。

茜が智昭と優里をこんなにも慕っている様子を見て、清司は笑った。「智昭、やっぱり茜ちゃんも一緒に海外に連れて行くべきだったよ。たった数日でこんなに寂しがってるなんて。もう少し帰りが遅れてたら、茜ちゃんがきっと泣いてたんじゃないか?」

清司のその一言は、まるで茜が玲奈と一緒にいたことが彼女にとって不満だったかのように聞こえた。

辰也は一瞬動きを止め、智昭たちが何かを言う前に話題を逸らすように尋ねた。「茜ちゃん、ここ数日どこか遊びに行った?」

茜は椅子に座って答えた。「うん、ママと映画に行って、VRゲームして、ご飯も食べたよ」

清司が眉を上げた。「それだけ?」

「それだけ」茜はあっさりとした様子で言った。「ママは忙しくて、あんまり遊ぶ時間なかったの」

清司は、茜が言う玲奈の忙しさを、正月の親戚づきあいだと解釈した。

実際、彼も辰也も同じだった。

彼らは去年の年末からずっと忙しく、ここ数日ようやく親戚付き合いを一通りこなしたかと思えば、すぐに仕事が始まり、何日も立て続けに慌ただしく過ごしていた。そんな中で、ようやく今日になって時間を作り、智昭や辰也たちと集まって食事をし、少し肩の力を抜ける時間を取ることができたのだった。

優里は本を読んでいた。

茜はジュースを一口飲み、退屈そうに本の表紙を眺めていたが、見覚えがあると感じて何度か見直した。

辰也が尋ねた。「茜ちゃんもこういう本、興味あるの?」

茜は首を振った。「ううん、ただママもこの本持ってるのに気づいただけ」

それを聞いて、優里は一瞬だけ手を止め、口元に笑みを浮かべた。

この本は、初級版と上級版で表紙が同じだった。

彼女が読んでいるのは上級版で、大学生どころか博士課程でもなかなか触れないような内容が載っている。

最近優里は読書に励んでおり、結菜が毎日のように大森家に来ていたため、この本に初級版と上級版があることを知っていた。

茜の言葉を聞いて、彼女は無意識のうちに、玲奈が
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コメント (2)
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まり
わかる!クズ男と不倫女が、ただただ気持ち悪い...自分で親権取るって言ったくせに、都合よく玲奈をこき使うのも、気持ち悪い。あ~頭が爆発しそう...
goodnovel comment avatar
優子
クズ男とクズ女が気持ち悪すぎる。まだ離婚成立してないのに堂々とキショい。 玲奈が幸せになるのが見たいのにずっとクズどもの堂々とした行動しかないのが腹立つ。 早くグズどもに鉄槌を下して欲しいです。 クズ女のプライドがズタズタになること、玲奈がクズ女より数倍実力があることを全員の前で暴露されることや、クズ女のプロジェクトが盛大にこけて本当は実力もないのにクズ男のおかげで今の地位に上がってるとか、クズ男が土下座して玲奈に謝るとか、とにかく玲奈の幸せも見たいけどクズ男クズ女クズ家族が地獄を見るとこが見たいです。 今回すごく腹が立って長々と書いちゃた。
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