ルシアンの言葉に、おずおずと尋ねる。
「本当ですか?」 「ええ。薔薇を愛でても、罪にはならないでしょう?」 「はい……でも、」 「エマ。私は、可憐な花びらに触れただけです。貴方は、私に愛でられた薔薇」 囁かれる甘い声に、エマの心が震えた。 今まで口説かれたことのないエマは、すっかり胸をときめかせていた。 (僕を、薔薇だなんて) 戯れの言葉だと思いながらも、ルシアンに見惚れてしまう。 「もちろん、口外はいたしません。貴方の心を脅かすのは、私の本意ではありませんから」 ルシアンの言葉にホッとした。 「何も心配はいりません」 ルシアンは優しい声でそう告げると、エマの手を取り、左手の甲に恭しくキスをした。 「る、ルシアン様っ」 「私の、美しい薔薇」 「ぁっ」 煌めくような紅い瞳に見つめられ、鼓動が跳ねた。 心臓がドキドキと早鐘を打ち、甘い台詞に心が蕩けてしまうようだ。 「今宵はこれで失礼します。また、お会いしましょう」 ルシアンは優雅に微笑みを浮かべ、身を翻した。 遠ざかる背中を見つめながら、ドキドキとうるさく鳴る胸に手を当てる。 「ルシアン様……っ」 もう届かないと知りながら、愛しい名を囁いた。 薔薇に囲まれたその場所には、エマだけが残される。 まるで夢のような出来事に、エマは月を見上げた。 冴え渡る月を思わせる、冷艶な美しさは、エマの心を捉えて離さない。 しばらく立ち尽くしていると、見慣れた姿が飛び込んできた。 「エマ様!」 「ナタリナ?」 身構えていたエマは、肩の力を抜く。 ナタリナはエマの元へ駆け寄り、安堵の表情を浮かべた。 「エマ様、遅くなりまして、申し訳ございません」 「謝らないで。僕は大丈夫だから」 「あら? 熱が落ちつかれたようですね」 「うん。ナタリナこそ、大丈夫? すごい汗だけど」 「ああ翌朝、エマが目覚めると、熱もなく体もスッキリしていた。 ルシアンにもらった鎮静剤は、抜群の効果で、エマは驚きと喜びでいっぱいだった。 「ナタリナ、体が軽くなったみたい」 「良かったですね。エマ様」 「うんっ」 念のため、静香石を使ってフェロモンを抑え、今日の接待に向けて準備していた。 レオナールからは予想通り、体調不良の文が届いた。それも本人ではなく、秘書官が代わりに書いたものだ。 エマに仕事を押しつける内容を受け取り、ため息をついたのもつかの間、続けて王太子の筆頭秘書官がやってきて、思いがけない事態になった。 侍女長に呼ばれ、急いで本館の控えの間へ赴いたエマは、王太子からの文を受けとって、驚きのあまり立ち尽くす。 なんと、王太子が今日の公務を休むというのだ。 「王太子殿下は、お越しになれないと?」 「さようでございます。本日の接待は、弟君レオナール殿下に一任される予定でしたが……」 秘書官は言葉を切り、エマの後ろに控えていた侍女長を冷ややかに見つめる。 「どうやらレオナール殿下も、体調が思わしくないご様子。王太子殿下は、エマヌエーレ様に一任されると仰せです」 「わ、私が、皇太子殿下の案内役をっ?」 「エマヌエーレ様には、誠に申し訳ないと仰せでした」 「いえっ。とんでもないことです」 慌てて首を振り、謹んで承ると伝えた。 王太子が公務を取りやめるなど、本来ならあり得ない。 だが、渡された文には、王太子妃の容態が悪く、看病のために休むと書かれていた。 まだ正式に発表されていないが、王太子妃は第四子を妊娠している。王太子夫妻は揃って式典に出席したが、そのせいで無理がたたったのだろう。 (王太子妃様は、あまりお体が丈夫じゃないから) それに、王太子は正妃をとても大切にしている。 容態が回復しても、今日はずっと側で付き添うことだろう。 エマは、急な大役が回ってきたことに、軽くめまいがした。 事の次第を聞いた本
ルシアンは自嘲気味に呟き、テーブルにおかれた書類を手に取る。 部下から上がってきた報告書だ。 今回、ランダリエに赴いたのも、帝国に損害をもたらす重要な問題が発覚し、その調査を内密に行う為だった。 ここにいる間、王室の人間はティエリーを注視する。その裏で、ティエリーの側近は王国の貴族達と関わりを持ち、身分を隠した部下達が、密かに王都へ繰り出して情報を集める。 その為、皇太子であるティエリーが直接ランダリエ王国を訪れたのだ。 ルシアンは報告書に目を通しながら、貴族達の利害関係や所有する財産、投資先の情報を確認していった。 夜半を過ぎた頃に、ティエリーがやってきた。 酒臭い匂いに眉をしかめるが、ティエリーの顔を見れば、大して酔ってはいない。 ルシアンの向かいの椅子に腰掛ける。 侍従も付けずにふらっとやってくるのは、いつものことだ。 ティエリーは笑みを浮かべ、いつもより陽気な口調で問いかけてきた。「ルシアン。首尾はどうだ?」「あの婚約者なら問題ない。まだ番っていないからな」「それは朗報だ。情報は聞き出せたか?」「『聖樹』のことなら少し聞いた。……『聖樹』からは、アルファかオメガしか生まれなそうだ」「ほう? ベータは生まれないのか」「その点だけ、普通のオメガとは違うようだ」「他には?」「王族と側妃との間にベータが生まれたら、臣下に下る。だから妃以外の王族はアルファしかいないそうだ」「なるほど」 ルシアンの話に相づちを打ち、ティエリーはさらに問いかける。「それだけか?」「ああ」「お前、あの婚約者を追ってパーティを抜けただろう?」「話をする状況ではなかったんだ」 ルシアンは視線を逸らす。 大広間には、ルシアン以外にもティエリーの側近や部下が参加していた。情報収集のためお互いの動きに注意していたから
実は、エマには自由にできるお金がない。 王族の婚約者には王室費が割り当てられているが、そのお金はレオナールの許しがなければ勝手に使えないのだ。 エマを使用人用の離れに閉じ込めて冷遇するレオナールが、贈り物を買うお金など渡してくれるはずがなかった。 「エマ様が贈り物をされることも、あの男の耳に入ると厄介ですからね。お気持ちだけの、目立たない、小さなものがよろしいかと」 「小さいものかぁ」 「そうですわ。エマ様は『聖樹』ですから、祈りの言葉などはいかがですか? 『聖樹』のお守りだと言ってお渡しすれば、あちらも受け取って下さるでしょう」 『聖樹』は神殿に入り、神官と同じように過ごす。毎日身を清め、礼拝と祈りを欠かさずに過ごしてきたエマは、神官同様に、神の加護を受けた存在として扱われる。 親しい人や世話になった方へ、祝福や祈りの詩を贈るのは貴族にとって普通のことだ。『聖樹』が贈るものは特に喜ばれるので、頼まれて詩を書いたことは何度もある。 「僕の書いた詩で、喜んで下さるかな?」 「帝国にも似たような習慣があると聞きます。『聖樹』のお守りですから、きっと喜んで下さいますよ」 ナタリナは励ますように、笑顔を向ける。 詩を書いて渡すくらいなら、もしレオナールに見つかってもうるさく言われることはないだろう。 「じゃあ、祝福の詩にする。ナタリナ、紙とペンを出して」 「いいえ、エマ様。今宵はもうお休み下さいませ」 「でも、ちょっとだけ」 「今日は朝からずっと働き通しで、お疲れになったでしょう。明日も朝が早いですから、お休みになって下さい」 目をつり上げ、怖い顔で睨まれては、エマも降参するしかない。 大人しくベッドに入って横になった。 「ナタリナも、早く休んでね」 「ええ」 ナタリナが毛布を肩までかけて、優しく背中を撫でた。 エマが眠るまで、側にいてくれるのだ。 横になると、体がズシンと重たく感じる。 ナタリナの言うとおり、ずっと働きづめだったからだ
ルシアンの言葉に、おずおずと尋ねる。 「本当ですか?」 「ええ。薔薇を愛でても、罪にはならないでしょう?」 「はい……でも、」 「エマ。私は、可憐な花びらに触れただけです。貴方は、私に愛でられた薔薇」 囁かれる甘い声に、エマの心が震えた。 今まで口説かれたことのないエマは、すっかり胸をときめかせていた。 (僕を、薔薇だなんて) 戯れの言葉だと思いながらも、ルシアンに見惚れてしまう。 「もちろん、口外はいたしません。貴方の心を脅かすのは、私の本意ではありませんから」 ルシアンの言葉にホッとした。 「何も心配はいりません」 ルシアンは優しい声でそう告げると、エマの手を取り、左手の甲に恭しくキスをした。 「る、ルシアン様っ」 「私の、美しい薔薇」 「ぁっ」 煌めくような紅い瞳に見つめられ、鼓動が跳ねた。 心臓がドキドキと早鐘を打ち、甘い台詞に心が蕩けてしまうようだ。 「今宵はこれで失礼します。また、お会いしましょう」 ルシアンは優雅に微笑みを浮かべ、身を翻した。 遠ざかる背中を見つめながら、ドキドキとうるさく鳴る胸に手を当てる。 「ルシアン様……っ」 もう届かないと知りながら、愛しい名を囁いた。 薔薇に囲まれたその場所には、エマだけが残される。 まるで夢のような出来事に、エマは月を見上げた。 冴え渡る月を思わせる、冷艶な美しさは、エマの心を捉えて離さない。 しばらく立ち尽くしていると、見慣れた姿が飛び込んできた。 「エマ様!」 「ナタリナ?」 身構えていたエマは、肩の力を抜く。 ナタリナはエマの元へ駆け寄り、安堵の表情を浮かべた。 「エマ様、遅くなりまして、申し訳ございません」 「謝らないで。僕は大丈夫だから」 「あら? 熱が落ちつかれたようですね」 「うん。ナタリナこそ、大丈夫? すごい汗だけど」 「ああ
「ひぁぁんッ、ぁぁっ、ぁぅッ!」 (アァッ! き、きもちいいッ……きもちい、……もっとっ) 雄を扱かれ、蕾におさまった静香石をグリグリと弄られる。 エマは昂ぶりと蕾を同時に攻められ、身悶え、泣きながら果てた。 「ひぁぁぁんッ……ぁぁッ」 躰をピクピクと震わせ、惚けたように空を見る。 浅く息を繰り返しながら、躰の熱が引いていることに気付いた。 「ぁっ、ぼく……?」 あれほどジクジクと煽り立てていた疼きも、静まっている。 蕾を締めつければ、静香石を感じるが、少し違和感があるだけだ。 「エマ、大丈夫ですか?」 「あっ……」 声を掛けられてハッと我に返る。 月光を背にしたルシアンが、赤い瞳を細めてエマを窺う。 「薬を飲めば、落ちつきますよ」 「くすり……」 薬は、手元にない。 ナタリナが抑制剤を取りに行ってくれてるけど、まだ戻ってくる気配はなかった。 「薬、なくて……」 「私が持っています。さあ、起こしますよ」 ルシアンはそう言うと、エマの背に手を添えて、上体を起こしてくれた。 そればかりか、背後から抱きしめるようにして、体を支えてくれる。 「ぁっ、ルシアン様っ」 「エマ。口を開けて」 凜とした声が鼓膜を震わせる。 ルシアンは右手に、小さな小瓶を持っていた。素早く蓋を回し空け、エマの唇へそっと傾ける。 「苦いかもしれませんが、すぐ楽になります」 「んっ」 とろりとした液体が口に入ってくる。 苦味はあるが、コクッと飲み込んだ。 小瓶の中身をすべて飲み干すと、ルシアンが頬を撫でた。 「よく飲めましたね」 「ぁ、……っ」 ぽぅっと頬が赤くなる。 後ろから逞しい腕に抱きしめられ、ルシアンのぬくもりを感じながら、甘い香りを胸に吸い込んだ。 濃厚な香りはなりを潜め、今は薔薇のいい香りがあたりを包んでいる。
顔を覆いたいほど恥ずかしかったが、スッキリしたはずの躰が、また疼き出す。 蕾におさめた静香石は、熱を持ったままだ。 「ぁ……んっ」 エマは目をつむり、その疼きに耐えようとしたが、ルシアンに見抜かれた。 「もしかして、これが苦しいですか?」 「ぁんっ」 ルシアンの指が蕾に触れ、ぴくっと震える。 そこで初めて、ルシアンが今までいちども、蕾に触れずにいたことに気付いた。 「ぁ、ルシアン様……っ」 「静香石でしょう?」 「っ!」 かぁ、と頬が熱くなる。 どうして気付かれたのかと思ったが、秘部を見下ろせば、蕾から短い紐が伸びている。 中に埋めた静香石を取り出すときに必要な紐だ。 「香りがまだ強いですね。正常に動いているか、確認しましょう」 ルシアンは優しく言い、エマの蕾に埋もれた静香石の紐を掴む。 「ぁ、る、ルシアン様っ」 「力を抜いて」 「ぁぁっ」 甘い声で囁かれると、素直に従ってしまう。 ルシアンが紐を引っ張ると、ギュッと蕾が締まる。 クン、と引っ張る力に、勝手に抵抗するのだ。 「んっ、ぅぅ……はぁ」 エマは深く息を吐いて、躰の力を抜く。 その隙に、ルシアンがグッと紐を引っ張った。 「ひゃぁぁんッ!」 ズルッと丸い球体が蕾から抜け落ちる。その刺激にさえ感じて、ビクビクと震えた。 「これが、静香石ですか」 ルシアンが感心したように呟く。 「?」 「私が知っている物は、もっと簡単な構造をしているのですが、これはかなり高価な代物のようですね」 「ぁっ、それは、ダリウ殿下が……」 「王室所有の代物でしたか」 納得したように頷くが、ルシアンの手に取り出された静香石は、愛液に濡れて、月光にイヤらしく光っている。 エマはいたたまれなくなり、今度こそ顔を覆った。 「も、申し訳ありませんっ。そのように、はしたない物をっ」