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第492話
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離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第520話
大輔はまだ、雅人の経歴に目を通しただけで、具体的な事業内容までは確認していなかった。そうこうするうちに留置場に到着し、車が停まると、彼ははっと我に返った。なんて人物だろう。商才に優れた新井社長でさえ、彼の前では霞んで見える。いや、待て。そもそも、なぜ彼のことを調べたんだ？それは……美月が新たに得た後ろ盾が、この男だからだ！車から降りようとした大輔の足が、宙に浮いたまま止まった。後からじわじわと込み上げてくる感情は、言葉では表現しがたい。正直なところ——美月も、なかなかの手練れだ。雅人が帰国したのは、わずか五日前。それなのに、彼女はもう彼に取り入って、ウェスキー・ホテルにまで居を移している。一体、どうやってあの大物を手中に収めたんだ？容姿か？スタイルか？だが、彼女の外見など、その程度のものだ。透子ほど洗練されてもいない。ましてや、雅人ほどの人物なら、どんな美人でも手に入れるはずだ。そんな凡庸な女性に、本気になるだろうか？……まさか、内面の魅力というわけでもあるまい。それこそ笑止千万だ。大輔には到底理解できず、首を傾げるしかなかった。彼は足を地面につけ、留置場の門へと歩きながら、ここ数日、部下に監視させていた美月の足取りを頭の中で反芻していた。自分が多忙で何か重要なことを見落としたとは思えない。美月は、あの安アパートからほとんど一歩も出ていなかったはずだ。唯一、少しマシな場所へ出かけたのは、一度きりの茶室だけ。社長からは、京田市から出ないように見張っておけとしか言われていなかったため、茶室で誰に会ったかまでは把握していない。まさか、その茶室で偶然にも橘雅人と出会い、二人は恋に落ちた、というのか？そんなの、あまりにも非現実的だ。一度会っただけで恋に落ちる？その後、美月が外出した様子もない。二人はどうやって関係を深めたんだ？まさか連絡先を交換して、オンラインでやり取りでもしたというのか？大輔は呆れたような表情で、自分の推測に思わず苦笑した。なんて馬鹿げた話だ……こんな話、自分でも信じられないのに、社長に報告できるはずがない。あれこれ考えているうちに、彼はすでに留置場の受付ロビーに着いていた。手続きを済ませ、職員について新井社長のいる個室へと向かう。その時、タイミン
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第519話
悠斗は口元に冷笑を浮かべた。そこへ、浩司がやってきたので、彼はパソコンの画面を素早く切り替えた。浩司は小声で言った。「悠斗様、ご指示いただいたプロジェクトのチーム変更の件ですが、手配が完了いたしました。明日の午前、旭日テクノロジーへ訪問し、オンラインプラットフォームの市場開発について共同検討を行うことになります」悠斗は頷き、了解の意を示した。自分も、そろそろ兄の妻に会う頃合いだろう。いや、元兄の妻と言うべきか。そんなことは大した問題ではない。離婚したからといって、何が変わるというのだ。蓮司は相変わらず、彼女に執着しているではないか？彼女のために、自分が不能だとまで偽証するのだ。愛し過ぎとしか言いようがない。だから、いずれ会社も女も自分のものになった時、蓮司はきっと全ての望みを失い、そのショックに耐えきれず、精神を病むに違いない。悠斗の瞳に鋭い光が宿った。彼はすべての計画を前倒しにするつもりだった。目下、早急に実績を示すことが最優先だ。……その頃、最上階の社長補佐室では————あと三時間で新井社長を迎えに行かなければならないというのに、大輔はまだ、美月が新たに得た「後ろ盾」の正体を突き止められずにいた。実に不可解だ。京田市にはそのような人物は存在しない。まさか、他の都市から出張で来ているのだろうか？だが、それもおかしい。全国の財界を調査しても、その男の素性は見つからなかったからだ。大輔は眉をひそめた。通常の方法では調べられないのなら、「特別ルート」を使うしかない。ウェスキー・ホテル。社長の名義で裏から確認すれば、簡単なことだ。彼は直接ホテルの総支配人に連絡を取った。二十分後、メールで送られてきた宿泊者情報を見て、彼は呆然とした。プレジデンシャルスイート二室、五日前にチェックイン。顧客のその他の個人情報は未登録で、名前と写真があるだけだった。大輔がさらに詳細な資料を請求すると、相手からの返信はこうだった。【申し訳ございませんが、こちらのお客様は海外本社の特別VIPでして、国内と海外ではシステム情報が連携しておりません。もし情報を引き出すとなりますと、上層部への申請が必要となり、同時にこちらの照会も記録されてしまいます】大輔は言葉を失った。特別VIP……この「橘雅人」という男は、一体何者な
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第518話
アシスタントは続けた。「この件には、美月様に関連することがあります。それは、蓮司側の弁護士が、美月様が彼の婚姻関係に介入し、破壊したと主張している点です。そして、彼自身は誘惑されて過ちを犯し、精神的には一線を越えたものの、肉体関係はなかった、と」その言葉を聞き、雅人は拳を強く握りしめ、目に怒りの炎を灯した。新井蓮司……よくもまあ、そんな厚顔無恥なことが言えたものだ！まさに、人でなしの極みだ！アシスタントは続けて言った。「離婚訴訟については、新井蓮司が原告です。彼は離婚に同意せず、過ちを認めた上で、婚姻関係の修復を求めているとのことです。ですので、私も混乱しています。彼が本当に愛しているのは、あの如月さんなのか、それとも美月様なのか……」当初、彼は蓮司が愛しているのは朝比奈美月、つまり社長の妹だと思っていた。しかし、今日入手した資料では、相手は美月が婚姻を破壊したと断固として主張している。まさか、美月と関係を持ちながら、家では奥様も手放したくないと？二股をかけるつもりか？げ、本当に最低だ！後部座席で、雅人は冷徹な声で言った。「誰を愛していようが関係ない。とにかく、二度と美月に近づかせはしない」彼は蓮司にきっちり責任を取らせるつもりだ。逃がすわけにはいかない。アシスタントはそれ以上何も言わなかった。確かに、蓮司のような男は、橘家の婿にはふさわしくない。アシスタントは思い出したように言った。「ああ、もう一つ重要な情報がありました。美月様が留置場に十五日間入れられ、一億円を要求された件ですが、当初は新井蓮司の元奥様の仕業だと考えていましたが、実際は違っていました。相手の身分が特別なため、警察署にも正式な記録が残っていませんでした。本日、改めて調査した資料によりますと、美月様が人を連れて新井蓮司の元奥様を脅そうとした際、破損したブランドバッグは彼女本人のものではなく、その友人のものでした。その友人は、柚木グループの令嬢、柚木理恵という、かなりの大物です。一億円を要求したのも彼女で、彼女の兄である柚木聡、つまり柚木グループの社長が、美月様を十五日間留置場に入れたのです。如月さんには家柄も後ろ盾もありません。彼女に、裏で圧力をかけるような力がないこともこれで説明がつきます」聞き覚えのある名前に、雅人は
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第517話
「お父さんもお母さんもご高齢ですし、お母さんの体調も良くないと伺っています。私が海外へ会いに行ったほうがいいのではないでしょうか」万が一彼らが帰国して、透子に会でもしたら……それにしても、朝に送ったばかりのメッセージでは、あの男がまだ透子に手をつけていないとは、本当に役立たずだ。雅人は顔を上げ、妹の言うことにも一理あると感じたが、口を開いた。「両親は君に会いたがっているんだ。僕の方は国内のプロジェクトがまだ始まったばかりで、しばらく離れられない。それに、二人も京田市を離れて二十年になる。帰ってきてみるのもいいだろう。当時は辛い思い出に触れて、母さんが鬱状態になってしまったからな。だが、君が見つかった今、その心配はないだろう」その言葉を聞き、美月は一瞬心臓が跳ね上がり、頭をフル回転させて言った。「でも、お母さんの体調が長旅に耐えられるか心配で……だから、やはり私が……」雅人は言った。「大丈夫だ。母さんには専属の医師がついているし、ここ数年は体調もいい。それに、橘家には国内直行のプライベートジェットもある」美月はそれを聞いて、ステーキを口に運びながら、もう何も言わずに頷いた。これ以上断ることはできない。断れば、何か隠し事があると勘づかれてしまう。だから……必ず、何としても、早く透子を始末しなければ。彼女はうつむき、その瞳に一筋の冷たい光が走った。向かい側で、雅人はそのことに全く気づかず、フォアグラとキャビアの皿を妹の前へと差し出した。昼食が終わり、秘書が車で二人をホテルまで送った。雅人は車から降りず、美月に向かって言った。「僕は仕事に戻らないと。午後は映画でも見に行くか、ゴルフでもするか？誰かを付き添わせるよ」美月は瞬きしながら甘い笑みを浮かべて言った。「いいえ、大丈夫です。お兄さんはお仕事なさってください。私はホテルにいますから。映画は、時間があるときに一緒に見に行きましょう。ゴルフは、できませんので」彼女がそう言って車のドアを閉めると、車内に残された雅人は呆然としていた。今……美月が彼を「お兄さん」と呼んだ……初めて聞いた……雅人は、妹の姿がホテルの中へ消えていくのをただじっと見つめ、それから我に返ると、思わず微笑み、胸が高鳴るのを感じた。なんと素晴らしい響きだろう。彼は
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第516話
不意に、蓮司がまた口を開いた。「俺のクズ親父は、お爺様のことを恨んだことはありますか？お爺様は彼に、愛してもいない女性を娶るよう強制しました。商業のための政略結婚です。彼は一族の跡継ぎの座を捨てて、小さな支社の管理職に甘んじてでも、新しい恋人を諦めようとはしませんでした。彼はきっと、お爺様を恨んでいたはずです。ある意味、お爺様の支配欲は強すぎるんです。俺に対してもそうです。もし最初からお爺様がいなければ、俺と透子は関わることもなく、今のような泥沼にもならなかったはずです。お爺様は俺を責め立てるばかりで、自分がすべての元凶だと反省したことはありますか？お爺様が無理やり俺たちを結びつけなければ、今日のすべてはなかったんです」その言葉は、感情のない平坦な口調で、怒りも、非難の色も帯びていなかったが、一言一句が刃のように、新井のお爺さんの胸に突き刺さった。電話の向こうは、数秒間の沈黙が続いた後、執事の慌てた叫び声が聞こえてきた。「旦那様！旦那様——」新井のお爺さんは、怒りのあまり気を失ってしまった。執事はすぐさま家庭医療チームを呼び、応急処置を施してプライベート病院へと搬送した。留置場の部屋の中。蓮司は無表情のまま受話器を置き、振り返った。その目は虚ろで、焦点が合っていなかった。どれほどの時間が経ったか、彼はようやくスマホを取り出し、大輔に夜に迎えに来るようメッセージを送った。控訴審に敗れたことは、大輔から聞く前に、弁護士がすでに結果を伝えていた。またしても、お爺さんが彼の計画を阻止したのだ。本来なら、双方が平行線をたどり、裁判官は彼に有利な判断をするはずだった。しかし——お爺さんが人を差し向け、すべてを台無しにした。弁護士も言っていた。たとえ今回勝ったとしても、一年後には結局離婚することになる、と。だが、少なくともまだ一年という時間があった。その間に、何かを償い、挽回し、透子に許してもらえる可能性がまだあった。しかし……お爺さんは、一年という時間さえ与えず、彼と透子の唯一の絆を、きれいさっぱり断ち切ってしまった。蓮司は目を閉じ、深呼吸をした。肩ががくりと落ち、まるで魂を抜かれたかのようだった。さっき言ったことは嘘ではないし、わざと責任転嫁したわけでもない。そもそも、最初にお爺さんが二人をく
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第515話
ついに、彼は絶好の言い訳を思いつき、前を走る聡に電話をかけた。聡が電話に出ると、翼は言った。「さっき事務所から連絡があって、クライアントと昼食を取ることになったんだ。案件の話があるから、今日は君たちだけで行ってくれ。僕は一度オフィスに戻らないと」聡は言った。「さっきはそんなこと言ってなかっただろう。今になって言い出すなんて」翼は返した。「いや、急に決まったんだよ。仕方ないだろ。結構重要なクライアントで、商業トラブルの案件なんだ」聡は尋ねた。「それで、事前に予約はなかったのか？」翼は返した。「僕たちの業界は、堂々たる柚木社長様と違って、会うのに予約が必須ってわけじゃないんだよ」それを聞いて聡も諦めるしかなく、電話は切れた。後方で、翼は前の車を見ながら、長いため息をついた。助かった……彼は分かれ道でハンドルを切り、一方、ベントレーの車内では——透子は、ベンツがそそくさと逃げていく様子を見て、親友に視線を送った。二人は顔を見合わせ、互いにしか分からない意味ありげな笑みを浮かべた。不意に、運転していた聡が尋ねた。「理恵、お前と翼の間に、この前何かあったのか？」理恵は一瞬固まり、それから何事もないかのような口調で返した。「別に何もないよ。会って、少し話しただけ」聡は信じなかった。本当にそうなら、翼の態度がどうしてあんなにおかしなものになるだろうか。前回もそうだった。わざわざ電話までしてきて、話し方まで不自然だ。聡は言った。「透子、君が言いなさい。理恵は君に話したはずだ」話を振られた透子は、背筋を伸ばして答えた。「理恵は私に何も言っていませんでした」聡は目を細めた。「妹といるとろくなことを覚えないな。嘘までつくようになったか。君はもともと正直な人だったのに」透子はまた言葉に詰まった。理恵は反発した。「お兄ちゃん、それどういう意味よ。何が私といるとろくなこと覚えない、よ。私が透子を悪い方向に引っ張ってるとでも言うの？」透子は真剣な面持ちで言った。「本当です、聡さん。嘘はついていません。理恵は本当に何も」聡は言った。「じゃあ、君のプライドに誓って言え」透子は返した。「……私のプライドにかけて、保証します」プライドを売るのと、友人を売るのとの二択なら、当然前者を選ぶ。たかが一言だ。別にどうってこと
