Share

第807話

Author: 小春日和
それを聞いた立花はしばし考え、「つまり、おまえの恋敵ってことか?冬城に嫉妬してるから、間接的にあいつが嫌いになったのか?」と言った。

「嫉妬?どこをどう見てそう思ったの?」

「でなければ、なぜあの女のせいで出雲を目の敵にする?」

立花の話がどんどん妙な方向に進んでいくのを感じ、真奈は頭が混乱したように言った。「とにかく浅井はいつも私に逆らってくるし、好きじゃない。それにあの女は元夫の愛人だった。敵の味方は敵ってことで、浅井と出雲を嫌うのは当然でしょ」

「友の敵は敵……か。おまえが俺に手を貸すなと言うなら、今回はおまえの顔を立ててやる」

「本当?」

「ああ、本当だ」

真奈は目の前の立花を疑わしげに見て尋ねた。「そんなに話がうまくいくもの?」

「どうした?信じられない?じゃあ今すぐあいつと融資の話をしてくるぞ」

「やめて!」

真奈は慌てて立花を呼び止めた。それを見て、立花は口元をわずかに吊り上げる。

自分が弄ばれたと気づき、真奈は立花をにらみつけた。「行きたいなら勝手に行けば?ただし、そのとき損しても私のせいにしないでよ!」

そう言って真奈はそのまま横になった。

立花もこれ以上からかうことはせず、「しっかり休め。忘れるな、今のおまえは俺の従業員だ」と告げた。

そのとき、外で桜井がちょうどドアを開けて入ってきた。立花が出ていこうとするのを見て、「ボス、医者を呼んでおきました」と言う。

「瀬川さんの傷を診てもらえ。今日は水に浸かったから、炎症を起こすかもしれない」

「承知しました、ボス」

立花はベッドに横たわる真奈を一度振り返り、「忘れるな、明日の朝までに勉強をテストするぞ」と言った。

立花が出ていくのを見届けると、真奈は傍らのクッションを掴み、勢いよくドアめがけて投げつけた。

「休めと言いながら資料を覚えろなんて、本当に頭がおかしい!」

桜井が医者を連れて入ってきて言った。「瀬川さん、ボスはあなたのためを思ってのことです。ボスがこんなに人を気遣うのを見るのは初めてです」

「気にしてるのは私じゃない」

今の立花の特別扱いは、新鮮さゆえの興味と、自分と黒澤の関係が理由だ。

立花は黒澤を宿敵と見なしており、その女に対しては本能的に攻撃的になる。

医者が真奈の前に歩み寄ったとき、その顔を見た真奈は一瞬呆然とした。

「……瀬川さん?
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第819話

    福本の言葉が終わるか終わらないうちに、外から大きな衝撃音が響いた。庭の外から十数人の黒澤家のボディガードが家の中に突入してくるのが見えた。こんな光景は初めての福本は、思わず立ち上がり声を震わせた。「あ、あなたたちは何者なの!何をするつもり!」ボディガードたちの服に縫い付けられた黒澤家の紋章を見て、白井の顔色はさらに険しくなった。「遼介……遼介が来たの……」白井は立ち上がり、黒澤を探しに出ようとしたが、扉から入ってきたのは黒澤ではなく幸江だった。幸江の姿を認め、白井は一瞬呆気に取られる。幸江は冷ややかな笑みを浮かべた。「白井さん、そんなに急いで飛び出すなんて……遼介を探しに行くつもり?」「遼介……遼介はなぜ来ていないの?」白井はなおも周囲を見回し、黒澤の姿を探そうとした。だが、この場にいるのは幸江と黒澤家のボディガードだけで、ほかには誰もいない。黒澤……来ていない!「遼介はあなたのそんな顔など見たくもないわ。今日から、彼はあなたの父親への約束を無効にすると言っていた。これからは亡き父親の名を利用して黒澤家に来て遼介を煩わせるのはやめなさい。さもないと、私は容赦しないから」幸江の声音は鋭く、白井は慌てて首を振った。「そんなはずがない……遼介が私にそんなことをするわけない……遼介は前に約束してくれたのに、遼介……」「もういい!白井、あなたが海城に来てから、遼介はずっと人を付けて面倒を見させてきた。でもあなただって、自分が何をしてきたか分かってるでしょう?他人に遼介の最愛の女だと誤解させたり、黒澤家のつながりを利用して芸能界のリソースを好き勝手に使ったり……そんなことは遼介も黙認してきた。けれど、真奈を傷つけることだけは許さない!」幸江は冷ややかに言い放った。「遼介があなたを好きになるはずがないだけじゃない。私も、祖父も、あなたを好まない。あなたが黒澤家の嫁になることなんて、絶対にあり得ないわ」その言葉に、福本はすぐさま立ち上がり、声を荒げた。「幸江!何様のつもり?あんたは幸江家の人間で、黒澤家のただの親戚じゃない!ここで威張り散らすのはやめなさい!」「そうね、私は幸江家の人間よ。でも、海城の幸江家を、あなたたちは敵に回せる?」その言葉と同時に、幸江の背後にいたボディガードたちが素早く動き、福本家の警備員た

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第818話

    真奈は問いかけた。「佐藤さん、遼介は今夜戻ってくるのですか?」「まだそのことを考えていますか?やめられなければ、あなたの人生はそこで終わりだとわかっています?」「乗り越えられます」その返事に、佐藤茂は苦笑を浮かべながらも、目は鋭さを増した。「立花は長年、麻薬の製造と密売で財を築き、それでどれだけの人間が破滅したと思っていますか?なぜ自分だけが乗り越えられると信じられますか?」「その覚悟がなければ、私は海城に戻らず、立花のもとへ直に戻っていたはずです」真奈は視線を落とし、静かに続けた。「それに、彼が私の腕に何かを注射したことは最初からわかっていました」立花に拉致されたあの夜、すでに自分が薬物を打たれたことを知っていた。立花が自分をそばに置き、あれほどの信頼を見せたのは、自分が離れられないと踏んでいたからだ。「立花は女を常に見下しています。この薬で私を縛りつけ、逆らえなくすると考えていたし、私が彼のもとを離れるはずがないと高をくくっていました。彼は、私がこの薬を断てるとは決して思っていないでしょう」先ほど佐藤茂でさえ、真奈が薬を断てるかどうかを疑っていたのだ。まして立花が信じるはずもない。佐藤茂は真奈の瞳に宿る揺るぎない決意を見つめ、やがて視線を外した。「佐藤家が最高の医療設備を用意します。この間はここに滞在し、どこにも出ないでください」「わかりました」真奈は即座に承諾し、それから探るように口を開く。「では……遼介は?」「黒澤のことは、私から話す」佐藤茂は黒澤の性格をよく知っていた。黒澤は身内を徹底的に守る男だ。このことを知れば、必ず感情を爆発させるに違いない。その言葉に、真奈は胸をなで下ろした。立花に注射された薬は希釈されており、あの日からおよそ一週間後に発作が出た。引き金は、あの朝に飲んだコーヒーだったに違いない。これから数か月耐え抜けば、問題はないはずだ。「佐藤さん、もう一つお願いがあります」「なんでしょう?」「私の名義で、私の口座から立花の麻薬を購入していただけませんか」彼女が麻薬を断とうとしていることは、絶対に立花に知られてはならない。今はこの方法しかなく、立花に「洛城の麻薬を買って依存を満たしている」と思い込ませるためだった。佐藤茂は、真奈の一言を聞いただけでその意図

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第817話

    「誰がやったのですか?立花?」佐藤茂の握る手首の力がさらに強まり、真奈は引き抜こうとしたが、その力に抗うことはできなかった。佐藤茂の次第に冷ややかさを増していく視線を見て、真奈は小さくうなずく。「佐藤さん……大したことじゃありません……」「大したことないですって?」佐藤茂は眉間に深い皺を刻み、真奈を射抜くように見つめた。「この危険さがわかっていないのですか?」わかっている――もちろんわかっている。だが、すでに事は起きてしまった。今はとにかく持ちこたえる方法を探すしかない。「立花には一度だけ注射されました。それに純度も高くないはずです」「もう発作は出たのですか?」一度でも薬物を注射されれば、それだけで中毒は始まる。純度が低くても、それは命取りになり得る。「……一度発作はありました。でも、まだ耐えられないほどではありません」「無茶すぎます!」佐藤茂は怒りをあらわにした。「こんな重大なこと、なぜすぐ私に知らせなかったんですか?」滅多に見ない佐藤茂の怒りに、真奈はすぐに手を引き、言葉を返した。「昨夜はただ疲れていただけで、心配をかけたくなかったんです。それに……遼介には知られたくありませんでした」黒澤がこのことを知れば、必ず立花に報復に向かうだろう。だが、洛城はあまりにも危険だ。立花に報復するとしても、事前の綿密な準備が欠かせない。無闇に踏み込めば、命に関わる危険が必ず待っているのだから。それを聞いて、佐藤茂はしばらく黙し、やがて傍らの青山に向かって言った。「青山、すぐに医者を呼べ。それと、この件は絶対に口外するな」「かしこまりました、旦那様」青山が出て行くのを見届けると、佐藤茂は真奈を見やり、低い声で言った。「上へ来てください」青山がいないので、真奈は佐藤茂の車椅子を押そうと手を伸ばした。しかし、彼は冷ややかに言い放つ。「瀬川さんの手は借りません」そう言って、佐藤茂は自ら車椅子を動かし、エレベーターへと入っていった。「佐藤さん、わざと隠していたわけじゃないんです。私はただ……」佐藤茂は淡々と言った。「もういい、説明は不要です。今夜、黒澤にどう説明するかを考えておいてください」佐藤茂は普段、どんな荒波にも動じない穏やかな性格だが、今回ばかりは真奈にもわかるほど、本気で怒っていた。客室

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第816話

    浅井の大言壮語など、真奈はこれっぽっちも信じていなかった。「では、田沼さんがその200億を用意してから、あの箱を受け取りに来てください」そう告げると、真奈は警備員に向かって「お客様をお送りして」と命じた。警備員が浅井の前に進み出て、「田沼様、お引き取り願います」と告げる。浅井は目の前の警備員を睨みつけ、怒りに任せて手を振り上げ、平手打ちを見舞った。「あなたごときが、私を追い出そうなんて!?」その様子に、真奈の瞳が鋭く冷えた。本来なら体調も優れず、これ以上浅井と関わるつもりはなかった。だが、さすがに度を越している。ちょうど真奈が階下へ降り、浅井に一泡吹かせてやろうとしたその時――佐藤茂の声が、不意に響き渡った。「青山(あおやま)、そいつの頬を叩け」「はい、旦那様」佐藤茂の背後に控えていた執事・青山が答えるや否や、前に出て浅井の頬を左右二発、鋭く打ち据えた。乾いた音が響き、浅井には反撃の暇もない。冬城家の護衛たちが前に出ようとしたが、その全員が青山の鮮やかな動きで瞬く間に制されてしまった。その腕前は、立花の側近である馬場をも凌ぐほどだった。青山は再び佐藤茂の背後へ下がり、車椅子を押して浅井の正面まで進む。浅井は佐藤茂の姿を目にし、思わず胸の奥が冷たくなるのを感じた。かつて彼女が佐藤泰一に濡れ衣を着せようとした時も、佐藤茂が現れて全てを収めたのだ。この男は、海城で最も恐れられている人物の一人だった。浅井は無理に口角を引き上げ、「佐藤さん……」と声をかける。佐藤茂は冷ややかに言い放った。「田沼さんが佐藤家の人間に手を出すということは、佐藤家に敵対するということだ」「佐藤さん……彼はただの警備員で……」「佐藤家の人間なら、たとえ警備員一人でも、他人に指一本触れさせはしない」浅井の言葉を遮り、佐藤茂はさらに冷たい声で告げた。「田沼さん、自分で出て行くか、それとも私の者に追い出されるか、どちらかを選びなさい」背後に控える青山は一目で手強さがわかる男だった。両頬の熱い痛みとともに、浅井の胸には屈辱が込み上げる。それでも最後は、悔しさを押し殺して立ち去るしかなかった。なぜ?なぜ自分はすでに名家のお嬢様であり、未来の冬城夫人でもあるのに、この人たちから一片の敬意すら得られないのか。なぜ真奈はすで

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第815話

    「へえ?」真奈は興味を引かれたように、二階の手すりにもたれかかり、頬杖をついて下を見やった。「田沼さんがおっしゃるその借金、何のことかしら?まったく心当たりがないのだけれど」「真奈、しらばっくれるんじゃないわよ!大奥様の箱がまだあなたの手元にあるでしょう?あなたはもう冬城夫人じゃない、その箱も返すべきよ!」浅井の高飛車な物言いに、真奈はふっと笑みを漏らした。冬城おばあさんと言われて、ようやく思い出す。以前、小林家を退けるために、冬城おばあさんは自分の私物を詰めた箱一つを200億の現金と引き換えに真奈へ渡し、抵当にしたのだった。浅井の口ぶりからすると、冬城おばあさんはこのことをまったく伝えず、ただ箱を取り返すよう浅井を寄こしたらしい。あの人は昔から変わらない。他人を利用し、駒のように扱う癖は今も健在だ。「その箱の中身、田沼さんはご存じないの?」と真奈が問いかける。「大奥様の物は何であれ一級品よ。中身が何であっても、今日は渡してもらうわ」浅井は、真奈が冬城夫人の立場を利用して冬城おばあさんの物を奪ったと決めつけていた。今は冬城と離婚したのだから、それを返すのが当然だと。真奈は唇をわずかに吊り上げた。「田沼さん、取り立てに来たならまず事情を確かめるべきね。本当にその箱が欲しいなら……あげてもいいわよ」浅井は鼻で笑い、「わかっているじゃない。あんたたち、上に行って箱を持ってきなさい!」と言い放った。「はい!」冬城家の護衛たちが動き出そうとした瞬間、真奈が口を開いた。「持って行ってもいいわよ。でもまず200億円の現金を用意して。それがあれば持って行って構わない」「……なに?200億?」浅井は固まった。200億なんて、そんな話は一度も聞いていない。真奈は眉をわずかに上げ、浅井が本当に何も知らないと見て取ると、ゆっくりと言った。「昔、大奥様が小林家のお嬢さんの名誉を傷つけてしまい、その賠償として200億を払うことになったの。でも大奥様には用意できず、この箱いっぱいの私物を抵当に私に渡したのよ。その200億は私が肩代わりして払ったわ。それに、大奥様とはきちんと書面で約束も交わしてある。200億の資金が用意できたら、この箱を返すとね。だから田沼さんがこうして取りに来たということは、その資金はもうあるの

  • 離婚協議の後、妻は電撃再婚した   第814話

    メイドは少し困ったように言った。「田沼さんで……ございます」「田沼……浅井みなみのこと?」「はい」この海城で、浅井と真奈、そして冬城の三人にまつわる噂を知らない者などいない。今や浅井は未来の冬城夫人としてここを訪ねてきた。明らかに善意で来たわけではない。「瀬川さん、警備員に口実を作ってお引き取り願いましょうか?」「いいわ」真奈は手にしていたおかゆを置き、「ロビーで待たせておいて。すぐに降りるから」と言った。「かしこまりました」メイドが下がると、真奈はゆったりとテーブルの上のお粥を一口ずつ口に運んだ。浅井が敵意を持って来たのなら、こちらも遠慮はしない。佐藤邸で浅井が騒ぎを起こす度胸などあるはずがない。その頃、ロビーでは浅井が冬城グループの護衛を引き連れて、佐藤邸へ入ってきた。彼女の目は一瞬、鋭く輝いた。冬城家も十分に豪奢だと思っていたが、佐藤邸がこれほどまでに広大な荘園だとは想像もしなかった。都心の真ん中で、この規模の荘園など天文学的な金額でも手に入らないだろう。真奈……なんて運のいい女だ。「田沼さん、瀬川さんがおっしゃるには、こちらで少々お待ちいただきたいとのことです。すぐにお越しになります」メイドは丁寧に告げたが、浅井は構わずソファに腰を下ろし、まるで自分が上の立場であるかのように振る舞った。「わかったわ。私の時間は貴重なの。急いでもらって」その無礼な態度に、メイドはわずかに眉をひそめた。浅井が今は冬城家の未来の夫人だとしても、ここは佐藤邸だ。決して軽んじられるような場所ではない。冬城でさえも礼を尽くすべき場所で、浅井は言葉の端々まで高慢さを漂わせていた。「何をぼんやりしているの?早く行きなさいよ」浅井は完全に上から目線の態度だった。いまは冬城おばあさんの命を受けて取り立てに来ているのだから、破産した瀬川家の令嬢に遠慮する理由などない。ここが佐藤家であり、自分が勝手に振る舞える場所ではないことなど、すっかり頭から抜け落ちていた。メイドが去ると、浅井はリビングで腰を下ろして待った。1時間……2時間……3時間目には、さすがに尻が痛くなってきたが、それでも真奈の姿は現れなかった。前を通るメイドさえ一人もいない。ついに浅井は怒りをあらわに立ち上がり、声を

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status