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第7話

Author: 九ノ瀬
あの日以来、楓はほとんど自室に引きこもるようになった。

そんなある日の夕食の時。突然、結衣が腹痛を訴え、真っ青な顔をして弘樹の腕の中で倒れたのだ。

「どうしたんだ?」弘樹は動転し、すぐにかかりつけの医師を呼んだ。

診察を終えた医師は深刻な顔つきで言った。「毒物ですね」

屋敷内が一瞬で騒然となる。

使用人たちは怯えながら控え、執事は夕食の調理過程について尋問を始めていた。

「私、見たんです……」一人の若い使用人が震えながら口を開く。「石田さんがスープに何かを……」

弘樹の眼光が冷たく凍りついた。

彼は大股で楓に歩み寄ると、楓の手首を骨が砕けそうなほどの力で掴んだ。「あのヒスイの置物のことがあったから、結衣を殺そうというのか?楓、どうしてこんな人間になってしまったんだよ?」

楓は弘樹を見上げて、静かに言う。「私じゃない」

「まだ言い訳を?」弘樹は冷酷に言い放つと、使用人に命じた。「残ったスープを持ってこい」

楓は目を大きく見開いた。「何するの?」

「身をもって知れ」弘樹は楓の顎を掴み、氷のように低い声で言った。「やっていいことと悪いことを叩き込んでやる」

持ってきたスープは、弘樹の合図で強引に楓の口へ流し込まれた。

二人のボディーガードにしっかりと押さえつけられていたので、抵抗など無駄だった。

喉に注ぎ込まれた熱いスープで、楓はひどくせき込む。

毒の効果はすぐに現れた。

楓は激痛で床に這いつくばる。背中には冷や汗がびっしょりと浮かび、身体を丸めて震えながらも、楓は頑なに口を動かした。「私は毒なんか盛ってない……」

しかし、弘樹は楓を一切振り返りもしない。ベッドサイドで結衣に付き添い、丁寧に水を飲ませ、額の汗を拭いてやっている。その目は、底なしの優しさに満ちていた。

「弘樹……」結衣は弱々しく弘樹の手を握る。「石田さんのことを……」

「あいつなんかどうでもいい」弘樹は優しくなだめた。「お前はゆっくり休め」

遠のく意識の中、楓はひどい痛みで目の前が暗くなっていく。最後は、乱暴に救急車へと運び込まれた記憶だけが残った。

一晩中、病院のベッドにいたが、誰一人として面会に来ることはなかった。

翌日戻った屋敷は、ひっそりと静まり返っていた。

すると、スマホに結衣から一枚の写真が送られてきた。

どこまでも広がる海を背に、弘樹が結衣の腰に手を回し、カメラに向かって眩しいほどの笑みを向けている。

【気分転換に海に連れてきてくれたんだ。驚かせてしまったから、ゆっくりしろって】そんなメッセージも添えられていた。

楓は静かに画面を閉じると、荷造りを始めた。

スーツケースに手をかけた瞬間、ここには3年間もいたのに、自分のものがかなり少ないことに気づく。

24インチのスーツケース一つで、自分のものはすべて収まってしまった。

もとより、ここに自分の居場所などなかったようだ。

まあ、弘樹の心の中に入り込んだことさえ、一度もなかったのだから、当然といったら当然かもしれない。

「自分が間違ってたって認めるか?」

その時、突然後ろから弘樹の声がした。振り返ると、スーツ姿の彼が入り口に立ち、険しい表情でこちらを見下ろしていた。

「うん、私が間違ってた」楓は静かに答える。

あなたを好きになったのが間違いだった。

あなたにこんなにも長く、執着したのが間違いだった。

弘樹の表情がわずかに和らぐ。「分かればいいんだよ。早く着替えろ。パーティーに行くぞ」

「パーティー?」楓はきょとんとした。

「今日が俺の誕生日だということも忘れたのか?」弘樹はますます眉を寄せた。忘れているなどありえないと言いたげな、呆れ混じりの口調だった。

そうだ、今日は弘樹の誕生日だ。

いつもなら、ケーキを用意し、贈り物を吟味し、手配のすべてを完璧にこなしていたはずだった。

彼の好みも、苦手な飾りつけも、毎年何を願っていたかも、すべて知っていたから。

それなのに、まさか忘れていたとは……

「先に行ってて」楓の声は聞こえないほど、小さかった。「着替えて、プレゼントを持ったら行くから」

「弘樹!」下から甘えたような結衣の声もした。「みんな待ってるよ!」

弘樹は頷くと、最後に楓をチラリと見て言った。「早くこいよ」

そう言い残し、くるりと背を向けて去っていった。足音も、次第に遠ざかっていく。

楓は一人立ち尽くし、彼の後ろ姿を見送りながら、自嘲気味に口角を上げた。

弘樹。今年の誕生日プレゼントは、私があなたの世界から完全に消えること……

結衣とお幸せに。私も私自身を解放するから。

楓はまとめていたスーツケースを持ち、3年間過ごしたこの場所を最後に見渡すと、振り返ることなく歩き出した。

賑わう空港の搭乗口で、最後のメッセージを弘樹に送る。

【弘樹。私もう行くね。松本さんと末長くお幸せに】

そしてスマホの電源を切り、楓は搭乗口へと向かった。

3年間の片想いも、これでもうお終い。

これからは別々の道へ。もう二度と、交わることはないのだ。
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