Se connecterスマホの写真を見た瞬間、翼ははっと息を飲んだ。「な……なんで君が佳奈ちゃんの写真を!?」次の瞬間、翼は言い間違えたことに気づいたのか、慌てて弁解を始めた。「凛菜、聞いてくれ、説明させて。君が考えているようなことじゃないんだ。佳奈ちゃんは、子供の頃の心残りみたいなもので、もうとっくに終わったことなんだ。今は、本当に君だけを愛してる」でも、翼の薄っぺらい言い訳を聞きながらも、私はただ彼を見つめて、静かに問いかけた。「じゃあ、誓える?私と付き合い始めた時から一度も、その人の替え玉として見ていなかったって」翼は口を開いたけど、一言も発することができなかった。私は冷たい笑みを浮かべながら、首を横に振った。「翼、自分の悲劇に酔うのはやめて。私たちの関係は、最初から間違いだったの。それに、私は誰かの替え玉にも、誰かの付属品にもなりたくないの。それと……これ以上つきまとうなら、警察を呼ぶから」そう言って、私は翼の手にある指輪には目もくれず、振り返らずにその場を去った。翼は、その場にひざまずき、指輪を見つめながら声を上げて泣いていた。彼は分かっていた。これが最後の別れで、もう二度と私に指輪をはめて、よりを戻すチャンスはないのだと。……その後、翼は私の世界から完全に姿を消した。そして私も少しずつ彼のことを忘れ、過去を乗り越えて、自分の仕事に集中していった。それから3年も経たないうちに、私はリバティニア市で知らない人はいないほどの敏腕弁護士になった。そしてイーサンのサポートもあって、自分の事務所を立ち上げた。開業の日にはたくさんの知り合いがお祝いに駆けつけてくれた。依頼したいというクライアントの予約は、来年まで埋まっている。そんな中で、私は梓から、翼の近況を聞くことになった。今の翼は、弁護士資格を剥奪されて、もうすぐ刑務所に入ることになるらしい。例の黒崎グループの契約違反のせいで、翼は多額の借金を背負ったみたい。その返済のために、彼は危険な橋を渡ることにした。弁護士としての職業倫理もプライドも完全に捨てて、悪徳企業の片棒を担ぐことで、違法すれすれのグレーな利益を得ていたそうだ。でも、皮肉なことに、日和に告発されて、警察に全部バレてしまった。まさに関係者全員が一網打尽にされたってわけ。それも
ちょうどその頃。私は事務所の仕事を終えて、家に帰るところだった。ここ1ヶ月、翼に邪魔されなくなってから、仕事は絶好調。担当した訴訟にも、立て続けに勝つことができた。今夜は美味しいものでも食べて、がんばった自分を労おう。そう思って食材を買って、家に帰る途中だった。でもその時、後ろから聞き覚えのある声がした。「凛菜……」振り向かなくても、分かった。翼の声だ。でも私は振り向かなかったし、足を止めることもしなかった。もう翼とは関わりたくない。ただ、平穏に自分の人生を歩みたいだけだ。私が足早に立ち去ろうとすると、翼は追いかけてきて、私の目の前に立ちはだかった。「凛菜、まだ俺のこと、怒ってるんだろ?俺が悪かった、本当にすまない。日和の妊娠は嘘だったし、親から暴力を振るわれているというのも全部嘘だった。それに、事務所で君を陥れようとしていた件も、すべて調べ上げたんだ。証拠を全部そろえて、日和を警察に突き出したんだ、凛菜。もう一度俺を信じて、一緒に帰ってきてくれないか?今度は絶対に悲しい思いはさせないって約束する。これからは、君だけに尽くすから!」目の前の翼は、以前のような威圧的な態度はなく、むしろ目を真っ赤に腫らしていた。まるで、悪いことをした子供みたいだ。でも、私の心は少しも動かなかった。今さら謝られても、古傷をえぐられるだけで、何の意味もない。それに、私の幸せは誰かに頼る必要なんてない。我に返った私は、落ち着いた表情で翼を見つめた。「だから何?もし杉本さんの妊娠が本当で、その両親も本当に彼女を殴るような人たちだったら?それでもあなたは杉本さんを追い出して、警察に突き出すなんてことができたの?」翼は、すぐに黙り込んでしまった。その反応を見て、私は冷たく笑うと、その場を立ち去ろうとした。でも次の瞬間、翼は突然私の目の前でひざまずき、ポケットから指輪を取り出した。「凛菜、俺はたくさんの過ちを犯した。君を深く傷つけたことも、認める。でも、本気で愛してるんだ。俺が生涯で愛する人は、君だけだ。もう一度やり直してくれるなら、なんだってする。この命を差し出したっていい!」翼の口ぶりは真剣で、いかにも愛情深そうな様子だった。でも、彼がそうすればするほど、私は気持ち悪くなるだけだった。
叩きつけられた書類で、日和の頬はじんじんと痛んだ。でも、そんなことにかまっている場合じゃない。彼女の目は、その中の一枚の検査報告書に釘付けになっていた。それは、自分の血液検査の結果だった。そこにははっきりと、妊娠していないと書かれていた。その瞬間、日和はすべてがバレてしまったのだと悟った。「翼さん……違うの、聞いて!」次の瞬間、日和はどさりとその場にひざまずいた。そして、翼の足に必死にしがみつき、声にならないほど泣いた。「わざとじゃないの……ただ、あなたのことが好きすぎただけなの!あなたを失うのが怖くて、あなたが高橋先生のそばから離れないんじゃないかって不安で。だから、こんなバカなことを!高橋先生に嫉妬してたの!7年もあなたの隣にいられた彼女が羨ましかった!ただ、あなたを彼女から奪いたかっただけなのよ!お願い、今回だけは許して!私たちの今までのことを考えて……」「今までのこと、だって?」翼は、とんでもない冗談を聞いたかのように鼻で笑った。そして、日和を蹴り飛ばすと、汚いものでもついたかのようにズボンの裾を払った。「君みたいな女が、好きだなんて口にするな。君の言う好きっていうのは、嘘で人を陥れることか?俺を馬鹿みたいに騙すことか?」翼はしゃがみ込み、日和の顎をぐっと掴んだ。その目には殺意に満ちていた。「日和、俺が人生で一番後悔してることはなんだか分かるか?君みたいなクズのために、一番大事なものを失ってしまったことだよ。最初は、君を事務所から追い出して、この江川市から消えさせればいいと思ってた。だが、気が変わった」そう言うと、翼は立ち上がり、スマホを取り出した。そして、みんなの前で警察に通報した。「もしもし、警察ですか?事件です。公文書偽造、業務上横領、そして詐欺。被害額は相当なものです。証拠はすべて揃っています。犯人は今、西区のカラオケにいます」その言葉を聞いて、日和はぐにゃりと床に崩れ落ちた。顔は真っ青で、泣くことさえ忘れていた。翼が本気なのは、痛いほど分かった。トップクラスの弁護士である翼なら、自分を一生刑務所から出られないようにする方法なんて、いくらでもあるのだから。周りにいた仲間たちは、翼が入ってきた瞬間から、とっくに部屋の隅に固まっていた。巻き添えを食うの
翼はマウスを握りしめ、信じがたいという表情を浮かべた。凛菜が、こんなにも辛い思いをしていたなんて。それにひきかえ、自分は何をしたんだ?凛菜が一番自分を信じてほしかった時に、自分は何度も加害者の側に立った。そうやって、他人と一緒に妻の心をナイフで突き刺していたんだ。「本当に、死んで当然の男だ」翼は力一杯、自分の頬を殴りつけた。だが、頬の痛みなど、胸の痛みの百分の一にも満たなかった。次の瞬間、探偵から日和の現在地情報が送られてきて、それを見た翼の目に、冷たい光が宿った。一人の弁護士として。そして、凛菜の夫としても、彼女のために、この手で落とし前をつけさせてやる。……同じ頃、個室の888号室では。日和は、体のラインがくっきり出るキャミワンピを着ていた。指には細いタバコ、手にはウィスキーグラス。悪友たちと顔を真っ赤にして飲んでいて、妊娠しているとは到底思えない姿だった。「日和、マジですごいじゃないか?あの渡辺先生、マジでお前の思い通りなんだ?」仲間の一人である金髪の男が、驚いたように言った。「当たり前でしょ!」日和は煙を吐き出すと、得意げにグラスを揺らした。「弁護士とか言っても、本当はバカよ。彼の元妻が出て行った時、どんなにみじめな姿だったか、あなたたちも知らないでしょ!ブスのくせに、私と張り合おうだなんて、笑えるわよね!」周りにいた仲間たちが、どっと笑った。「でもさ、もし渡辺先生にバレたらどうすんの?妊娠って、嘘なんだろ?」「平気よ」日和は、くだらないといった風に口を曲げて言った。「あのバカ、今や私の言いなりなんだから。あと2ヶ月もすれば、適当なところでわざと転んでやるわ。それを事務所の誰かのせいにして、高橋先生がその人にやらせたってことにすればいいのよ。そうなれば、堂々と流産できるだけじゃない。翼さんに私をもっと可哀想だと思わせられるし、罪悪感を植え付けられるわ!そしたら、彼の妻の座は、私の……」日和が言い終わる前に、次の瞬間、個室の重いドアが蹴り開けられた。「誰よ騒がしい!こっちが飲んでるのが見えないわけ?」日和はイラついた様子で立ち上がった。しかし次の瞬間、目に映ったのは、ドアの前に立つ翼の姿だった。彼は黒いコートを羽織り、その目には冷たい怒り
日和は妊娠していなかった?医師の言葉を聞いて、翼は頭が真っ白になった。「まあまあ、先生。そこをなんとかお願いしますよ!」診察室では、日和がまだしつこく食い下がっていた。その口ぶりは、悪びれる様子もなく軽々しい。「なにも悪いことをするわけじゃないんです。ただ、彼氏と結婚したいだけなんですよ。彼の元妻はもういなくなったし、あと数ヶ月彼を騙し通して、うっかり流産しちゃったって言えばいいだけです。誰にもバレませんって!お願いしますってば。私のこれからの人生がかかってるんですから!」翼は、ぐっと拳を握りしめた。これが、真実だったのか?クズ男に捨てられた未婚の妊婦なんて話も、親に勘当されるなんて境遇も、全部嘘っぱちだった。最初から最後まで、すべてが芝居だったのだ。日和が、凛菜を追い出してその座に収まるために、周到に仕組んだ真っ赤な嘘だった。それなのに、トップクラスの弁護士である自分が……まるで馬鹿みたいに、こんな女の手のひらの上で転がされていたとは。存在しない子供のために、7年も連れ添った妻を捨てた。嘘ばかりつくこの女のために、自らの手で家庭を壊してしまったのだ。それもついこの間、この嘘のせいで、凛菜を遠い異国の地へと追いやってしまったばかりだというのに。翼は病院の廊下にもたれかかり、声もなく笑った。しかし笑っているうちに、涙がこぼれ落ちてきた。それは骨の髄まで凍りつくような後悔と、自らの愚かさに対する激しい憎しみだった。だが、翼は診察室に乗り込んで日和の嘘を暴いたりせず、静かに病院を後にしてある番号に電話をかけた。以前、裁判で世話になった私立探偵だ。仕事が早く、これまでにも何度も助けられていた。「一人、調べてほしい人がいます。名前は杉本日和です。子供の頃からの全ての経歴を。学歴、職歴、交友関係、それに……うちの事務所でやってきたこと全部です。お金はいくらかかってもいいので、今夜中に結果を教えてください」そう言うと、翼は電話を切った。その目からはかつての優しさは消え失せ、冷たい光だけが宿っていた。……3時間後。分厚い調査報告書が、メールに届いた。翼は急いで事務所に戻り、報告書に目を通し始めた。しかし、一行読むごとに、体中の震えが止まらなくなっていった。日和
事務所に戻った翼は、自分をごまかすため、またがむしゃらに残業するようになった。しかし今回は、凛菜のサポートがない。そのため、どの案件もひどく手こずるようになった。細かいところの確認から、書類の誤字脱字の修正まで、すべて自分でやらなければならなかった。これまで簡単に出せていたはずの成果が、今では何倍もの労力をかけないと出せなくなっていた。深夜11時。事務所はしんと静まり返っていて、翼のオフィスの明かりだけが煌々と灯っていた。すると突然、激しい動悸に襲われた。冷や汗が流れ、息をするのも苦しい。がむしゃらに仕事をして一度患った病気が、後遺症として残っていた。「凛菜、薬を取ってくれ……」翼は胸を押さえ、青白い顔でそばに手を伸ばした。以前は残業中に胸が苦しくなると、いつも凛菜がすぐに気づいてくれた。そして薬を口元まで運んでくれ、温かい手のひらで胸をさすってくれたものだった。でも今回は、死んだような静けさが返ってくるだけだった。翼はがらんとしたオフィスを見つめ、苦々しい笑みを浮かべた。また忘れていた。凛菜はもう自分のそばにはいないのだと。凛菜は今頃、リバティニア市の大きな家でアフタヌーンティーでも飲みながら、自分から解放された自由な生活を楽しんでいるのだろう。翼は痛む体に鞭を打ち、そばの棚から薬瓶を探した。でも、どれも空っぽだった。予備の薬は全部、以前凛菜が定期的に補充してくれていたものだった。凛菜がいなくなって、そういう細やかな気遣いもなくなった。「本当に自業自得だな」翼は自分を嘲るようにつぶやくと、ふらつきながらオフィスを飛び出し、病院へと向かった。すぐに翼は救急外来で診てもらい、新しく薬を処方してもらった。薬を飲むと、胸を締め付けられるような痛みは少し和らいだ。病院のロビーの隅に一人で座っていると、これまでにないほどの寂しさが込み上げてきた。以前、病気になった時は、いつも凛菜がそばにいてくれた。水を飲ませてくれ、リンゴをむいてくれ、愚痴を聞いてくれた。今、聞こえるのは自分の重苦しい鼓動だけだ。その時、近くの診察室から言い争うような声が聞こえてきた。「先生、お願いです、助けてください!お金ならいくらでも払いますから!妊娠証明書さえ発行していただければ、お礼はい