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第22章:近づく影2

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2026-10-08 08:26:41

あの後輩とふたたび顔を合わせたのは、三日後の昼休みだった。中庭へ向かう廊下の先、奏が彼と並んで歩いているのが廊下の窓から見えた。俺が声をかけるより先に、ふたりの笑い声が耳に届く。奏があんなふうに、肩の力を抜いて笑うのはすごく珍しい。

急いで廊下を歩き、奏と待ち合わせしている中庭のベンチに向かう。

「……悪い、待たせた。寒くなかったか?」

後ろから声をかけると奏がぱっと振り返り、後輩も俺に気づいて軽く頭を下げた。

「氷室先輩とご一緒する予定だったんですね。こんにちは」

「ああ……」

形式的な挨拶を交わす間、後輩の手には二つの缶コーヒーが握られている。

「奏先輩、これ。さっき言ってたユウがオススメしている期間限定の商品、コンビニで見つけたんですよ。どうぞ!」

「ありがとう、遠慮なく貰うね」

差し出された缶を受け取る奏の顔が、ふわっと綻ぶ。その表情に、胸の奥がチリチリと熱を帯びた。

「加藤くん、放課後また委員会で」

「はい、いろいろ教えてください!」

後輩は笑顔のまま走り去った。残された俺と奏は、いつもどおりベンチに並んで座る。

――いつもどおりのハズ……なのに。

「…
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  • BL小説短編集   第22章:近づく影2

    あの後輩とふたたび顔を合わせたのは、三日後の昼休みだった。中庭へ向かう廊下の先、奏が彼と並んで歩いているのが廊下の窓から見えた。俺が声をかけるより先に、ふたりの笑い声が耳に届く。奏があんなふうに、肩の力を抜いて笑うのはすごく珍しい。 急いで廊下を歩き、奏と待ち合わせしている中庭のベンチに向かう。「……悪い、待たせた。寒くなかったか?」 後ろから声をかけると奏がぱっと振り返り、後輩も俺に気づいて軽く頭を下げた。「氷室先輩とご一緒する予定だったんですね。こんにちは」 「ああ……」 形式的な挨拶を交わす間、後輩の手には二つの缶コーヒーが握られている。「奏先輩、これ。さっき言ってたユウがオススメしている期間限定の商品、コンビニで見つけたんですよ。どうぞ!」 「ありがとう、遠慮なく貰うね」 差し出された缶を受け取る奏の顔が、ふわっと綻ぶ。その表情に、胸の奥がチリチリと熱を帯びた。「加藤くん、放課後また委員会で」 「はい、いろいろ教えてください!」 後輩は笑顔のまま走り去った。残された俺と奏は、いつもどおりベンチに並んで座る。 ――いつもどおりのハズ……なのに。「……さっきのヤツ、よく気がつくな」 「ん? ああ、加藤くん、細かいところをよく見てるから。結構、気配り上手なんだ。俺も見習わないとなぁ」 奏は何気なく言っただけかもしれない。だが、その「気配り上手」という響きが、妙に胸の奥で重く沈んだ。 奏は缶コーヒーのプルタブを開け、美味しそうに口をつける。「さすが期間限定品。コーヒー飲料とは思えないコクがある」 「そうか……」 「蓮も飲んでみる?」 ひょいと手渡された缶コーヒー。そのままこれを飲めば、奏と間接キスになる。「あの……俺がこれに口をつけたら、その……間接キスすることになるが、奏はそれでもいいのか?」 語尾にいくほど、早口になってしまった。「やっ、あ、ごめん。全然気にしてなかった。普段から結構、友達と回し飲みしていたせいで」 「そうなのか……」 内心落ち込みかけたところで、奏は頬をかきながら小さく告げる。「蓮と間接キスできるなら、俺は嬉しいよ」 「えっ?」 「だって、蓮は俺の好きな人なわけだし、ね――」 目の下をほんのり染めて言われると、俺まで顔が熱くなる。「じゃあ……いただきます」 一口飲むが、胸の鼓動

  • BL小説短編集   第22章:近づく影

    放課後の校庭は、部活帰りの声とボールの音で賑やかだった。生徒会の仕事がない日だったので、奏と待ち合わせすることなく昇降口を出て、いつものように並んで歩き出す。 夕陽のオレンジ色に染まる歩道を並んで歩きながら、その小さな棘がやがてなにかもっと大きなものに変わる予感を振り払えずにいたそのとき、背後からやけに明るい声が飛んできた。「奏先輩!」 振り返ると、短く髪を整えた男子生徒が全力で駆け寄ってくる。まだ幼さの残る顔立ちで、制服の袖からのぞく手首は細い。「やっぱり奏先輩だ! 昨日言ってた本、持ってきたんですよ」 息を弾ませながら差し出したのは、文庫本一冊。表紙には海外文学のタイトル。「ああ、ありがとう。わざわざ探してくれたんだ」 「奏先輩が好きって言ってた作家、俺も気になって読んでみたら、見事にハマっちゃって……一緒に感想を語りたいなって」 無邪気な笑顔に、奏も自然と笑みを返す。その笑顔は間近で見ても、俺にはまだ見せてもらったことのない種類の、柔らかくてほどけたものだった。「加藤くん、じゃあまた来週の放課後に、委員会で!」 「はい! 楽しみにしてます!」 後輩は俺の存在など視界に入っていないかのように、奏とだけ会話を終えると軽く会釈して去って行った。 取り残された俺は、足元の影を踏みつけるようにして歩き出す。胸の奥で、ぬるい水がじわじわと満ちていくような感覚が広がっていた。「……奏、あの加藤ってヤツ、君とよく話すのか?」 「ん? うん、そうだね。委員会で顔を合わせるし、本の趣味も合うから……話しやすくていいヤツだよ」 悪気のない声に、心臓がざわりと波立った。俺の知らないところで、奏が誰かと笑い合っている。その事実が、想像以上に刺さる。(本の話? 感想を語り合いたい? ……そんなの、俺だって――) 胸の奥で、言葉にならない焦りがじわじわと膨らんでいく。奏の「いいヤツだよ」という無邪気なひと言さえ、耳の奥で何度もこだまして棘に変わった。

  • BL小説短編集   第21章:向き合う気持ち2

    数日後の昼休み、俺と奏は中庭のベンチで弁当を広げていた。秋の終わりだが、日当たりがよくて暖かさを感じていたこともあり、外でも寒さを感じにくかった。仲良く並んでいる今の俺たちは、あの日のすれ違いなんて最初からなかったかのよう。「蓮、この卵焼き、昨日もらったものより甘い」 楽しげに喋る俺たちに向かって、校舎の影が長く伸びる。綺麗な色をした紅葉の葉が一枚、風にさらわれて足元に舞い落ちた。「味が変わったのか? 気がつかなかった」 「蓮のお母さんが、砂糖を多めに入れて作ったんじゃないかな」 そんなありふれた会話が、ただ心地よく耳に響く。手を伸ばせばすぐそこに奏がいて、その存在をちゃんと感じられる――それだけで充分だった。 どこからか見られている視線を感じて、何気なく顔を上げる。校舎の窓の向こうに見えた影は、俺たちを凝視しているように動かなかった――ほんの一瞬だったのに、冷や汗が滲む。肩の形も立ち方も、見覚えのない男子生徒だった。けれど目を凝らしたときには、もう誰もいなかった。(……気のせいか?) そう思って、ふたたび箸を動かす。でも胸の奥に、指先で紙を擦ったときのような細かいざらつきが残った。 放課後、校門を出たときも同じだった。歩道の向こう側に、一瞬だけ背中が見えた気がして目を凝らしたが、そこには通りすがりの人波しかない。 誰もいないはずの背後に、足音だけがまとわりつくような錯覚。首筋の産毛が逆立ち、冷気が這い上がってくる。なにも起きていないはずなのに、皮膚のすぐ下を冷たいものが這う感覚がどうしても消えなかった。(まさか、神崎じゃないよな……? いや、考えすぎだ) そう打ち消しても、不安は種のように胸の奥で芽を出し続けた。「蓮、どうしたの? なにか気になることがあるのかな」 「いや……神崎のことがあってから、変に神経質になっているのかもしれない。実際、なにもないし」 普段の学校生活では奏と別々のクラスで、互いに行き来しなければ同じ時間を共有することができない。しかも俺は生徒会の仕事も抱えている関係で、毎回一緒に帰れる保証はなかった。(こうして奏と喋ることのできる貴重な時間を、くだらないことで潰したくない。それなのになんだろう。言い知れぬ不安を拭うことができないのは) 夕焼けに染まる空の下で、その小さなざわめきは音もなく膨らんでいった。

  • BL小説短編集   第21章:向き合う気持ち

    *** 神崎の声が背後に遠ざかっても、耳の奥にはまだ残響がこびりついていた。「くだらない」なんて自分から吐き捨てたくせに、胸の奥ではそのひと言で針が刺さったみたいに疼いてしまう。 奏の手を握る指先が、無意識に強くなった。「蓮……痛い」 小さく言われたことで、慌てて力を緩めた。(――俺はいったい、なにをしてるんだ) 歩道を並んで歩きながらも、視線は前だけに向けたまま。隣にいるはずの奏が、なぜか遠くに感じられる。冬の匂いを帯びた風が間をすり抜けていくたびに、その距離が目に見えない形で広がっていくようだった。 頭の中では、必死に言い聞かせる。(神崎がなにを知っていようと関係ない。俺の隣に奏がいれば、それでいいじゃないか) ――けれど、そのたびにあの「全部か?」が蘇り、不安は色濃くなっていく。「蓮、本当に大丈夫? さっきから顔が……」 「大丈夫じゃない」 言葉がこぼれた瞬間、奏が目を何度も瞬かせる。その顔を見たら、もう止められなかった。「神崎が奏のなにを知ってるかなんて、実際どうでもいい……そう思いたいのに、どうしても引っかかる。奏が俺に話をしてないことがあるんじゃないかって勝手に想像して、胸がざわつくんだ」 自然と呼吸が浅くなる。爪が手のひらに食い込む勢いで、拳を握り締めた。「もし神崎の言葉に、一片でも真実があったなら――俺は、胸の奥を素手で握り潰されるみたいに、どうしても耐えられない」 吐き出した瞬間、冷えた空気が肺に刺さった。自分の弱さを、奏に晒すつもりなんてなかったのに。 奏は驚いた表情のまま視線を落とし、やがて静かに名前を呼んだ。「……蓮」 その声は責めるでも慰めるでもなく、やけにまっすぐで。逆に胸の奥が締めつけられる。「そんなふうに思わせて、ごめんね」 そして、目を逸らさずに続ける。「全部話せって言われたら……すぐにはできない。でも、隠したいわけじゃない」 奏は一度口を開きかけて、言葉を飲み込んだ。沈黙が重く垂れこめる。やっと絞り出すように、かすかな声で言った。「ただ怖いんだ……言ったら、蓮が離れていくんじゃないかって」 呼吸が止まる。離れる? 俺が? そんなこと――。けれど奏の瞳は、本気でそう信じている色を滲ませていた。(俺の不安と奏の恐れ。形は違っても、根は同じなんだ……) 胸の奥の苛立ちが、ゆっくりと

  • BL小説短編集   第20章:すれ違う気持ち3

    午前中の授業は、ほとんど頭に入らなかった。黒板を写しているはずなのに、ノートの文字は妙に歪んでいる。 気づけば背後にある隣のクラスに、意識を飛ばしてしまった。(蓮は今、どんな気持ちで授業を受けているのだろう。彼は取り繕うのがうまいから、俺みたいに落ち着きをなくさないで、きっとノートもキレイに取っているはず――それでも俺と話すまでは、心中穏やかでいられないに違いない) 昼休みのチャイムが鳴る。林田に呼びかけられたが「ごめん、用事ある」とだけ言って、足早に廊下へ出た。廊下を歩く足音がやけに大きく響いて、胸の鼓動と混じり合う。手のひらはじっとり汗ばんで、握ったままの弁当袋が滑り落ちそうだった。 隣のクラスに入り、氷室に視線を飛ばす。まだ机の上に弁当は出していなかった。彼は俺に気づき、少し驚いたように目を上げる。「ここで一緒に……いい?」 急いで近づいてかけた声が、思っていたより小さいものになってしまった。「ああ」 向かい合うと、教室のざわめきが遠のく。辺りに漂う昼の匂い――弁当の温かい香りや、机に反射する光までやけに鮮明に感じられた。「蓮あのね、昨日はごめん。蓮を困らせた気がして」 そのひと言で、俺を見つめる瞳が微かに揺れた。俺が謝ったことで、氷室の肩の力がほんの少しだけ抜けたのがわかる。「……困らせたのは、大きな声を出した俺のほうだ」 低く落ちる声。視線は机の上に落ちたままだった。「昨日、奏に言いたいことが他にもあった。でも……うまく言葉にならなかった」 胸が跳ねる。答えが近づいている予感に、無意識に前のめりになった。 沈黙――時計の秒針と、教室の笑い声がやけに遠くで混じり合う。「……奏」 静かな口調で名前を呼ばれ、俺はそっと頷く。「俺は、おまえを信じてる。けど――」 氷室は唇を噛み、まぶたを伏せる。そこから続く言葉を待つ数秒が、永遠にも思えた。教室のざわめきが遠のき、心臓の音だけが耳を塞ぐ。 俺から言葉を促すと、彼は短く息をはいた。「神崎の言葉が……まだ頭から離れない」 小さな声なのに、まっすぐ胸に落ちてくる。やっぱり、あの日の影はまだ消えていなかった。「蓮……」 俺が言葉を探すより早く、氷室がほほ笑んだ。けれどそれは、痛みを隠すための笑顔だった。「変だよな。俺らのことは俺らが一番わかってるはずなのに……神崎のあん

  • BL小説短編集   第20章:すれ違う気持ち2

    いつものように氷室に見送られ、自宅に到着。部屋の灯りをつけた瞬間、見慣れた景色がやけに白々しく目に映った。机に置いたスクールバッグが、軽い音を立てて沈む。その中には、今日一日の重さが全部詰まっている気がした。 制服のままベッドに腰を下ろし、スマホを手に取る。メッセージアプリに、氷室からの連絡はない。送ろうと思えば俺からすぐに送れるのに、指は画面の上で固まったままだった。(蓮のあの顔……忘れられない) 用事があると言っていたのに、急いで駆けつけてくれた氷室の顔。神崎の言葉を聞いたときの彼の瞳。怒りというより、必死になにかを押し殺していた色が宿っていた――それが頭に焼き付いて離れない。 俺は氷室にとって、安心できる存在でいたい。ドジばかりの自分でも、氷室が不安に沈んだら真っ先に手を差し伸べられる、しっかりした存在でありたかった。 だけど今日の俺は、それを受け止めきれずに黙ってしまった。あの沈黙が、彼の中の影を濃くしたんじゃないか――そんな気がしてならない。 窓の外、遠くで電車が通り過ぎる音がする。本来なら心を落ち着けてくれるはずなのに、今夜は逆に胸の奥をざわつかせるだけだった。(ぐだぐだ考えてもしょうがない……明日、ちゃんと話そう) そう決めてスマホを机に置く。ベッドに横たわっても、天井の木目が線となって眼に焼きつき、何度も数え直してはため息が漏れる。そのたびに時計の針の音が耳に刺さり、眠りの扉はどんどん遠ざかっていった。 翌朝、いつもより早く家を出た。眠れなかったせいであくびが止まらない。まだ夜の冷たさを僅かに残した空気が、肺の奥まで刺さるように入り込む。 校門に近づくと、すでに氷室がいた。門柱にもたれ、スマホをぼんやり見つめる氷室の顔は、まぶたの下に薄い影を宿したものだった。夜を越えても休めなかった証のように見えて、胸がひどく締めつけられる。「蓮……おはよう」 俺の声に、氷室は反射的に顔を上げる。いつもどおりの笑み――そう見えた。だが目の奥には、薄い膜のような硬さが残っている。「おはよう。早いな」 「なんか……眠れなくて」 他愛のない会話を交わしながら、並んで昇降口へ向かう。手を伸ばせば届く距離なのに、その間に透明で冷たい壁が立ちはだかっているようだった。 靴を履き替えるとき、氷室がふと俺を見た。その視線とぶつかった瞬間、昨日の影

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