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#1

Penulis: 七賀ごふん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-26 11:35:20

屈辱。

なんて便利な言葉だ。継美さんに再会してからの全ては、この一言に集約されている。

だが心情はどうであれ、現実は残酷だ。

「崔本、お前図書委員だろ。悪いけどこの本、図書室に運ぶの手伝ってくれないか」

放課後、やっと帰れると思って鞄を持った直後に怨敵の継美さんに話しかけられた。

いや、名前を呼ぶのも腹立たしい。梼原だ。梼原のドS野郎だ。

「わっ、すごいたくさんありますねー。これ一架に持てんのかな?」

こいつめっちゃ細いし、と近くに居たクラスメイトが一架の肩に手を乗せて笑った。それを聞き、頼んだ継美も眉を下げる。

「あぁ、確かに。崔本にはちょっときついかな?」

彼の、心配してますみたいな困り顔が本気でうざい。

馬鹿にしやがって。けどムカついてるのを悟られないよう、本が大量に入ったダンボール箱を持ち上げた。

「図書室で良いんですね?」

「おぉ、ありがとう。俺もひとつ持っていくから」

彼が残りの一箱を持ち、二人で教室を出た。

……あれ!?

廊下を歩きながら思ったことがある。

二人きりになっちゃった!

手伝うって言った時点でこうなることは分かるはずなのに、馬鹿過ぎる。

気まずさで死ねそうだけど、特に会話もなく図書室に着いた。部屋の中には誰もいなかった。

「そこに置いてくれ。先生達が必要で借りてた資料だからカードとか確認しなくていいぞ」

とりあえず言う通りの場所に置き、一息ついた。やっぱり結構重くて、両手をブラブラと揺らす。

「重かった?」

「別に」

一架がぶっきらぼうに言い放つと、継美はテーブルに寄りかかって苦笑した。

「素直じゃないな。……まぁ、助かったよ。お疲れ様」

ポン、と頭の上に手を置かれる。俺達以外誰もいないとはいえ、それなりに慌てて手を振り払った。

「触らないで」

「えぇ? 昨日はすごいところ触らせてくれたくせに」

「無理やりだろ! セクハラ教師!」

思ったより大きな声で叫んでしまい、口元を手で覆う。

「何気にしてんだ? 誰かに聞かれた方がお前は都合が良いんだろ」

「ほんと何がしたいわけ……」

彼の考えてることが本気で分からなくて、若干恐怖心が募る。怖々問い掛けると、彼は顎に手を当てて瞼を伏せた。

「したい事ねぇ……」

待ってみるも明瞭な答えは返ってこない。そのまま、彼は本の片付けに取り掛かってしまった。

「継美さんて、教師になりたかったから役者の道は進まなかったの?」

「ん~。教員に拘ってたわけじゃないけど、とにかく他のことを勉強したかった。お前もだろ? だから受験を機に引退した」

「あいにく俺は勉強は大っ嫌いだよ。仕事しながら学校通うのがウンザリだっただけだ。だから進学もしない! 卒業後はテキトーに就職して自由に暮らすんだ」

一架は腕を組み、滔々と願望を述べた。それに対し、継美はため息まじりに彼を見返す。

「就職が悪いわけじゃないけど。お前は成績だけは良いのに、勿体ないな」

“だけ”って何だ。

またも怒りのスイッチが押されかけたが、思った以上に作業に集中していたため口を噤む。

取り繕う必要はないと分かっているけど、彼を相手にすると冷静でいられない。すぐに頭に血が上るのが難点だ。

……絶対近いうちに復讐してやりたいけど。

「継美さんは今付き合ってる相手いないの?」

「学校なんだから一応先生って呼べよ。恋人は別にいないけど」

「ふーん。……フリーなんだ」

朝の柊との会話を思い出す。

彼はイケメンだから、性別問わず相手には困らなそうだが……たまたま今恋人がいないだけなんだろうか。

でもこの人は性格と性癖に難があるし、恋人ができてもすぐに別れてるのかもしれない。

「なるほどね~。でもいないならたまってんじゃない? 昨日俺に手出してきたぐらいだし」

あえてその件に触れるのはかなりの勇気が必要だったが、彼を誘導する為に頑張った。 

「もし良かったら誰か紹介するよ。顔が良くて俺の言うこと聞いてくれる知り合いならいっぱいいるから」

これに彼が乗れば、俺の復讐の計画が一歩前へ進む。と思ったのだが、返ってきたのは存外素っ気ない答えだった。

「……せっかくだけど、困ってないから大丈夫だよ。昨日のは単純に、成長したお前の反応を見たかっただけだから」

マジか。

「でもまさか、ちょっと弄っただけであんなビンビンに感じちゃう身体に成長したなんてね。感心したよ」

継美は全ての本を棚に仕舞うと、クラスメイトに向けていたものと同じ笑顔を浮かべた。

「それがどうかした?」

「どっ……どうか…って……どうかと思う。どうかしてるよ……」

ぶっちゃけ、どう返したらいいか分からない。

俺は棚の本を仕舞ったり取り出したりの混乱状態に陥った。

目の前の青年の底が分からない。得体の知れないものに遭遇してしまったような焦りと恐怖に支配された。

「確かにどうかしてるな。でもお互いさまだろ」

「は……?」

顔に大きな影がかかり、視界が暗くなる。俺が取り出したはずの本が、無理やり棚の奥に仕舞われる様を見た。

「自分じゃ全然気付いてないみたいだけど。お前、昔よりずっとおかしくなってるぞ」

本棚の間は虚しい空気が流れている。放課後の図書室では、自分達の声だけが反響していた。気付けば昨日とまるで同じシチュエーションだ。

本棚に背を預け、目の前の青年を見上げる。

「その視姦趣味。治るか、悪化するか……気になってたけど、間違いなく悪化してるな」

形を確かめるように、唇を指でなぞられる。指の腹だからか、思ったより柔らかくてドキッとする。

「それとも俺が悪化させちゃったか」

「……っ」

今よりずっと昔。他ならない彼のセックスを見てから、俺は自分の異常な性癖を自覚した。

優しくて憧れの先輩でもあった青年が、男と抱き合っているところを見てしまった。今思えば確かにショックだったのかもしれない。

理性を保つ為に、俺はなにかで蓋をした。

「違う……」

勝手な思い込みや想像も手を貸したんだろう。

あれはキッカケでしかない。それにハマるかハマらないかは、結局自身の問題だ。

俺は他人の性行為を見ることに興奮を覚える人間だったんだ。

────それなのに、彼のことをまともに見られない。

「お前はひねくれてるから本当のことは言わないだろ。直接確かめようか」

「ん……!」

唇を塞がれ、熱い吐息がかかる。あまり聞き慣れない音と感覚。

その前に、俺キス初めてだった……。

「やっ……」

おかしい。

お互い、好きなんかじゃないのに。キスなんてすべきじゃない。したくない。

けど逃げようとしても両サイドを腕で塞がれ、唇を無理やり重ねられる。大した抵抗もできずに時間は流れ、口腔内は溶けていく一方だった。

「もっと大声で名前呼んでよ。……昨日みたいに」

後頭部に手を添えられ、無造作に髪を撫でられる。

「一架」

「……っ!」

こっちはこっちで、名前を呼ばないでほしい。そんな優しい声と顔で見つめられたら……訳が分からなくなる。 

「キス、もっとしたいけど。……誰か来るから」

少し赤くなった彼の唇が離れる。熱い。もしかしたら顔は真っ赤かもしれない。ちょっと心配になりながら、口元を隠す。

「また今度続きしような」

「え」

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  • Dress Circle   #1

    屈辱。なんて便利な言葉だ。継美さんに再会してからの全ては、この一言に集約されている。だが心情はどうであれ、現実は残酷だ。「崔本、お前図書委員だろ。悪いけどこの本、図書室に運ぶの手伝ってくれないか」放課後、やっと帰れると思って鞄を持った直後に怨敵の継美さんに話しかけられた。いや、名前を呼ぶのも腹立たしい。梼原だ。梼原のドS野郎だ。「わっ、すごいたくさんありますねー。これ一架に持てんのかな?」こいつめっちゃ細いし、と近くに居たクラスメイトが一架の肩に手を乗せて笑った。それを聞き、頼んだ継美も眉を下げる。「あぁ、確かに。崔本にはちょっときついかな?」彼の、心配してますみたいな困り顔が本気でうざい。馬鹿にしやがって。けどムカついてるのを悟られないよう、本が大量に入ったダンボール箱を持ち上げた。「図書室で良いんですね?」「おぉ、ありがとう。俺もひとつ持っていくから」彼が残りの一箱を持ち、二人で教室を出た。……あれ!?廊下を歩きながら思ったことがある。二人きりになっちゃった!手伝うって言った時点でこうなることは分かるはずなのに、馬鹿過ぎる。気まずさで死ねそうだけど、特に会話もなく図書室に着いた。部屋の中には誰もいなかった。「そこに置いてくれ。先生達が必要で借りてた資料だからカードとか確認しなくていいぞ」とりあえず言う通りの場所に置き、一息ついた。やっぱり結構重くて、両手をブラブラと揺らす。「重かった?」「別に」一架がぶっきらぼうに言い放つと、継美はテーブルに寄りかかって苦笑した。「素直じゃないな。……まぁ、助かったよ。お疲れ様」ポン、と頭の上に手を置かれる。俺達以外誰もいないとはいえ、それなりに慌てて手を振り払った。「触らないで」「えぇ? 昨日はすごいところ触らせてくれたくせに」「無理やりだろ! セクハラ教師!」思ったより大きな声で叫んでしまい、口元を手で覆う。「何気にしてんだ? 誰かに聞かれた方がお前は都合が良いんだろ」「ほんと何がしたいわけ……」彼の考えてることが本気で分からなくて、若干恐怖心が募る。怖々問い掛けると、彼は顎に手を当てて瞼を伏せた。「したい事ねぇ……」待ってみるも明瞭な答えは返ってこない。そのまま、彼は本の片付けに取り掛かってしまった。「継美さんて、教師になりたかったから役者の道は進まな

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