自分の性癖が異常なものだと分かっている。これはどんなに隠しても醜く滲み出てしまうものなんだ。『一架。……もしかして見てた?』遠い記憶。あの人の声が反響している。『俺達が“してる”ところを……』本当は思い出したくない。“あれ”は消し去りたい記憶だ。まだ小学生のとき、他人がセックスしている姿を目撃した。それを機に自分の異常な性癖に気付てしまった。驚きや嫌悪より興奮の方が遥かに勝っている。俺は他人のセックスを視ることでしか欲情できない人間だった。◇崔本一架《さいもといちか》、十七歳。私立の男子校に通う高校二年生。中学まで子役として芸能事務所に所属していたが、今は引退してごく普通の高校生活を送っている。「一架、おはよ!」「おはよう」学校では基本真面目な優等生を演じ、大人しく過ごしている。学校は好きでも嫌いでもない。常に成績上位の為テスト前は必ずクラスメイトに引っ張りだこだ。頼りにされるのは素直に気持ちが良い。だから断ることもせず、優しい微笑みを貼り付けている。「ごめん崔本、この問題がどうしても分かんないんだけど……」「どれどれ……あぁ、これはここをこうして……」教えて、それで喜んでくれるならいくらでも力になってやりたいぐらいだ。「なるほど、サンキュー! やっぱお前すげーな!」一生懸命なクラスメイトといると癒される、というか心が洗われる。俺とは違って本当に純粋なんだな、と思う。「勉強もスポーツもできて、クラス一面倒見がいい! 一架は最強のイケメンだよ!」「ははっ、褒めすぎだよ。決して間違いではないけど」そうそう、俺が子役のオーディションに合格したのも、この容姿と全くの無関係とは言いきれない。俺はどうも一部の人を惹き付けてしまう美貌の持ち主らしい。「はぁ、イケメンで勉強もできるなんて不公平だよな。外でお前のことガン見してる女子とか見つけると、マジで羨ましいわ~」「褒めすぎだね、間違いではないけど。……でも俺は俺で不安な時があるんだ。俺のルックスに嫉妬した男子諸君が襲って来ないかって」「大丈夫だよ。お前ほど完璧な奴だと逆に手が出せないって」「そうかな……。それならいいんだけど……」学校に限らず、俺はどこを歩いても見られている。それを自信過剰と呼ぶ友達もいれば、自意識過剰と呼ぶ友達もいる。「あ、崔本だ。今日も爽やかだな
Last Updated : 2025-09-09 Read more