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第48話:魂の痛み

작가: 渡瀬藍兵
last update 최신 업데이트: 2025-08-04 11:35:00

「ふふふ……!!!では早速、お楽しみの時間と参りましょうかぁ」

男は、壁にかかった黒光りする革の鞭を、愛おしそうに手に取った。

そして、鉄格子を開け、ゆっくりと牢屋の中へ入ってくる。

まだ、距離はある。

でも、私がこの痛みに耐えていれば、この男はきっと、その醜悪な笑みを浮かべたまま、すぐ傍まで寄ってくるはずだ。

その時が、好機。

その瞬間、エレンが確実にこの人を捕まえる。

だから……それまで耐えれば……!

「ではぁ……早速、一発目ぇぇぇ!!!!」

ヒュッ、と空気を切り裂く鋭い音。

鞭がしなり、私の脇腹へと……灼熱の鉄棒のように吸い込まれた。

びちゃり、と肉が濡れて弾ける、生々しい音が響く。

「あぁぁぁあ"っ……!!!!」

(っ!!エレナ……!!)

「あっはっはっはっ!!!!!なんと良い悲鳴なんだぁ!!!」

思考が、焼ける。

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い――!

皮膚が裂け、肉が抉られ、魂が直接引きずり出されるような、そんな痛み……!熱い血が、傷口から溢れ出て、肌を伝っていくのが分かる。

「はぁっ、はぁっ……!! うーん!! まだまだ行きますよぉ!!!!!」

「それぇ!!! 二発目ぇぇぇ!!!」

今度は、胸部への直撃。

ごふっ、と肺から空気が無理やり押し出される。

「っ……あ"ぁあ!!」

視界が、赤と黒に点滅する。

想像を絶する痛みに、私の意識はもう、ぷつりと切れそうになっていた。

(エレナ……! エレナ……!!)

エレンの必死な声が、遠くで聞こえる。

「だ……い…………じょう……ぶ……」

「おぉ!? なんという強い精神力!!!! ふむ……しかし、やりすぎて早く壊れてしまったら、楽しみが無くなってしまいますからねぇ……」

男は心底残念そうに肩をすくめると、牢屋の出口へと向かう。

「また来ます。楽しみにしていてくださいねぇ」

(覚えているがいい……!!!! 貴様には二度と同じような生活を出来なくしてやる!!!!)

エレンの、静かで底なしの怒りが響いた。

でも、その声を最後に、私はあまりの激痛に、糸が切れたように意識を手放してしまった。

***

「う……うぅ……」

(っ……! エレナ……! 大丈夫か!?)

(うん……なんとか……。でも……出血が酷い……治療しなくちゃ……)

私は、鎖に繋がれたままの両腕で、胸と脇腹に必死に癒しの光を灯す。

聖なる光が、裂けた傷口を内側から焼き、清める。その神聖な激痛に、食いしばった歯が軋んだ。

(エレナ……無茶だ。これは、歴戦の戦士でさえ屈服するほどの拷問だぞ……)

(……でも…あの人を、絶対に捕まえないと……)

(私がそんなヘマをすると思うか!?)

珍しく、エレンが声を荒らげた。

でも、それだけじゃないんだ。

私は、未来の聖女として……こんな卑劣な場所に、こんな人に、負けたくなかった。

意地っ張り、と言われてしまうかもしれない。

でも、これだけは、譲れない。

(うん……エレンの事は、信じてるよ。でも……ごめんね……。私が、こんな場所に、こんな人に……負けたくないんだ)

(エレナ……! 身体の傷は癒せても、魂に刻まれた傷は癒す事ができない! だから…! 私と変わるんだ……!)

(……ごめんね、エレン。今回は、譲れないの。この痛みを、知らないままでいたくないの。ソウコ君が味わった恐怖を、同じ場所で感じて、その上で……彼を救いたい。そうじゃなきゃ、私にこの都市の闇を暴く資格なんて……無いと思うから……)

(…………!)

傷を癒したら、また、意識がふわふわとしてきた……。

でも……弱虫な私が、あんな痛い思いを二回も耐えることができた。

それって……少しは、成長、できてるのかな……。

***

きぃぃ……。

また、あの扉が開く音が聞こえた。

そして、

「三発目ぇぇぇえ!!!」

「あ"ぁ"ぁぁぁぁ……!!!」

朦朧とした意識の中、癒えかけた傷口を再び抉られる、絶望的な痛み。

胃の底から、酸っぱいものがせりあがってくる。

「本当に素敵な声だぁ……。貴女は、私の最高の玩具ですよぉ……」

(貴様っ……!!!!!!!!!)

「では……四発目ぇぇぇえ!!!!!」

「い"や"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

もう……限界だった。

たったの四発。

それなのに。

私の心は、もう無理だと悲鳴を上げている。

身体が、これ以上は耐えられないと叫んでいる。

情けない……。

自分が、情けなくて……しょうがない。

ごめんなさい。ごめんなさい、エレン。

また、私は、痛みという深い海の底へ、沈んでいった。

***

まただ……また、気絶してしまっていた……。

鉄格子の向こうは、もう真っ暗だった。冷たい夜気が、傷口に染みて痛む。

「陽は……もう落ちてるよね……」

(エレナ……君は、強くなった)

エレンの声が、静かに響く。

(……どうしたの……?)

(だから……すまない。これ以上は、もう見ていられない)

その、静かな怒りに満ちた声が、私の魂を震わせた。

そんな会話を心の中でしていると、また、あの男が訪れた。

「おはようございます。今日だけでこんなに楽しめるとはねぇ……貴女には感謝してもし切れませんとも……」

男は、再びあの黒い鞭を手に取る。

「ひっ……」

「おやおやぁ!? 流石に五発目の痛みには、耐えられなさそうですかねぇ!!」

条件反射だった。

頭では好機だと理解しているのに、鞭の記憶が刻まれた身体が、鉛のように動かない。

男の顔が、興奮に赤く染まる。その醜悪な笑みで、私の全身を舐め回すように、視線を送ってきた。

「失礼しますよぉ……」

男がまた、檻の中へと入ってくる。

そして……近い。

この人はもう……完全に、油断している。

好機だ。

そう、思った瞬間だった。

私の魂の奥底で、何かが静かに、けれど決定的に、壊れる音がした。

それは、エレンが保っていた、最後の理性の楔が砕け散る音だった。

今までとは違う。

これは、合意の上での交代じゃない。

私の魂ごと奥底に押し込めるような、圧倒的な――怒りの奔流が、その身の主導権を奪い取った。

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