LOGIN翌朝。
昨夜の魔物襲撃を切り抜けた一行は、それぞれの部屋で体を休めていた。本来であれば夜明けと共に出立するはずだった予定は白紙に戻され、各々が静養に充てる一日へと組み替えられている。 宿の最上階。 厚い羽毛に沈むような、最高級のベッド。その上で、エレナが小さく身じろぎした。 「んん……っ」 上体を起こし、背を伸ばす。ゆるんだ寝巻の裾がわずかに持ち上がり、可愛らしい|臍《へそ》が朝の光にちらりと覗いた。 「はぁ……」 漏れたのは、ほどけた息。 『おはよう、エレナ』 「おはよ、エレン」 『よく眠れたか?』 「うん、かなりね。でも、よかったぁ……。正直、体の疲れは感じてたからさ」 窓の外では、もう街の朝が始まっていた。荷車の車輪が石畳を擦る音。パン屋の釜に薪を足す音。昨夜の騒ぎが嘘だったかのように、街はいつもの顔を取り戻しつつある。 『シイナの心遣いに感謝せねばな』 「そうだね」 魔物襲撃のあと、疲労の滲むエレナの様子を真っ先に察したのはシイナだった。 予定を一日ずらしましょう――そう提案したときの声音には、研究者の冷静さと、仲間への気遣いとが自然に同居していた。 『ところで……シイナとミストは、今頃なにをしているんだろうな』 エレナは目を見開いた。 エレンが他人の動向を気にすること自体、そもそも珍しい。戦いの間合いや気配には誰よりも鋭いくせに、日常で誰が何をしているかについては、普段ほとんど関心を示さない男だった。 「エレンが二人の動向を気にするなんて……どうしたの?」 『エレナも見ただろう。リ・ポーションを受け取った時の、あの二人の様子を』 言われて、昨夜の一場面が鮮明に戻ってくる。 シイナは、表向きには平静だった。受け取る手つきも丁寧で、口調も崩さない。だが、瓶を指先に収めるまでの一瞬。その切れ長の瞳に、研究者の熱が走ったのをエレナは見ていた。 肩は落ち着いている。けれど、指だけがわずかに早い。 ミストのほうは、もっと分かりやすかった。 差し出された瓶へ向ける視線は、欲しい、の一点に絞られていた。指先までうっすら汗ばんでいて、瓶を受け取った瞬間、手のひらに残った熱で硝子が一瞬曇ったほどだった。 「うん、はっきりと見た」 エレナは頷く。 リ・ポーション。 それは、ただ珍しい薬という言葉だけでは片づけられない代物だった。 ポーション。かつてこの世界に存在していた、完全なる治癒の秘薬。傷を塞ぎ、失われた血を戻し、砕けた骨さえ元の形へ導いたとされる、古き時代の技術の結晶である。 現代において、それはほとんど伝説に近い。 この世界で治癒薬の頂点に置かれている名は、ただひとつ。ポーション。その一語だけだった。 『ポーション。かつてこの世界に存在していたもののはずだが……それを再現することが、非常に難しいらしい』 「……そうだね。昔の時代って、どんなだったんだろう」 エレナはベッドの上で膝を抱え、窓のほうへ視線を向けた。 「魔法と呼ばれた力。今の属性とは異なる、高位の奇跡……。それに、完全に傷を癒すポーション。本にはたくさん書いてあるのに、それを今の私たちは再現できないなんて」 古い文献には、今では御伽話めいて聞こえる記述がいくつも残されている。 かつて世界がマギアに覆われた時代。魔力の素となる粒子に適応した人々は、現在の属性とは異なる力を手にしたという。 魔法。 今よりも自由で、今よりも広く、まるで世界そのものへ直接命じるような力。 だが、時代は移ろった。 人々の体内に宿る魔力そのものは消えなかった。けれど、その扱い方だけが長い年月の中で形を変えていく。人の身体は魔力に慣れ、力はより扱いやすく、より限定されたものへと変質していった。 それが、現在の属性。 人が一つの性質と結びつき、その範囲で力を振るう時代。 進化と呼べば、そうなのかもしれない。だが古き魔法を知る文献の中では、それはしばしば別の言葉で記されていた。 弱体化、と。 「……よし。見に行ってみよう!」 エレナは小さく拳を握り、勢いよくベッドから降りた。 『そうだな。私も奴らの様子は気になる』 その言葉に背を押されるように、エレナは寝巻きの裾へ手をかけた。 柔らかな布が肩を滑り、白い肌の上をするりと落ちていく。寝巻きは床に触れる前に両手で受け止められ、エレナはそれを丁寧に畳むと、ふかふかのベッドの端へそっと置いた。 下着姿になった身体は、朝の光を受けていつもより少し無防備に見えた。 肩から腕へ流れる細い線。腰のあたりで控えめに締まる輪郭。何より、布に隠されていない腹部が、鏡の中ではっきりと映っている。 小さく、丸みのある臍。 寝起きの柔らかな肌の真ん中で、それは隠れることなく、くっきりと覗いていた。 エレナはコートを取ろうとして、鏡の前を通り過ぎ――そこで、ぴたりと止まった。 「ううっ……」 視線が、鏡の中の自分のお腹へ吸い寄せられる。 そろそろと片手を伸ばし、腹部の横を恐る恐るつまんだ。ほんの少し。けれど、指先に摘まめてしまったその感触が、現実を遠慮なく突きつけてくる。 (やっぱり……! 少し……太ってる……!!) 鏡の中のエレナが、見るからにしゅんと肩を落とした。 思い出すのは、接続者選抜戦のあとのこと。頑張ったエレンへのご褒美として、エレナはピザを許した。許したのだ。心から。 けれど、その結果。 三枚。 焼きたての香ばしい生地に、とろけるチーズ。具材の香り。止まらない手。嬉しそうなエレン。止めきれなかった自分。 (流石に三枚も食べたら……こうなるよね……) エレナはもう一度だけ、自分の臍と、その周りを見下ろした。 そして、すぐに顔を上げる。 これ以上見てはいけない。 そんな決意だけは妙に早かった。 エレナは現実から目を逸らすように、慌ただしく服へ袖を通していく。聖衣の布が腹部を覆い、コートが肩にかかる頃には、鏡の中の無防備な姿もすっかり隠れていた。 最後に髪を軽く整え、エレナはぱたぱたと扉へ向かう。 着替えを済ませた彼女は、そのまま自室を飛び出した。 廊下には、朝の宿らしい静けさが薄く広がっている。 その中を、エレナはシイナたちの元へと向かっていった。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ