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第49話:報復

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-05 11:30:00

──────

エレンの視点

──────

世界が、反転する。

エレナの悲鳴を最後に、彼女の意識が闇に落ちる。入れ替わりに、この身の主導権を握った俺の五感を、灼けつくような激痛が貫いた。だが、それすらも些事だ。魂の底から溢れ出す、この怒りに比べれば。

目の前の男が、まだ下卑た笑みを浮かべている。

この子の痛みも、恐怖も、尊厳も、全てを玩具として弄んだ、屑。

「よくも……よくも、やってくれたな……!!!」

俺の口から漏れたのは、エレナのものではない、低く、地の底から響くような声。

「へっ?」

男が、間抜けな声を上げる。

思考より先に、右腕が動いた。

対魔人用の鎖がじゃらりと音を立て、男の喉元を鷲掴みにする。

「ぐっ!!!」

「黙れ。喋るな……!!」

指に力を込める。

「……貴様の声は、虫唾が走る……!!」

男の顔がみるみる青ざめ、白目を剥き、ひくひくと痙攣を始める。

だが、この程度の苦しみで、エレナが受けた痛みの代価になるものか。

「この程度で気絶することなど……!!! 許さん!!!!」

俺は掴んだ男の頭を、そのまま背後の石壁へと、力任せに叩きつけた。

ゴッ!!!!

肉が潰れる音と、石が砕ける、凄まじい重低音が牢に響き渡る。

「か……ぺ……っ」

男が崩れ落ちると同時、鎖が繋がれていた壁の留め具が、衝撃で砕け散っていた。

「ちっ……。俺の身でさえ、これほどの痛みか……」

エレナが耐えた痛みが、時間差で俺の全身を苛む。

だが、それすらも、腹の底で煮えくり返る怒りの、薪にしかならない。

片腕の自由を得た今、もう片方の枷など飾りにもならん。

手枷の、僅かな隙間に指をかけ、捻る。

カチン、と乾いた音がして、俺を縛っていた最後の枷が、床に落ちた。

さあ。これで、自由の身だ。

「おい。起きろ、屑」

床に転がり、顔面を血でぐしゃぐしゃにした男は、ぴくりとも動かない。

俺は、その腹部へ、容赦なく強烈な蹴りを叩き込んだ。

「ぐぁぁぁっ……!!」

ヒュー……ヒューと、呼吸もままならない様子で、男は俺を怯えた瞳で見上げる。

その目に浮かぶのは、純粋な恐怖。獲物を見る目から、捕食者を見る目に変わっていた。

俺は、奴が使っていた鞭を拾い上げる。

男の顔が、さらに恐怖で歪んでいく。

だが、俺に躊躇いはない。

思い切り、鞭を振り下ろした。

ヒュッ、と空気が悲鳴を上げる。

そして、

びちゃり、と、先程までこの身を苛んだ音と全く同じ音が、今度は男の身体から響いた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

男の絶叫が、血飛沫とともに、薄暗い牢獄に木霊した。

「ま、待ってください……!!」

「命乞いなど、無駄だ」

俺は再び、男の首を鷲掴みにして、その背中を壁に叩きつけた。

「がはっ…………!」

男の身体が、魚のようにびくんびくんと痙攣している。

そんな時だった。

ガチャリ、と扉が開く音がした。

「な、なんの音だ!!?」

入ってきたのは、六人ほどの研究員らしき者たち。彼らは、牢の中の惨状と、血塗れの俺を見ると、その顔を恐怖に歪ませた。

「うっ……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

蜘蛛の子を散らすように、悲鳴を上げて逃げ去っていく。

(エレナ……)

呼び掛けるも、返答はない。

度重なる痛みと、俺の怒りの奔流に当てられて、今は深い眠りについているようだ。

「これ以上は……死ぬか」

足元に転がり、ピクピクと痙攣を続ける男を見下ろす。

恐らく、背骨は砕け、頭蓋も陥没しているだろう。腹部に与えた一撃で、内臓も無事ではあるまい。

そして、あの鞭によって刻まれた傷は、エレナの聖魔法でさえ、完全には癒せないはずだ。

この男はもう、二度と元の生活には戻れない。

だが、それでも尚、俺の……エレナを傷付けられたという怒りが、収まる様子はなかった。

「……ひとまず、あの少年も囚われている筈だ…。助けに行くか」

俺は、エレナの痛む体を労りながらも、その場から駆け出した。

***

『警告。特別監査房S-01より脱獄者。繰り返す、特別監査房S-01より脱獄者。発見次第、捕縛、または“処分”せよ』

無機質なアナウンスが、施設全体に響き渡る。

これは恐らく、俺の事だろうな。

「見つけたぞ!!!」

「捕まえろ!!!」

通路の先から現れた傭兵や研究員たちが、俺を指さして叫ぶ。

「容易く気絶させてもらえると……思うなよ」

***

グシャッ!!!

鈍い、肉が潰れる音。

俺の踵が、研究員の一人の右腕を、骨ごと踏み砕いた音だ。

辺りを見渡せば、瀕死で虫の息の研究員たちが、血の海に転がっている。

「殺しは……しない」

本当は、殺してやりたかった。

だが、この身体は……エレナのものだ。

この身体で殺戮を犯せば、彼女の魂ごと穢してしまう。

今、この時ほど、俺自身の身体が欲しいと思ったことはない。

それ程に、エレナを傷つけられた怒りは、凄まじかったのだ。

そして、何より……俺は、俺自身を許せずにいた。

俺の、判断ミスだ。

あの時、あの少年と合流した時点で、あの二人を排除すべきだった。エレナという人間の、自己犠牲の精神を、俺は甘く見ていた。

この責任は、俺が取る。

「こっちだ!!」

己が何に加担しているのか、こいつらは理解しているのか?

いや……だが、そんなものはどうでもいい。

俺は、この身に迫る危険を、ただ、排除するのみだ。

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